後継者問題を読み解く「森下流考察」smiler81号

後継者不足は中小企業の宿命!?

中小企業の後継者不足は、社会問題の一つのように言われているけど、俺に言わせりゃ、当たり前のこと。それは中小企業の宿命のようなものだよ。

そもそも従業員が30人とか50人程度の会社に、いかほどの人材が来るかと考えてごらん。ほとんどがロクでもない流れ者だ。そいつが5年、10年いて、ある程度仕事を覚えてくると片腕になりそうな気がしてくる。

なるわけないんだよね。

中小企業の創業者はね、むりやりせがれに継がせて、心配してフォローしながら死んでいくというのがいわばデフォルト。あるいはせがれの代わりに長年勤めてくれている社員や従業員に継がせる。でも、これは片腕や後継者を育てたわけではなくて、自分が引退するからむりやりやらせただけで、彼らに社長の資質があったわけじゃない。

せがれにしても従業員にしても、大抵の中小企業の経営者が後継者として選ぶのは、日々の業務の改革改善ができて、ひたむきな人。それは大切なことではあるけど、それだけでは、変化の激しい今の時代は生き残れない。大きな時代の流れから徐々に遅れ始めて、いずれ消えていくというのが、普通の中小企業の姿なんだよ。つまりは宿命。でも、最近は、その改革改善ができるひたむきな後継者さえもいない、というのが問題なんだろうけど。

変化の時代に求められる資質とは?

変化の時代には、業務の改革・改善だけでなく、発想の転換やパラダイムシフトが必要になる。無から有を生み出すことができることも、重要な社長の資質ということになる。

これはね、今のテンポスでも同じ。会社は大きくなって、優秀な人材も集まるようになったけど、まだ無から有を生み出せるような人材は、育っていない。

「無から有を生み出す」力は、失敗を繰り返すことで身に付く、と俺は思っている。簡単なところで、「ステーキのあさくま」でヒット商品を作るにはどうすればいいと思う?

たとえば、高齢化社会だから「老人ハンバーグ」という商品を思いついたとするだろ。そのアイデアを形にして売り出す。大切なのはここから。食べていただいたお客様に意見を聞いて作り直す。それをまた売り出して、意見を聞いて作り直す。それをずっと繰り返す。繰り返しているうちにヒット商品になるか、やっぱりこれはダメだと諦めるか、ということなんだよね。

いいなと思って取り組んだことを、簡単に諦めずに、手を入れてはやり直すという地道な作業を何度も繰り返すことができることは、「無から有を生み出す」ための重要な資質だ。たくさんの成功と失敗を経験して、初めて身につけられることなんだと思う。

宿命に抗うにはどうすればいいのか?

「無から有を生み出す」というと、銭使って事業を買ったり、新しいビジネスを始めたりするようなことを思う人も多いと思う。でも、俺に言わせりゃそれはただの博打だ。この手のタイプは、アイデアや企画で勝負しようとするから、俺が言ったようなトライしてやり直してまたトライするというような、地道でひたむきな努力は嫌いな奴が多い。これじゃダメだよね。

もちろん、どんな事業がこれから成長するのか、消費者が求めている新しいビジネスは何なのかを考え、常にアンテナを貼っておくことは大切だ。しかし、思いついたアイデアを、根気よく作り替え、磨き上げていく作業を繰り返した経験がなければ、その粘り強さと柔軟さがなければ、変化の時代に社長として生きていくことはできないと思う。

こんな後継者を、中小企業の社長が見つけるというのは至難の業だ。だからほとんどの中小企業は温厚篤実な人に後を継いでもらって、それで大きな時代の流れの中でゆっくり消えていくという運命を辿る。

でも、だからと言って、そうか宿命じゃ仕方ない、とはならないよね。2代目の経営者だって、そう簡単に諦められないだろう。では、自分の代で消えないためにはどうすればいいか。

少しずつでいいから、「変化」を!

大切なのは「改革・改善」を繰り返し続けることだと思う。そんなに精力的にやらなくてもいいから、意識して少しずつでも自らを、会社を変化させていくことが大切だ。

市場は変化していくものだ。ひたむきに仕事しているだけでは、いずれ変化についていけなくなる。それに気がついてから、やむを得なく変えても、大概すでに手遅れだ。だから、毎年ちょっとずつでいいから何かを変えていく。時代の先取りとか、変化の先を読もうとか、そんなことは考えなくてもいい。とにかく、改革・改善はするものなのだと思って、毎年、今年は去年と何を変えようかと考えるといい。あるいは、この1年で新しい事何ができるようになっただろうか、と振り返る。そういうことを会社の新年の挨拶で言うと、社員にもその意識が浸透していく。これをずっとやっていけば、少しずつ会社は変化していく。だから、自分の代で消えちゃうことはなくなる。

「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」。福沢諭吉の言葉だ。昔から現状維持は衰退するだけで、新しいことに挑み続けてこそ未来が開けるというのが真理なのだ。特に今は現状を維持することだけに精一杯になっている経営者は多いが、その考えでは現状維持もできなくなる事を知っておいた方がいい。

変化が起きてから対応することはできない!

