問題社員を解雇することはできるのか? 解雇したいと思った時にやるべきことは3つ

1 事例

ー従業員Aさん

「またオーダーミスをしてしまいました。」

ー飲食店経営者Bさん

「以前からお願いしているとおり、オーダーの時はちゃんと確認をお願いします。」

ー従業員Aさん

「忙しくて忘れてしまうんですよね~。学校もサークル活動も忙しいですしね。」

ー飲食店経営者Bさん

「(心の声)Aさんには困った。何度も注意をしているのに全く改善しない。いきなり休むことも多いし、他のバイトの子からAさんへの不満も出ている。辞めてもらうことは出来ないだろうか・・?」

ミスが多い従業員を解雇できるか?

企業の労務管理に大きな影響を与えた「働き方改革」は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現等により、女性や高齢者等の多様な労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現し、生産性の向上につなげていこうとするものです。

しかし、同時に、少子高齢化の進行により労働人口が減少し、人手不足倒産が起こるほど超売り手市場の現在において、必ずしも多様な人材が確保できるとは限らず、今ある限られた人材一人一人の生産性の向上を目指す必要もあります。

そのようななか、従業員の一人が何度注意しても発注ミスをする、レジの入力ミスが多い等、従業員として求められる能力が不足しており、労働生産性の低かった場合、周りの従業員にも悪影響があり企業にとっては大きな問題です。

そのような場合、生産性を上げるためにもこの従業員を法的に有効に解雇することはできるのでしょうか。

解雇が無効となると〇〇〇万円!?

まず、現在の判例では、企業側が解雇の有効性を立証する責任があり、立証できなければ解雇は無効となります。

特に、今回の能力不足を理由とした解雇の場合は、解雇の有効性が極めて厳格に判断され、単にミスが多く能力が平均的水準に達していないだけでは不十分で、「労働能力が著しく劣って、指導を繰り返しても改善の見込みがなく、業務に支障が生じている」というところまで立証出来なければ解雇は無効となります。

もし解雇が無効とされると、例えば当該従業員の月給が20万円の場合、裁判で12ヶ月争った結果敗訴してしまうと、たとえ当該従業員がその間全く働いていなくても未払給与だけでも240万円を支払わなければなりません。もしこれに未払い残業代請求や慰謝料請求も加わると、さらに支払い金額が増えることになります。

辞めてもらう場合の正しい手順とは?

今回の場合、ミスが多いからといっていきなり当該従業員を解雇してしまうと裁判では高い確率で解雇は無効となります。

そこで、能力の不足する従業員に辞めてもらいたいと考えた場合は、以下のプロセスを踏んで、指導等を行っても改善せず、改善の見込みがないことを立証できるようにする必要があります。

①まずは、能力が不足している従業員に対しては、相当期間、指導や注意を行い、使用者として従業員の能力向上・改善のために努力を行います。その際のポイントは,指導等を行う際は文書やメールを使い指導等を行ったことを証拠化するようにし、指導等に対して従業員がいかなる反応をして、その後いかなる対応を行ったのかについて5W1Hを特定して記録します。また、単に指導等を行うのではなく,当該従業員の意見を聞きながら具体的な目標や改善項目の設定を行ったうえで指導等を行ってください。当該従業員自身に改善策を設定させて提出させることも有用です。なお、目標設定の際は、できれば数値等で具体的に表現することがポイントです。これらの指導等に関する証拠は、裁判となった際に裁判官に見せることを念頭において、事実関係を把握・理解しやすい内容となるように意識することが重要です。

②次に、指導等を相当な期間行っても改善しない場合、可能であれば配置転換や業務異動を行ってください。ただし、状況によっては配置転換等が不可能な場合もあり、その場合はそれらが行えなくてもやむを得ません。

③それでも改善がない場合、まずは退職勧奨を行い合意による退職を目指します。退職勧奨の際は、再就職のために退職までの勤務を免除する、再就職支援金等の名目で一定の金銭を支給する等の提案をする方法もあります。また、退職勧奨は基本的に自由に行うことが出来ますが、行う場所、時間、方法等を誤ると、退職勧奨自体が違法となり損害賠償の対象となることがあるのでご注意ください。退職勧奨に応じて自主的に退職しない場合には、最終的に解雇を実行することになります。

このように、裁判所は上記のようなプロセスを重視する傾向がありますので、解雇が無効とならないためにはこれらを一つ一つ丁寧に実施していくことが必要です。

もっとも、解雇は当該職員やその家族の生活基盤を根底から覆して環境を大きく変えてしまう行為でもあります。従業員こそがその企業の基盤であるため、解雇の実行の判断は慎重にされるべきです。

前回の記事

▶みなし残業を払っていたのに、なぜ訴訟になるのか?

▶元店長に残業代を請求された。管理職だった彼になぜ支払わないといけないの!?

【執筆者プロフィール】

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上 卓(みずかみ すぐる)

新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件等。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県等後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

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