移動販売を始めて20年。危機を感じています。
「もう帰って下さい。」
2001年。買ったばかりの中古のウォークスルーバンで地元の保健所へ行き、何をどうすれば移動販売を始める事ができるのか、専用の用紙を前に説明を受けるも全く理解ができなかった。何度も何度も繰り返し聞いていたら、冒頭の言葉が返ってきました。
結局、その日は用紙だけもらい帰宅。こんな状況で移動販売なんて本当に出来るのだろうか?真剣に悩みました。
あれから約20年、自分は念願だった移動販売の仕事を続けています。かなり時間は掛かりましたが、車内の改装全てを一人で作り上げ、総額85万円(車輛60万円+改装費25万円)という激安の費用で、この仕事を手に入れました。見た目はボロボロでカッコよくも可愛くもない店ですが、味には絶対の自信があり、車輛を安く済ませたかわりに、味に関する事にはめいっぱいのお金と時間をつぎ込みました。
おかげで、今の移動販売車は2台目となり、ちゃんとした業者さんに作ってもらい、かなり見た目はイイ感じです。借金も予定通り全て完済し(住宅ローンはありますが)、様々なトラブルはありましたが、概ね順調に進んでいました。しかし、新たな挑戦をしようといていた矢先に、コロナが襲い掛かってきたのです。
コロナの影響で、世間では移動販売という職業が頻繁に話題になり、自分の周りからも「キッチンカーは儲かっているらしいねぇ」「いい商売してるねぇ」なんて言われ、お店を出している時にも「私も移動販売をしたいんだけど、どうすればいいですか?」という相談をたくさん受けるようになりました。以前は個人の方が多かったのですが、最近は異業種からの参入も多いようです。驚いたのは、国や金融機関も、移動販売の開業者向けに積極的に資金を出すという、数年前までは全く想像もつかなかった状況になってきたことでした。自分の置かれている状況とのギャップを感じつつ、移動販売を取り巻く環境の急激な変化に、戸惑いを通り越して危機感すらあります。
本当に驚いています
自分が開業を考えていた当時、当然“移動販売”は存在していました。自分の知り合いも過去にやっていました。しかし、当時は移動販売という職業はそれ程一般的ではなく、自分の地元では飲食業というより、露天商に近いイメージで捉えられていたと思います。だからなのか、開業資金を調達する為に地元の金融機関を全て訪問したのですが、どこもすぐに断られました。遠くの金融機関には、電話をかけ相談するも「移動販売をしたいのですが」と話しただけで断られるケースもあるくらいでした。資金調達以外でも、出店先を探す為に営業周りをしていると、「お前等みたいなヤツとは関わりたくない!」「テキ屋は来るな!」と怒鳴られた事もよくありました。
そんな時代を経験しているだけに、これから移動販売を始める方に対して、通常の融資だけでなく、当然厳しい審査はありますが返済不要の補助金まで出てしまうという現在の注目のされ方には、本当に驚いています。
いつの時代もそうですが、国や自治体が補助金などで支援をする産業の多くは衰退や弱体化を進める原因になる事が多いです。ましてや、多くの方々が「いい職業だ」とか「儲かる仕事だ」なんて言っている事は“本当にいい事”でも、“いい事業”ではないと自分は思っています。
流行りやブームというのは、いずれ去るからこその流行りやブームであって、安易な理由で乗っかる事はとても危険です。もっと慎重になるべきなのです。
法律改定により移動販売が大きく変わります
元々飲食業というのは皆さんが知っているように、他の産業と比べて廃業率がとても高く“多産多死”と言われています。
ネットで調べるとすぐに多くの情報が見つかり、様々なデータを見る事ができますが、廃業率の元にしているデータの違いや、過去の古いデータを今でも引用していたりと、一概に何処のデータが正しくて何処のデータが正しくないとは言えません。開業して3年後には半分が潰れているとか、10年続けているのは1割もないとか、どのデータにしても厳しい事には変わらないのです。
そこで、普通の飲食業でも厳しいといわれている中、果たして移動販売はどうなのか?儲かる職業なのか?気になる方も多いと思います。
まず、自分が経験している中での話しをします。開業をした20年前、移動販売を本業として営業していた先輩同業者は、知っている限りでは全員廃業されています。ただ、これは移動販売特有の事ですが、移動販売での「廃業=失敗」というのは、全てのケースに当てはまりません。当時の先輩同業者にはいませんでしたが、自分が高校生の時に頻繁に通っていた移動販売のお店は、移動販売としてはすでに廃業をされていますが、今は固定店舗で営業され、しかも行列のできるお店として繁盛しています。
このように、数はそんなに多い訳ではありませんが、お店の業態が変化しただけで営業を続けている方もいます。つまり、その方達にとっては、移動販売の“廃業”ではなく“ステップアップ”ということです。
また、大手外食チェーンなどには、イベントや災害支援の為に移動販売車輛を複数台所有している事もあります。このケースでは移動販売単独での利益はあまり関係なく、営業許可を更新し続けている場合もあり、それでも保健所に登録をされている移動販売の許可件数の内の1件にカウントされます。
そして、これは自分にも当てはまる事ですが、1台の移動販売車輛で2つの営業許可を取得している場合もあります。通常はたこ焼きだけをお店で出しているので、たこ焼きを販売する為に必要な「飲食店営業」という許可を取りましたが、数年に1度、餡子を使った商品をお客さんに出す事があるため、「菓子製造業」という許可も取得していました。ただ、この区分けは2021年6月1日から無くなり、次の営業許可の更新年では、許可件数の数字が減る事になります。この6月1日から施行された新たな食品衛生法については今後、詳しく説明しますが、過去に経験がないぐらい大きな変化です。今まで何度も同じ仕様で営業許可を更新していた移動販売車輛でも、今回の改正に伴い若干の改装が必要になる場合もあります。そのため、現在制作途中の移動販売車輛は完成前に一度、許可を受ける予定の保健所に行って詳細を確認した方がよいでしょう。
次回は、移動販売業の登録件数の推移や、5年後の更新件数からみる廃業率、そして移動販売を営む為に必要な申請手数料と営業範囲の違いについてお伝えします。
ペンネーム:たこハシロウ
10代で両親を亡くしホームレスも経験。今は買い取った学習塾の6号教室で一人暮らし。5号教室は制作途中のバーカウンター、台所は元職員室、黒板は特大のメモ帳、下駄箱には工具とキャンプ道具。今も一人で改装中。過去にテントと寝袋、調理器具をチョッパーハーレーに積み、北海道・東北・北陸・関東・関西・九州、全国各地で調味料や食材探しとたこ焼き屋巡りの一人旅を経験。2001年、軽自動車のウォークスルーバン を一人で改装し85万で”HIRO君のたこ焼き屋。”を独学で起業。今は2台目で走行距離は地球約5週。営業回りは2000軒、出店した場所は100ヵ所を越える。