【同一労働同一賃金について】弁護士水上卓の法律問題相談室

1 事例

・取締役Aさん
「『同一労働同一賃金』っていうワードを最近よく聞くけど、正社員と非正規社員との間に待遇差を設けちゃいけないのかね?」
・取締役Bさん
「理由があれば待遇差があってもいいみたいだよ。でも、どういう場合に待遇差を設けていいのだろう?」

2 同一労働同一賃金について

平成30年6月に働き方改革関連法が成立しました。このうち同一労働同一賃金の法改正は、正規雇用、非正規雇用等のどのような雇用形態にも拘わらず公正な待遇が得られるようにすることを目的としたものです。大企業では令和2年4月1日に施行されましたが、中業企業では令和3年4月1日から施行されています。
その内容は、①不合理な待遇差を解消するための規定の整備、②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化、③行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続の整備という3つの柱からなります。
このうち、上記①は、正規雇用社員と非正規雇用社員との間で、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、待遇についても同じ取扱いをしなければならないというものです(均等待遇)。また、正規雇用社員と非正規雇用社員との間でそれらが異なる場合は、その違いに応じた待遇にしなければなりません(均衡待遇)。
均衡待遇は、事業所単位ではなく事業主単位で判断し、不合理な待遇差があるか否かは、基本給、賞与、役職手当、福利厚生施設の利用等の個々の待遇項目ごとに判断します。
具体的にどのような待遇差が不合理であるのか等は、ガイドラインが公開されています。もっとも、ガイドラインには全ての待遇項目について記載があるわけではなく、個別事案の是非は今後の裁判所の判断に委ねている点も多いことに注意が必要です。
上記②は、事業主が非正規雇用社員を雇い入れる際に、賃金、福利厚生施設の利用等の待遇内容を説明しなければならず、さらに既に雇用している非正規雇用社員から求められた場合には、正規雇用社員との間の待遇差の内容や理由等を説明しなければならないというものです。

3 具体例

具体例として、正規雇用社員と非正規雇用社員との間で退職金の支給の有無に差を設けることについて、概略とはなりますが近時の最高裁判所の判断をふまえた対応策を検討します。
最高裁判例では、退職金の趣旨・目的が正社員として職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ることにあったこと、そして、正規雇用社員と非正規雇用社員との間に職務内容、職務内容及び配置の変更の範囲に相違があったことをポイントとして、正規雇用社員には退職金を支給しつつ、非正規雇用社員には支給しないという待遇差は違法ではないと判断しました。
この事案では、正規雇用社員の退職金は基本給が算定基礎とされ、その基本給の賃金体系は職能給がベースでした。そこで、退職金の算定基礎となる正規雇用社員の基本給の賃金体系を職能給とすれば、客観的にも退職金の趣旨・目的が正社員として職務を遂行し得る人材の確保等にあると認められる可能性が高く、現状ではそのような退職金制度とすることがリスクヘッジの一つとなると言えます。
ただし、賃金体系が形式的に職能給であれば良いわけではなく、実質的な内容面からも職能給と言える必要があります。そこで、職能給を採用していた場合でも、事実上勤続給のような運用がされていると実質的には職能給ではないと判断されてしまう可能性があるため、昇格の際は能力の確認をする等、実質的にも職能給と言えるように日々運用する必要があります。
次に、事業主としては、正規雇用社員と非正規雇用社員それぞれの職務の内容や責任の程度、職務の内容・配置の変更の範囲を、一覧表でそれぞれ比較できる形でまとめるなどして現状を確認し、そのうえで、正規雇用社員と非正規雇用社員との間でそれらを明確に区別するという対応を取るべきです。
そのなかで、正規雇用社員と非正規雇用社員の職務の内容や責任の程度、職務の内容・配置の変更の範囲が明確に区別できる場合は、現状の待遇差が極端に異なる場合を除き、合理的であると判断される可能性が高くなります。
他方、もし正規雇用社員と同様の職務の内容を行っている非正規雇用社員がいた場合のように、両者の職務の内容等の区別が明確にできず、位置づけが曖昧な非正規雇用社員等が出てきた場合には、事業主としては、①当該非正規雇用社員を正規雇用社員として登用するなど、待遇を正規雇用社員と同一水準に引き上げる、②逆に正規雇用社員の待遇を引き下げて、当該非正規雇用社員と同一水準とする、③非正規雇用社員と正規雇用社員の両者の待遇の見直しをする等の対応が必要です。
ただし、②や③で正規雇用社員の待遇を引き下げることは不利益変更に当たるため、同変更にあたっては必要な手続を取らなければ違法となるリスクがあることに注意が必要です。