立呑み「8(ハチ)」 中田一氏
売り上げが下がったままの状態がいつまで続くかわからないっていう不安はどの飲食店にもあるでしょう。しかし、楽しく飲んでストレスを発散したり、元気をもらいたい居酒屋は絶対に無くならない。いや、無くしてはならない。
お客様に喜んでもらって、お客様が本当に気持ちよく飲んで食べていただけることを理念に掲げてきた株式会社Hの中田一社長の次なるチャレンジはラーメンだった。
これまでの人ありきの商売とは違った、人に頼らない業態を並走させるまでの苦悩の日々。ラーメンの先輩から言われた「ラーメンは料理じゃないんだよ」の意味とは?
時短営業の中で、今できることは何か
-こちらは、立呑み居酒屋でランチタイムにラーメンを始めたということですか?
時短営業という制限のなかで、今できることは何かって考えた結果です。飲食店は合計4店舗、和食の店とスナック、そしてここ立呑み「8」と「三八」という焼酎スタンディングバーをここ、大井町で経営しています。
そのなかで、飲食業ってやっぱり人とお酒、料理、空間、そのバランスがすごく大事だと思う。しかしこのご時世でも飲食業はやっぱり人。働く人によって売り上げが上がったり下がったりするのは、飲食の良い部分であり難しい部分だと思う。なので、商品そのもので勝負できて人に依存しない業態ができないかなって考えたとき、思い当たったのがラーメンでした。一度売れるレシピを作ってしまえばそれほど人に依存しない。
コロナ前から食券買って黙って食べるって、そういう業態をいずれ作りたいよなって話はしていたんです。やりたいと思っていたことはすぐやる。ニーズに合っていれば今がチャンスだと考えています。
-そもそも、ラーメンはいつ始められたのですか?
4月17日に緊急事態宣言が発令されてから一時的に限定メニューとして提供したところ評判もよく、ラーメン店を経営している友人達も食べに来てくれたんです。そこですごい駄目出し食らっちゃったんです、「これはラーメンじゃない。」ってね。居酒屋のシメに出すラーメンだったらいいけど、ラーメン専門店で勝負するようなラーメンじゃないってことです。
結構厳しい指摘だったけど、仲が良いからこそ、そういう率直な意見を言ってくれたことが悔しかったけど嬉しくもあったよね。僕も料理人として料理作ってきたので、味は自分でもちゃんと考えて出しているつもりですからね。
-やっぱりラーメンは難しいですか?
一杯の丼に賭ける思いというか、やっぱりラーメン屋と居酒屋とは違う。
居酒屋の料理ってサービス、空間と人とのバランスが売りになっている。でもラーメンは、そんなバランスじゃないですよ。やっぱり“一投入魂”っていうだけあって、一杯の丼の中に全てを表現しないと勝てないと思いました。格好じゃない、雰囲気じゃない、どういう思いで作るのかっていうのが大事なことを今回のコロナで学びました。それで、最初はダメ出しされたけど、お客様の評判も聞きながら、二度目の時短営業になってよし、もう一回やろうと決心したのです。ラーメンの味をもっと磨いてそれこそ前回とは違う丼を用意しました。
丼だけでなく、前回のダメ出しを食らった部分すべてを変えました。それでお客様の反応を見ているとすごくいい評価をいただいて、それで再度ラーメンの先輩たちに食べていただいたところ、「上手くなったねぇ、全然違うね」。その道のプロたちから評価されると嬉しいね。
-ラーメンの先輩たちはどういうところを評価されたんですか?
それはトータルの評価ですね。見た目、麺の太さ、スープの量、脂の量、味付け、器、指摘を受けたことをすべて改善しました。まだまだ未完成ですが、改良を重ねることで結構いい形になってきたから、今後の展開として、ちょっとラーメン専門店にチャレンジしようと考えています。
実は最初に味見していただいたとき、ラーメン屋の先輩から「はじめちゃん、これ料理を作ってるよ。ラーメンは料理じゃないんだ、ラーメンはラーメンなんだよ」って言われたのです。僕はずっと料理をやってきて初めて「料理じゃない。」って言われたことに衝撃を受けました。結局ラーメンは何杯売るかなんですよ。ゆっくり食べてもらっても美味しくないし、商売としても成り立たない。
-それってすごいアドバイスじゃないですか?
懐かしい味というか、ラーメンはまた食べたいと思わせることが大事なんですよ。どうしても居酒屋が出すシメのラーメンは味が優しくなりがちで印象に残らないのです。それはそれで美味しいのですが、一週間に一度は食べたくなるような中毒になるくらいの料理がラーメンなんです。
僕がラーメンを試食するときは、まず見た目から入って、スープの最後の一滴まで飲み干して満足できるかどうか、居酒屋の味見だと、ちょこっとだけ食べて量も少ない。ラーメンって最後まで食べて印象が決まるから。お腹が持たれちゃうのは嫌だし、逆にあっさりしていて印象に残らないのも違うし、二日酔いだったとか、お腹すいてるとき、いろんな状況があるのである程度お腹が空いているときに、最後までスープが飲めるのか、次の日に残らないことまで考えてラーメンを作る。だから2月ぐらいからほぼほぼ毎日ラーメンを食べてますよ。
-もし、コロナが起きていなかったら、ラーメンを出すことはなかった?
やろうとは考えていました。テイクアウトとかネット販売とかそういうのをいずれやらなければって頭の中では考えていました。居酒屋っていうのはやっぱり景気に左右されるし、ネット販売を始めるなど会社として強くしていこうという話をしていて、まさしくそういうことで少しずつ動き出したところでした。
-居酒屋ならではのラーメンの売り方などはありますか?
ラーメン屋のなかには、アンケート用紙を置いている店もありますが、ほとんどがお客様との接点がないというか、コミュニケーションが無い。そうじゃなく、もっと商売としてお客様が入ってきたら「いらっしゃいませ」って声をかける、よくあるラーメン店のイメージでテーブルはベタベタ。そうじゃなくて、やっぱりお客様にどうやって喜んでもらえるかをできるだけ簡潔化しつつ感じの良いサービスはラーメン店だってできますよ。
タッチパネルとかそういうのが流行っていますけど、やっぱり僕たちの原点はお客様を気持ち良くさせるっていうことを絶対に無くしちゃいけないと思う。だから声に出してね、「今日はどうですか」「今日のチャーシューおいしいでしょ」とひと言ってくれたりとか、「いつもありがとうございます」とか、ベラベラ喋る必要はないけど、一言あるのと無いのとではぜんぜん違う。
-他に「8」のラーメンの特徴はありますか?
大井町で50年の歴史のある製麺所、『林製麺所』から麺を仕入れ、390年前から続く味噌蔵の仙台味噌を使って味噌ラーメンを作っています。やっぱり自分たちの作るラーメンは地元大井町の材料をアレンジして大井町のラーメンを作っていく、そういうストーリーを大切にしていきたいと思います。
取材協力:立呑み「8(ハチ)」
東京都品川区東大井5-12-3
電話03-6433-0606
谷口光児(テンポス広報部)