【Opinion 日本エスコ 志田 扶 社長】ビジネスで警戒すべきこと

日本エスコ志田扶社長

株式会社日本エスコ 代表取締役 志田 扶

株式会社日本エスコ 代表取締役 志田 扶 1992年、25歳で家庭用/業務用生ゴミ処理機「ディスポーザー」の輸入・販売・メンテナンスで創業。現在はインフラとしての行政管理型ディスポーザーも提唱。家庭用のみならず、多くの飲食店や病院、商業施設に業務用ディスポーザーを販売。

僕が社長(25)で君は専務(24)。まだ1店舗で2人の規模だけど、5年で20店舗にするぞと、閉店後に毎日のように酒を酌み交わし、明日を語った専務がいた。しかし、ある日突然、2人だけの会社LINEグループに「辞めます。お世話になりました。」そして時差でペコリと絵文字が送られてきた。とどめにLINEグループも脱退。専務だけが心の支えだったのに・・・。

毎日のお酒はパワハラだったのか。もう心が折れた。昨日までの僕は今日の僕をまるで予期していなかった。予期しない事に対する心のダメージがここまで大きいとは。

二宮金次郎

多くの学校施設には二宮金次郎(二宮尊徳)の銅像がよくあったものです。薪を背負って本を読みながら歩き、勤勉を伺わせる銅像です。近年は歩きスマホの象徴としての悪影響を懸念して、金次郎の銅像が学校施設から撤去されているとよく耳にします。

金次郎は江戸時代後期の小田原市に生まれた偉人です。数々の農村を「農村集落経営」として立て直してきました。現在でも経営の指南書のみならず思想家として多くの人から尊敬されています。天保4年(1833)の初夏、宇都宮で食べたナスが、秋ナスの味がするのに違和感を感じた金次郎は、凶作がくることを予知したと言われています。その凶作に備えるために稗(ひえ)を蒔くように百姓たちに指示をし、天保の大飢饉を乗り切りました。

この二宮金次郎の農村経営には「永安」と「備荒」という2つの大きな考えの柱があります。

永安(えいあん):永久に安泰であること

備荒(びこう):凶作や凶荒に備えること

事業を永久に安泰にさせることはできるのか?

会社を「永安(永久に安泰であること)」に保つことは非常に難しい課題となります。中小企業白書(2006年版)によれば、4人以上の中小製造業の生存率は1年後で73%、5年後で42%、10年後でわずか約26%となっています(個人事業所の1年後は62.3%)。他にも、高開業率、高廃業率の飲食店においては、1年後の生存率は62.5%、5年後の生存率は、22.5%というデーターもあります。飲食業は競争が激しいだけでなく、事業としてイメージができるので、素人がいきなり参入する割合も高く、廃業率も高いそうですが、そう甘い世界ではありません。

一定のノウハウを持って起業をしても、環境変化の激しい現在では何年、同じノウハウが通用するのでしょうが?環境変化に応じた新しい商材やノウハウをどのようにして創造したり、取り入れていけばよいのでしょうか?社長も社員も取引先もやがて歳を取っていきます。次を任せられる世代の社員や取引先は育っているでしょうか?今日と明日は何も変化が無いように見えますが1日分、歳を取りますし世の中も刻々と変化をしているのです(これを諸行無常といいます)。そう考えると永安でいられる事は奇跡的な事になります。永安でいる為には平常時にこそ、多くの課題をクリアする必要があることが分かります。

ビーカーの水の中にカエルを入れると悠々と泳ぎ出します。ゆっくり温度を上げていくと段々、気持ち良くなりやがてカエルは茹であがり死んでしまいます。しかし、熱湯にカエルを入れると「熱ッ!」と飛び上がり必死にビーカーから出ようとします。通常のリーダーも明日、会社が潰れると思えば熱湯に入れられたカエルの如く必死に具体的な行動を起こすはずです。しかし今日より明日、1年後とゆっくり少しづつ茹で上がる場合、将来このままではダメになると何となく理解はしていても、特に今日明日で行動を起こさないのが人の本質というものです。永安というのは、裏を返せば何もしなければ永安ではいられないということを意識しなければなりません。ある意味、長期的な備えになります。

ビジネスにおける備えるとは

危機に備えるという事は、逆を言えば常に自由に行動(通常業務に専念できる)ができる状態をいつでも確保しておくということです。日常の業務行動は成果を上げるための行動ですが、この日常行動が不測の事態により「制限」される事をいつも警戒し、不測の事態に備えてあらかじめ手を打っておくことが備荒につながります。

例えば、ある店舗を任せている社員が予告もなく退社したとします。個人経営から中小企業の規模ならば十分なバックアップが取れている会社はまずないと思います。しかしこのような事態をいかに平常時に想定して、できる限りのシュミレーションを繰り返しているかが大切です。突然のトラブルでも平常時のように会社や店舗を運営できるかが「永安」につながり、また「備荒」になります。急に出社しなくなった社員の代わりにリーダーが現場に入らなければならなくなった時、何日間でリーダーの通常業務に復帰できるようになるかを平常時に予測し手を打つ等して、準備をする必要があるということです。

このように平常時に平常が保たれない状態になる事態を予想する危機感があれば小さなサイン、予兆さえもリーダーのリスクセンサーがキャッチする事ができるのです。

しかし、リスクに備えろと言うのは簡単ですが実際、経営資源(時間・人材・お金・設備などの物)が乏しい会社としてはとても難しい課題となるでしょう。来るか分からない危機に対してコストをかける事は即、経営を圧迫します。そのため、コストをかけないで工夫の範疇で「備荒」をしなければいけません。

社員間で仲間割れが始まった、バイトが不道徳な動画を厨房で撮影してSNSに投稿した、競合店が近隣にできた、ひいきの問屋が潰れて仕入先が無くなった、重要な社員が突然会社を辞めてしまった、火事がおきた、ぎっくり腰で動けない、ガンを告知された!、しまいには新型コロナが発生した、緊急事態宣言が発令、etc……

リーダーは限りある条件の中で常に最悪の事態をシュミレーションし、何かあっても被害を最小限に食い止めるためにアンテナを張り、そして事前に対策を立てて準備することで備荒とするのです。備荒とはある意味、短期的な危機への備えにもなるのです。

つまり、平常時の自由な行動が制限される事態が起こらないように、リーダーは常に警戒をしておく必要があります。また悪い状況に対処できる対策がたとえ準備されていなくても、最悪の状態を平常時に予測し、心の準備をするだけでもダメージはかなり軽減され、次のアクションに素早く移す事が可能になるのです。

リーダーバイブル

エスコ リーダーバイブル どのように戦うかを考え、継続したトレーニングでチームの質(戦力)を上げ、チームに動機づけるのがリーダーである。

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