7月の社内会議のことだ。年商20億の子会社から資金を工面して欲しいと話があった。その役員の主張はこうだ。「4月は3000万円の赤字でしたが、改善のかいもあり5月は2000万円の赤字、6月は1600万円の赤字まで減らすことができました。しかしどうにも資金がたりません。3000万円の資金を貸して頂けないでしょうか。」
このような相談をされた時、皆さんはどうしますか? 俺の答えは「貸さない。バカたれ」である。本人達は赤字を3000万円から1600万円の半分にすることができたと努力を主張しているが、そもそも1カ月で1600万円も赤字を出しているのだから、今資金を貸したとしてもこの先経営を続けられるとは思えない。わずか30分、1時間の経営会議で頭を下げれば3000万円、5000万円の金が入ると思っているなら経営を甘くみているよ。もう一度、銀行に行って頭を下げて借りてこい。その銀行がダメならまた別のところに行って頭を下げて借りてくる。そして次は払うべき金を全部止める。仕入れ先に300万円払わないといけないなら、10万円、20万円だけ持って「これで勘弁してくれ」と頭を下げ、残りは繰り延べしてもらう。家賃も同じ。この時に大事なことは社長が頭を下げに行くことだ。そして取引先にも支払ができないのだから消費税、社会保険、水道代、電気代は当然支払わない。社員の95%は自宅待機にして休業補償にする。「5月の赤字は1000万円でしたが、自粛要請が解禁されたので、人権費が増えて赤字が1200万円になりました」となる飲食店もあるが、マイナスを減らさないといけない時期になんで赤字が増えるんだよ。中途半端に出勤なんかさせないで、ギリギリの人数で店を回すための工夫をする。料理長だって料理出来たら終わりじゃなくて、少ないホールスタッフに変わってテーブルに持っていくんだよ。
銀行を回って頭を下げて下げまくって金を借りてくる、取引会社にも頭を下げて恥を忍んで支払いを延ばしてもらう。店が潰れそうなこの時に、社長をはじめ幹部が何としてでも乗り切ろうとする意気込みがないのなら、俺は応援することはしない。このM&Aは失敗だったと思って廃業にする。お互いそれだけの覚悟で取り組まなければ現状は打破できない。
取引先には会社に乗り込まれるまで支払いを止めると決めた
25年前の12月28日。年末休暇の前日に社員を集めて解散式をした。当時経営していた洗浄機の会社は業績悪化で1月末には完全に支払いができなくなっており、大口の銀行や取引先への支払いは全部止めて、大田区の中小零細企業だけには払えるように現金を置いておくので精一杯だったのだ。来月から社員の給料も払うことができない状況だった。「もう出勤はしないで」と伝えて解散式を終えた。
しかし年が明けて会社に行くと社員34人が出勤している。「話を聞いていなかったのか、もう給料は払えないよ」そう伝えたが、次の日もその次の日も彼らは仕事に来た。給料は払えない、社会保障も家賃も何も払えない。ところが1月下旬に銀行から担保の見直しとのことで2500万円が返ってきた。思いもよらない収入だったが、そのお金はいよいよ取引先から回収に乗り込まれた時に、乗り込まれた順番に払っていこうと決め、そのお金には手を付けないことにした。そのため2月も社員の給料は無かった。しかし3月中旬に、テンポスバスターズ1号店(テンポス法人設立前に開店していた店舗)がテレビで紹介されると、翌日の売上が1080万円に跳ね上がった。次の日も1000万円近くを売上げた。在庫のほとんどが売約済みになっていた。そのため、1月の担保の返金2500万円と2月のテンポスの売上2000万円、計4500万円が3月に入ってきた。そこで、1月から給料を払っていなかった社員にまずは1ヵ月分だけ給料を払った。そして大家にも1ヵ月分だけ払った。とにかく3カ月止めていた支払を、それぞれ1ヵ月分ずつ頭を下げて払っていった。しかも幸運はまだ続く。廃業を覚悟していた洗浄機の会社が、3月は企業の決算月ということで、運よく売上が3000万円あがったのだ。これで1月2月3月のお金を合わせると全部で8000万円の現金になり、4月からは洗浄機の会社も黒字で経営できるまでに持ち直していった。
当時を振り返ると、あの時はたまたまテレビに出て、決算月で売上があがっただけで、回復の目途がたっていたわけではない。自分たちが生き抜いていくために必死だっただけだ。この経験から皆さんに伝えたいことは、このコロナを乗り切るためには義理を欠いてでも支払いを止める、取引先には菓子折りを持って払える金額2万円でも1万円でも持って「これで勘弁してください」と頭を下げる、恥を捨ててでも義理を欠いてでもやらなければならない時があるということだ。
取引先への支払を止めて裁判にされたらどうするんだって?
新型コロナ感染のワクチンがいつ出るかも分からない。そんな先行きが見えない中で、取引先への支払いを止めて裁判になったらどうするんだと言う人がいるが、裁判になったら受けて立つんだよ。それに、このご時世で、裁判所も大忙しなんだから来週すぐに裁判になるということはほとんどないよ。しかも結論が出るまでに1年はかかる。それよりも、なけなしのお金を家賃や取引先に支払うというのは絶対にやめたほうがいい。自分たちが生きるために必要な食材代だけは残しておいて、いよいよ廃業まできてしまったなら、今まで支払を減額してくれていた取引先や大家や1000円の菓子折りを持って「力尽きた、本当に申し訳ない」と言って1件ずつ回るんだ。その時、どれだけ支払い金額を止めていたのか心配する必要はない。払えるものがないのだからね。
だが、もし本当に店を潰さなくてはいけなくなったとき、「失敗したな」とは思っても、人生に失敗したわけではないのだから、自暴自棄になってはいけない。また飲食をやりたければ再出発すればいいし、どこかに勤めてもいいし、家族全員で手分けして働いてもいいのだから。店が潰れたくらいで悲壮がってはいけないよ。
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乙丸千夏(テンポス広報部)