どうせコロナなら『お試し』で新規顧客開拓を

小学校2年生だった年の夏、そのゲーム機は華々しくデビューした。ファミコンの登場だ。今はスマホがあれば気軽にゲームができるが、当時それまでは1ハード1ソフトのゲーム&ウォッチ(ゲームウォッチ)くらいしかなかった時代。ちなみに、唯一親に買ってもらったゲームウォッチは「オクトパス」というゲームで、タコの足にやられないように宝を取ってくるというシンプルなものだった。同世代以上の方は懐かしさを感じる人も多いかもしれない。

当時のファミコンが凄かったのは、カセットの入れ替えで異なるゲームを楽しめること。次から次へとソフトが出てきたが、1本4,000~5,000円するだけに我が子からおねだりされても「ちゃんと考えて1本だけにしなさい」というパターンは多かったであろう。私の家がまさにそうであった。

ただ、今のようにウェブサイトやYouTubeでソフトの情報が得られない時代である。稀少なチャンスにいわゆるクソゲーを手にすることは回避したいから、気になるソフトを買った友達の家に行って「お試しプレイ」をすることで情報収集したものだ。近所に1件くらいありましたよね、何十本もソフトを持っている家が。そうやって、面白いと思ったソフトの中から厳選して親にねだった記憶がある。

ファミコンの話で終わってしまいそうなので、そろそろ本題へ。

上記の個人的体験は、消費者のお店選びと通ずるものがあります。地域の住民は「あそこに○○というお店がある」ということはおおよそ知っている。でも、どんな料理がいくらで提供されて、どんな店内環境でという話になると、店主が思っている以上にまったくと言っていいほど知らないケースがほとんどなのだ。それを擬似的に体験してもらうのがチラシなどの広告である。

ただし、広告はあくまでも広告で実体験には届かない。来店して雰囲気を知り、実際に食べて味を知るからこそ、そのお店のユーザーになる理由ができる。「お試しプレイ」という実体験がなければ、ソフト1本を厳選してのおねだりは失敗に終わったであろう。

コロナ禍の今だからこそ、その後の経営のためにも広告や実体験の場を積極的に作っていくべきという持論がある。大手以外の飲食店は広告出稿を控えがちなので、折込やポスティングは実際に反応が出ているケースも多い。実体験の提供には、まだ来店したことのない地域住民の方を「試食会」に招待してみるのはどうだろう。

お店の商品を数種類、例えば売れ筋の5種の料理を小分けにして「2,000円相当を1,000円で」と試食会の案内をする。ただし試食会とはいえ原価割れはもちろんNGだ。案内はチラシの片隅にちょっとでよい。開催時間をアイドルタイムに設定しておけば時間の有効活用にもなり、そういった機会提供でコミュニケーションもしっかり図ることができれば、正規のお客様としてリピートしてくれる確率はかなり上がるはずだ。人数限定の予約制にしておくことは忘れないようにしたい。

「試食会」という施策をひとつ増やすことで、低リスク低予算で新規・再来獲得が進む可能性がある。兎にも角にも食体験の提供だ。「コロナでちょっと暇だ」「新しいことに取り組んでみたい」というお店があれば、試してみる価値はあるのではないだろうか。

記事執筆

ビズクルー株式会社
代表取締役 田中 良平
集客やビジネスモデル構築を強みとする。飲食店のチラシやPOPなどを格安定額制で丸投げできる「助太刀丸」を運営。