じゃあ、移動販売を始めてみようかっ!

前回、保健所での営業許可件数と営業許可証発行に掛かる金額について書かせてもらいました。今回は、実際に移動販売を始める場合はどのように手続きをいていけばいいのか、どのような資格が必要なのか、等を書いていこうかと思います。

本題に入る前に、前回の記事でお伝えした通り、2021年の6月1日から新たな“営業許可・届出制度”が施行されました。自分は今まで全て独学し全て一人で起業。当然の事ですが、営業許可の申請も全て一人で行いました。キッチンカーという移動販売のため、地元はもちろん他県でも取得し、合計4回新規で営業許可を取得しました。更新は5回程経験。

初めて申請をした時は、何度も何度も改善点を指摘され取得までに数カ月も掛かりました。ですが、その後は殆ど一回でOK。改善点があった時でも2回目には必ず許可が下りました。必要な書類はほぼ同じで、記入する内容もほぼ変わりませんでした。

しかし、昨年の新制度になってからの申請はまだした事がなく、どのような手続きになるのか少し心配をしていたのですが、昨年末に仕事の関係で知り合った方から「移動販売で新しいビジネスを始めたいので、営業許可の新規取得を手伝って欲しい」と頼まれ、実際に書類の作成から保健所へ車輛を持ち込み、申請の段取りの話しをしてきました。実際にやってみると、申請の書類は全く新しくなりましたが、基本的には今までとそれ程変わりなく、新たに追加された項目も、保健所の方が分かりやすく説明をしてくれたので、申請自体のハードルは下がったような気がします。

しかし、今回の申請で一番驚いた事、本当に衝撃を受ける程の一言です。

「こちらで書ける事はこちらで記入します」と。

思わず「えっ!?どういう事ですか???」と聞き直してしまいました。

もしかしたら、たまたま担当の方が凄く凄く親切な方で、イレギュラーな対応をしてしまったのかもしれません。それでも保健所の方が直接書類の作成を手伝ってくれるなんて本当に衝撃でした。たまたま、昨年こちらの保健所は改装されとてもキレイになっていたので、建物が変わると対応も変わるのか!?なんて思いつつ、20年以上前に同じ保健所で「もう帰って下さい」と言われた頃を感慨深く思い出し、保健所をあとにしたのでした。

キッチンカービジネスの怖さ

話しは戻りますが、新制度になって書類上の煩雑さや許可そのものに対しては、以前と比べて楽になったような気がします。自分が長年訴えてきた“全く知識のない人でもスムーズに申請ができる”という願いに少し近づいたのなら嬉しいです。ですが、申請の簡略化は新たなルール等の規制と必ずセットで行われないといけません。業界内での規律や悪徳業者の排除、そして消費者や出店先に対して移動販売とはどういった仕事なのか。連絡先が分からないのに食中毒がおきた場合はどうすればいいのか等、移動販売特有のトラブルや注意事項みたいな事についても、多くの方々に知って貰いたいと思います。

本来なら、業界は少しずつ成長を遂げ、その中で多くの競争を繰り返しながら悪徳業者は淘汰され、自浄作用で生き残った業者が消費者と業界の発展に繋がる規律やルールを決め、保健所や食品衛生協会ともしっかりと連携をとり、ロビー活動も含めて時間を掛けて様々な行動をおこしていかなければいけないはずです。自分はそのような思いをずっと持ち、その為に10年以上前から、各地の保健所や自治体・内閣府、自動車メーカーや販売店に対して様々なアプローチをかけてきました。今回、コロナ禍がきっかけで移動販売が注目され、参入する方が増える事はとてもいい事だと思います。

ですが、そのスピードはあまりにも早すぎるのではないでしょうか。移動販売を(開業ではなく)継続する為に必要な事、受け入れる側が知っておくべき知識と経験、それを伝える事ができる人材、とにかくまだ環境があまりにも整っていない。今のまま、あまりにも少ない知識で“流行っているから”という理由で移動販売を始めてしまい、もしも数年後に廃業をしてしまったとしたら、その方は移動販売車を見る度にきっと嫌な思いをするはずです。

