新宿西口 思い出横丁のスタートは「宝来家」から

「横丁」ここ数年は、オリンピック開催に向けインバウンドで盛り上がっていた。その矢先の新型コロナウイルスの感染拡大。インバウンド需要が激減する一方で、若い世代の利用が増え始めているという。今回、戦後から続く新宿の「思い出横丁」と、今年新しくできた渋谷の「MIYASHITA PARK 渋谷横丁」を取材してきました。

Story01宝来家

「再開発に合わせた共存の道を進んでいきたい。今は火事が起これば建物の立て直しはできないし、次の日から職を無くす人が多数出てしまう。変化を恐れるのではなく、変化に対応した新しい思い出横丁を作り上げていきたい。」そう語るのは「宝来家」の金子栄二郎さん。

新宿駅西口にある「思い出横丁」の名物といえば「モツ焼き」だが、その名物の産みの親ともいえるのが、この横丁内で初めてモツ焼き店を出店した「宝来家(ほうらいや)」である。終戦後、小麦や米や肉は国から配給される食糧のため、それを民間企業が路面で販売することは厳しく規制されていた。

初代「宝来家」の店主もその一人で、商売は思うようにいかない日々が続いたという。そんな切羽詰まった状況の中、以前働いていた芝浦の卸市場に行くと、ホルモンを捨てている光景を目にした。「捨てるくらいなら売ってくれ」そう交渉し、モツを山盛りに詰め込んだ一斗缶を担いで、それを屋台で売り始めた。食糧難の時代に初めて食べるホルモンに大衆は「まるで肉だ」と大反響。またたくまに大繁盛店へとなった。それからモツ焼き屋を始める店が増えたことで、今もなお、ここ「思い出横丁」はモツ焼き、焼き鳥を出す店が多い横丁となっている。

宝来家 初代

現在の宝来家を切り盛りする3代目の金子さんは、「思い出横丁」の町会をまとめる新宿西口商店街振興組合の理事も務めている。新型コロナ感染拡大の中、横丁内のオーナー同士で助成金や区の規制緩和条例などの情報交換をするまとめ役も買って出た。新宿区が区道での飲食の規制緩和を発表すると、金子さんはすぐさま申請に走る。区道でテーブルや椅子が置けるのは店前から60cm以内まで。椅子も2席ほどしか置けないスペースだが、この閑散とした時期に、店前でビールをグビリと飲むお客さんの姿は、どんな宣伝媒体よりも効果は高いようだ。

宝来家3代目 金子さん

現在、来店するお客さんのほとんどは20代、30代の若者だ。そのため6月からドリンク1杯と人気メニュー1品のセットメニューの提供を始めた。価格はコロナにちなんで、567円。

「ビールとモツ焼きセット、ビールとモツ煮込みセットというように、ドリンクに人気メニューをセットにして提供しています。正直、利益はほとんどありません。ただ若いお客さんたちを見ていると1000円以内で軽く飲んで、お店をはしごするスタイルが多いんですよね。だから初めの一歩は、セットを注文してもらい、気に入ってもらえたら、もう1杯飲もう、あと1品食べてみよう、そこに繋げたいと考えています。」

しかし、状況は想像以上に深刻で、歌舞伎町での急速な感染拡大が報道されて以降、新宿への悪いイメージは払拭されないまま。宝来家も売り上げは前年比5割減がいまだに続いているという。年内には新型コロナの終息を見込んでいたが、それを来年の夏までの終息に軌道修正し経営方針を再度改めた。

「資金調達はいよいよ経営が危なくなるまで行わず、今は、マイナスをできるだけ減らす努力をする考えです。『新宿=感染が恐い』のイメージから早く脱却できると良いのですが・・・。今は横丁内で除菌活動を行うなど、できるだけお客さんが安心安全に食事をできるよう、できる限りのことをしていきたいと考えています。」と語る金子さんの力強い言葉と笑顔に迷いはない。

八新商事株式会社
専務取締役 金子栄二郎氏
主な店舗:家宝来/第二宝来家