俺は目端が効いて、銭儲けに一生懸命やるタイプだから、まず第一に考えるのは儲かるようにやるには、どうしたら良いか。創業当時は、税金はごまかす、助成金をだまし取る、工場排水の浄化などには金をかけないで、少しくらいなら環境を汚染しても良いとしていた。まずは自分の会社が儲からないなら話にならない。「財を成せ!金を貯めろ!」この精神で仕事をしている段階だから「利他心」などの考えも当然ない。ブラック企業と言われれば、稼ぐ目的がはっきりしていると、褒められたも同じだと思っていたからね。だから、従業員を定着させるよりも、過酷な中でも耐えるような教育をした。
では、どの段階で「利他」に気がつくのか。それは己に流れている「血」が決めてくれる。
代々、卑しい血を受け継いでいる人は、儲けて儲けて財をなして歳をとったり、ひとりぼっちになったとしても、人の役に立とうとは一生思わぬうちに人生が終わる人もいる。俺は「卑しい血」の男だったから、先ず家族の幸せを第一にした。次第にある程度、銭がたまると働いてる社員が喜んでいるか気になってきた。まぁ利他の心が目覚めたってところか。それでもまだ、税金はごまかすし、助成金はごまかす始末。だがそのうち、内なる「人間性の叫び」が聞こえてきた。
年間経常利益が3千万を超えてきた頃だ。“内なる声”が、「お前!天が与えてくれた“知恵”を、税金を誤魔化したり、節税対策に使ってるのかよ」と言っている。
元々働き者ではあったが、その頃はそれこそ寝ないで働いていた時代だ。本物の洗浄機メーカーになろうと、汚れとはなんぞや、汚れ落ちと水温の関係、洗剤とはなんぞや、界面活性とは、水圧と洗浄の関係、噴射の当たる角度と汚れ落ち。洗剤メーカー、ポンプメーカー果ては大学の先生にまで聞きに行った。何十冊も関係図書を読み調べた。社員30人の会社だったが、実験を繰り返した。そのうちに関東の給食センター、病院食、大学の食堂、企業社員食堂、大型食器洗浄機の市場の50%のシェアになった。税金を誤魔化してこそこそするのが面倒になってきた。
税金は出来るだけ多く払おう。でも社会貢献をしてる暇はないから、税金を払うからそこんとこはよろしく頼むよってなもんだ。それでもまだ、仕入れ先からは、安く買いたたいていた。「利は元にあり」なんて偉い人が言うもんだから、素直な俺はそうしていた。しかし70才過ぎてから、仕入れ先あってのテンポスってことに気がついてきた。稲盛の爺さんに笑われる「遅いよ!まぁしょうがないなぁ」とね。
75歳、最近になって働き甲斐のある職場を作ろうと思うようになった。儲けた金を社員に還元しようと思い始めた。だから過去最高益のテンポスバスターズ、テンポスドットコム、キッチンテクノの3社は今年3割の社員の給料を50%アップ、来年から全員50%アップする。
でも、これは伊那食品工業(かんてんぱぱ)の塚本社長のように、「社員の幸福を願う」ためにやるんじゃないよ。こんなこと言えないよ。恥ずかしすぎて。テンポスの社員なんて、言ったことはやらないし、俺のいないところで「ブラック企業」なんて言いやがるし、何かって言うと、深刻ぶって病院の診断書を持ってくる。こんな奴らの幸福なんて願わない。だから給与5割アップは社員のためじゃない。簡単に利益アップできない労働集約産業のテンポスが、給与5割アップしても利益を出せるか。塚本社長への挑戦、自分との挑戦だ。なんて言いながら従業員の幸せを考えるのが「ツンデレ社長森下」のやり方さ!