以前にも書きましたが、毎年とても多くの方が「移動販売を開業したい」と相談に来ます。その中には、あまりにも現実離れした情報を鵜呑みにして、その情報をモトに開業の為の準備をする方もいます。ネット上やセミナーのような場所で流れている情報の全てがダメという訳ではありません。投資や起業セミナーと同じで、とにかく興味をそそるようなインパクトのある言葉は人を惹きつけます。ですが、一番大事なのはその“言葉”ではなく、その言葉(情報)を発している人がどのような“人”なのか、その事をしっかりと考え、行動して欲しいと願っています。

せっかく移動販売を起業したいと思っているのなら、できるだけ長く続けて欲しいし、移動販売の楽しさを沢山知って欲しい。自分が20年以上この仕事を続ける事ができたのは、間違いなく“楽しいから”です。よく常連さんから「いっつも楽しそうだよねっ」って言われますが、本当に楽しいから笑顔になるんです。

ただ、間違って欲しくないのは“楽しい”というのは“楽(ラク)”ではない、ということ。移動販売に限らず、個人事業主というのはラクではありません。ましてや、移動販売というのは営業も製造も販売も全てやります。思っている以上にやる事は多く、多岐にわたります。個人的な感覚ですが、楽しい事は1割から2割。残りの8から9割は結構大変だと思います。それでも、その多くの辛い事を忘れるぐらい、貴重で楽しい経験を与えてくれる。いや、もしかしたら9割近くの辛い出来事を乗り越えたからこそ、1割の貴重な体験を一層楽しく感じ、またその事が逆境を乗り越える原動力となり、今までやってこれたんだと思います。もしも自分がこの仕事に巡り合っていなかったら、本当に悲惨で救いようのない人生を歩んでいたはずです。

昨年の法改正とコロナ禍は移動販売にとっても大きな転換期

法改正とコロナ禍は、これがいい結果に繋がるのかそうでないのかはまだ分かりません。しかし、いい結果になる為の準備や努力はまだ出来ますし、その為の時間と経験は絶対にいい結果に繋がるはずだと信じています。

移動販売を起業するハードルが下がったとはいえ、それは過去と比べた場合で、起業する方にとってはハードルはやっぱり高く感じます。そして、以前と違って本当に多くの移動販売に関する情報が氾濫しています。その中から正しいと思える情報、自分にあった情報を見つける事はとても難しいです。ですが、いつの時代も変わらず大切な事は、自分の目で見て経験する事です。百聞は一見にしかず、ですね。

あと、とても個人的なお話しですが。今年から新たな出店先が二カ所増え、それも自分が大好きな車とバイク関係のお店。出店する度にいろんな出会いがあり、お客さんとの会話も弾みます。こんな環境で仕事が出来るのも移動販売の楽しさ 。日々、新鮮な気持ちで仕事ができます。

移動販売を始めて20年 危機を感じています<続編>

ペンネーム:たこハシロウ

10代で両親を亡くしホームレスも経験。今は買い取った学習塾の6号教室で一人暮らし。5号教室は制作途中のバーカウンター、台所は元職員室、黒板は特大のメモ帳、下駄箱には工具とキャンプ道具。今も一人で改装中。過去にテントと寝袋、調理器具をチョッパーハーレーに積み、北海道・東北・北陸・関東・関西・九州、全国各地で調味料や食材探しとたこ焼き屋巡りの一人旅を経験。2001年、軽自動車のウォークスルーバン を一人で改装し85万で”HIRO君のたこ焼き屋。”を独学で起業。今は2台目で走行距離は地球約5週。営業回りは2000軒、出店した場所は100ヵ所を越える。