振り回されないために考えるべきこと smiler82号

米Twitter社の筆頭株主となったイーロン・マスク氏が、Twitter社の製品・サービスや、企業戦略について気まぐれな発言を繰り返し、同社を振り回していると一部の従業員から反発の声が上がっているというニュースは、日本でも話題になりました。その後、ついに買収騒動にまで発展し、先日は突然の買収撤回宣言に、Twitter社がマスク氏を提訴するという事態にまでなっています。

確かに、マスク氏の言動でTwitter社が散々振り回されている印象は拭えません。今回は森下社長に、周囲を振り回す厄介者に対しての対応法を聞いてみました。森下社長らしいとは思いますが、話はちょっと意外な展開になりました。

振り回しているのは、誰なのか

これ、よく考れば、振り回してるのはイーロン・マスク氏ではなくて、ほとんどマスコミなんだよね。マスク氏はSNSや記者に話してるだけで、Twitter社で働いている人が直接振り回されてるわけではない。

マスク氏が何を言ったって、実際にはそれで従業員は振り回されたりしないよ。だって、テンポスに置き換えて考えてごらんよ。大株主が「テンポスの株をライバル会社に売る。そして、その会社に経営をさせたほうがいい」と言ったとして、従業員がそれで振り回されるか? 「へー、どうなるのかな」と思うだけじゃないの? 毎日の業務はそんなことで変わらない。記者が「振り回されて大変ですね」なんて聞くから「ホント困っちゃいますよ」と従業員は答えるけど、実際には何も困っていない。大体、社長がどんなに言ったって言うことを聞かない奴や、年間240時間もの教育をしても一生懸命やらない人が、よく知らない大株主の言葉なんかで振り回されると思う?

振り回されないためには、腹を決めて戦うことも大切

昔、バカなアルバイトが冷蔵庫に入った写真をTwitterにアップして、バカッターなんて言われた騒動があったでしょ。冷蔵庫は食材を入れるものなのだから不衛生極まりない、従業員教育はどうなっているんだ、と叩かれて、結局ブロンコビリーの足立梅島店は閉店してしまった。

あの頃、同じようなバカッター騒動で閉店に追い込まれた店は他にもたくさんあった。でもね、思うんだよ。一つの店で15人のアルバイト・パートがいるとすると、150店舗あれば2250人になる。その一人一人を冷蔵庫に入るような人間かどうかを見極めることなんてできるわけがない。

しょっちゅうそんな事件が起こっている店なら仕方ないが、2250分の1の一人が起こした事件で、閉店まで追い込まれる事態は異常だと思うよ。冷蔵庫を入れ替えたり、消毒したりする現場を見せて、社員教育はこうで、衛生管理はこうやっていて、今回はそんな中でバカなアルバイトが決まりを守らず騒動を起こしてしまい申し訳ありませんでしたと発表して、今後の管理強化策や当事者への罰則などをしっかりやると言うのが本来じゃないの?

閉店は、地球環境とかSDGsとか言われてる中では最悪の選択だ。大量に食品ロスを出すことにもなりかねない。これを理由に店を続けると言ったっていい。それをマスコミが、不衛生だと怒る消費者の尻馬に乗って、こんな店で食事する気にならないなどと報道するから、それに消費者が振り回され、お店も振り回されてしまう。結果、客足は遠のき、売上げも下がるし、我慢できなくなって閉店を選んでしまう気持ちはわかる。でも閉店したからと言って世間の評価は変わりはしない。衛生管理しっかりしてるな、とはならない。経営者は、上っ面の情報だけで判断する消費者と正義の味方を気取るマスコミに振り回されず、腹を決めて戦う姿勢を持つことも大事だよ。

まあ、損得を考えると我慢したほうがいいなとなっちゃうのも現実だとは思うが、テンポスだったら、喧嘩するのは大好きだから、ドロドロになるまでやり合うよ。

世間を振り回すのがマスコミの仕事

例えば、古い話だけど、イラクに人道復興支援と安全確保支援のために自衛隊を派遣することになった時、イラクに派遣された自衛隊員の一人にインタビューして、「灼熱の炎天下で飯も食えない状態で活動するのは大変ですよ」というコメントを報道したマスコミがあった。

俺の実家に近い浜松に航空自衛隊があるんだけど、自衛隊員の奥さんに話を聞いたことがある。当時話題になっていたイラク派遣の話をした時に、その取材で不満を述べていたとされる自衛隊員に対して、「そんなことを言う自衛隊員はいません。最初から命を捨ててでも国を守ろうと決意して入隊している人がほとんど。炎天下だから、危険だから、食事がちゃんとできないから程度で不平不満を言うような隊員を見たことありません。きっとマスコミが数少ない不満分子を見つけて、誘導したに違いないです」というようなことを言っていた。

マスコミは、面白い記事にしたいから誘導尋問をしたり、話を盛ったりするのは当たり前のことと思ったほうがいい。だって、彼らだって商売なんだから、記事が話題になってなんぼの世界でしょ。世間を振り回すのが仕事と言ってもいい。

「振り回されてる」という奴には、嘘をつくなと言ってやれ

あさくまを買収した時、まだ創業社長が現役で、俺は本部長という役職で立て直しに入った。いつもの調子で細かなことをあれやこれや俺が言うわけだけど、社長がまた別のことを言ったりする。従業員にとっては、指示が2箇所から出てくるわけで、やりにくくて仕方がないと言うわけ。

例えば、社長がお客を大事にしないといけないと言う。ところが本部長の俺は、ちょっとお客に不便な思いをさせてもまずは黒字にすることが大事だと言う。この時も、従業員は、どうすればいいんだとは思うけど、振り回されたりはしない。ほとんどの従業員は、「ああ、そうですね」と両方に返事しながら、結局やりやすい方を選択する。違う指示のやりやすい方を選べばいいんだから、従業員にとって、実はこんなに楽なことはない。だけど、他人に「二人のトップがいると大変でしょ?」と聞かれれば「やりにくくてしょうがないですよ」って答える。それを記事にするから、読んだ人が振り回されるんだよね。

振り回されると言うのは、誰かに言われたことを一生懸命にやって、別の人から違うことを言われたら、またそれを一生懸命やる。そういうことが続いたときのこと。でも言われたことをそんなに一生懸命にやる奴なんて、そうそういない。マスコミの記事を読んで、そうか俺たちは振り回されてるのかと気づく程度。

それで、「俺たちは振り回されて困る」なんて言い出す奴が出てくるんだけど、そういう奴ほど問題を起こして、他の人を振り回す。振り回されると言ってる時点で被害者意識があるから、受け身の行動しかできなくて、結局使っている店長が振り回されるだけだったりもする。

もし周りに「俺は振り回されてる」って奴がいたら、「嘘をつくな」と言ってやれ。

本当に振り回されるのは、辛すぎるから

でも新人教育の時などに、教育担当者以外の先輩がみんなで違うことを言うのは避けたほうがいい。新人は、やりにくいのは間違いないからね。だから、新人につける教育担当は一人に決めた方がいい。

本当に振り回されると、それは辛いよ。例えば嫁と姑。自分が作った料理を不味いと目の前で捨てられたり、お寿司の出前を自分の分だけわざと忘れられたり、こういう嫌がらせに振り回される嫁は可哀想だよ。「なにやってるんだ、このババア」と抵抗できる嫁ならいいが、我慢して離婚するまで酷い目にあっちゃう嫁もいる。職場の上司・部下の関係でも、こういうことは起こるかもしれない。はっきりした上下関係があって、指示されて動くわけだからね。これは避けたいよね。

後継者問題を読み解く「森下流考察」smiler80号