実際問題として、中小企業の90%以上は、成長戦略を取らない。継続維持という戦略を取る。大田区で商売始めて、40年ぐらいになるけど、その間に5,000人くらいの経営者に会った。そのうちで成長戦略を取って、売り上げ50億を超えたという人は10人ぐらいしかいない。経営者でも、なるべくリスクを避けて、安心・安定・維持を求めてしまう人が多いんだよ。

これは、人間のDNAに刻まれている本能だから、ある意味しょうがないというか、当たり前のことなのだろうと思う。俺みたいにリスクを承知で新しいことにチャレンジしたがる人種は、むしろ異常なのだ。才能とかじゃなくて、そういうタイプというだけなんだろうと思う。

人間は、そもそも安全・安定・維持を求める性質を生来持っている。これはおそらく、生命が誕生したと言われる38億年前から変わらない。多くの人がダーウィンの進化論を勘違いしている。変化に対応した生物が生き残ったわけではなく、たまたま対応できた生物が生き残っただけ。生命の多くは変化の中で死んでいく運命を辿ったのだ。

次の世代を作ったのは、自然環境の変化に合わせた生命ではなく、たまたま合っていた生命だったというのが真実なのだ。だから生き残る可能性を高めるためには、ちょっとずつ変化していくことが大切なんだ。変化が起きてから対応することなんてできないのだから。

入社した瞬間から競争原理に晒される会社

そもそも市場競争とか競争原理なんて考え方が出てきたのは最近の話。まだDNAに刻まれるどころか、習慣にさえなっていない。人間の脳は、新しいことよりも昨日と同じことをやりたい、という本能が優先される。だから、私たちは今を生き抜くために、市場原理を脳と身体に覚えさせることも必要なのではないだろうか。

テンポスが、社内でも常に競争原理が働くような仕掛けをたくさん用意しているのは、そんなところにも理由がある。市場競争を、日々の業務の中でもたくさん体験してほしいのだ。

例えば、テンポスの新入社員は、配属先を自分で選ぶ。受け入れる側も、欲しい新卒を他部署と取り合いする。新入社員と各部所長がお互いにプレゼンし合って、相思相愛だったらカップル成立という、単純な仕組みだけどね。

人気部署には希望者が多く集まるから、競争が激しい。逆に希望者が少なそうな部署をあえて選んで悠々と配属先を決める作戦も可能だ。つまり、まさに市場原理が働く環境の中で、新入社員は自分の将来を決めることになる。テンポスに入社したら、その瞬間から競争に晒されていくということ。

社内でも市場原理が働く仕掛け

例えば、グループ会社の「ステーキのあさくま」で新店舗を作るというときも、テンポスグループには内装屋があるんだけど、資本取引も何もない一般の内装屋と有利不利のない競争をした上で発注先を決める。同じような価格だったら、グループ内に出すけど、明らかに負けている場合は外の会社に出す。組織内でも常に市場原理が働くようにしている。

ちょっと話がずれるかもしれないけど、内装事業には相当力を入れてやっていこうと考えているんだ。グループの内装屋は今の所、極端な成長戦略は取らず着実に利益を出すことを第一に考えている。仕事を一生懸命にやる職人集団的とも言えるかもしれない。

でも、テンポス全体の戦略はそうじゃない。1,000億円企業を目指すと言っている中で、各事業は10倍、100倍の拡大戦略を取っていこうとしている。内装は、飲食店支援の総合受注を目指すという基本戦略を完成させるための鍵を握る事業でもある。厨房はもちろん、ユニフォームも椅子・テーブルも、その元にあるのが内装受注なんだよね。内装事業やっているところが全国展開してくれないと、テンポス全体の戦略は達成できない。

だから、全国展開していく事を第一義に考える内装事業の部署をもう一つ作って、社内で競争させればいいんじゃないかと考えた。全国やってる方が上手く行ったら、今の内装屋をそっちに吸収させればいいし、逆に見てくれだけは全国展開しても、収益はロクなもんじゃないみたいな状態になるようなら、今の内装屋の方に吸収させる。

社内でも同じ事業を2箇所3箇所でやって、2~3年の間に一番上手くやったところに集合させればいいというのは、つまりこれも市場原理。俺は、社内でも市場原理が働くようにしておくべきだと思っている

市場競争を勝ち抜く能力を磨き抜け!

その究極が、社長の椅子争奪戦。今年の8月から、テンポスバスターズの第4回目となる社長の椅子争奪戦が行われる。3回目は、候補者が小粒で見ている方としては面白くないところもあったけど、今回はグループ会社の社長や事業部長をやってるような経験豊富な奴が立候補しているから、期待してるんだ。

これは、俺にとっては創業した会社の後継者をどう選ぶかという問題でもある。普通は社長や幹部のお眼鏡にかなったやつを後継者に選ぶのだろうけど、俺んところは俺も幹部も目が曇っているもんで、ろくなやつを選べない。だから市場原理の中で勝ち抜いてきたやつにやらせてみようと考えたわけ。

市場競争を勝ち抜く能力は、人間のDNAにはないのだから、教育・訓練するしかない。だから、できるだけ会社の中に市場原理を持ち込む。厳しい競争に晒されて社員には、次代を生き抜く力を身につけていってもらいたいと思う。

変化に対応したから生き残るのではない。先に変化したものが生き残るのだから。

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自由にものを言うことは、本当にいいことなのか?(Smiler80号)