試用期間終了後にスタッフを辞めさせることはできるの?

事例

飲食店の共同経営者Aさん

「この前雇ったCさんだけど、オーダーミスが多いし遅刻も多いよね。」

飲食店の共同経営者Bさん

「確かに。ウチは新潟のコシヒカリと仙台の高級牛タンという食材にこだわり抜いているだけでなく、従業員の接客も高い水準を求めているけど、とてもその接客水準には達していないね。」

飲食店の共同経営者Aさん

「確かに。まだ試用期間中だしちょうど良かった。本採用はしないで試用期間が終わったら辞めてもらおう。」

飲食店の共同経営者Bさん

「そんなに簡単に辞めさせることは出来ないらしいよ。」

飲食店の共同経営者Aさん

「お試しで雇えるのが試用期間で、お店と従業員が合わなければすぐに辞めてもらえるんじゃないの?じゃあ、試用期間って何?」

試用期間とは?

従業員を雇う際、3ヶ月から6ヶ月間程度の期間を試用期間とする雇用契約を締結することが多いと思います。

この試用期間は、一般的には、実際勤務を行って従業員の適性等を評価し、その後に本採用するか否かを判断するために使用者が設ける期間です。法的に言うと、解約権留保の特約のある雇用契約と考えられています。

そのうえで、どのような場合に留保された解約権の行使が認められるかについて、裁判所は、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしてその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」であるとしています。

この裁判所の考え方のポイントは、留保された解約権の行使は雇った後の話であり、試用期間中に辞めてもらうことや試用期間満了後に本採用を拒否することは、あくまで解雇に当たるとの前提に立っていることです。

そのため、確かに本採用後の通常の解雇と比べた場合、試用期間中の留保された解約権の行使は有効となる範囲は広いものの、その行使はあくまで解雇である以上、それが適法となるためには一定の要件を満たさなければならず、それが欠ければ違法な解雇となり無効となります。

現在の裁判実務では、使用者は当該人物を従業員として雇用するか否かという雇入れの段階では広く採用の自由を認めるものの、いったん従業員として雇った後は解雇により一方的にその地位を奪うことを簡単には認めません。試用期間満了後の本採用の拒否を、前者の採用の自由のレベルの話として簡単に辞めてもらうことができると考えることは誤りです。

試用期間終了後にスタッフを辞めさせられるのか

本件は、試用期間中の従業員の能力不足を理由として留保した解約権を行使する場合ですが、そもそも試用期間は雇用した従業員に教育訓練を行う期間でもあります。

そのため、当該期間中に従業員の能力不足が発覚したからといって、留保した解約権の行使が適法として認められることは簡単ではありません。

したがって、本件の場合の対応方法としては、令和2年11月20日号でご説明したミスの多い従業員に辞めてもらう場合のプロセスと同様の対応を取ることが基本となります。

すなわち、まずは①能力が不足している従業員に対しては,相当期間,指導や注意を行い、使用者として従業員の能力向上・改善のために努力を行い、②次に、指導等を相当な期間行っても改善しない場合、可能であれば配置転換や業務異動を行い、③それでも改善がない場合、まずは退職勧奨を行い合意による退職を目指し、退職勧奨に応じて自主的に退職しない場合には最終的に解雇を実行することになります。

このプロセスの際、試用期間を経過すると本採用となり、本採用後の解雇の話となると解雇のハードルがさらに上がってしまうため、就業規則等の規定に基づいて試用期間の延長の手続を取ることが有効です。

また、試用期間開始後、14日を超えて雇用されていた従業員に対しては、留保した解約権の行使の際、30日前の解雇予告や30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要となることにも注意が必要です。

なお、以上のとおり試用期間中の留保した解約権の行使が容易でないことを踏まえ、従業員を雇用する際に、3ヶ月ないし6ヶ月間を試用期間ではなく有期雇用契約とする対応方法があります。有期雇用契約であれば原則として契約期間の終了により当該契約は当然に終了するため、本採用としたい従業員とだけ有期雇用契約の終了後に無期雇用契約を締結するという対応が取れるためです。

ただし、この対応方法は、具体的な事情によってはそもそも単なる有期雇用契約ではなく当該期間は実質的には試用期間であったとみなされ、上記の試用期間による留保した解約権の行使の要件を充足しないと違法とされる場合があることに注意が必要です。

【執筆者プロフィール】

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上 卓(みずかみ すぐる)

新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件等。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県等後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

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