【藤沢 KAMOSU】太陽に依怙贔屓(えこひいき)された街で

オーナーののりこさんは自然体のやさしいママだ

県道から海に向かう通り沿いに「KAMOSU」はある。住宅とさまざまなお店がひしめき合わずバランスをとっている街並み。激しすぎない陽光と潮のにおいと子供の声が感じられるおだやかな空気だ。
緑色の奥の一軒家に夫の設計事務所とともに「KAMOSU」は居る。サンシェードに守られたウッドデッキを踏む足裏が心地よい。そこには地元の有機野菜や手作りの手芸品などが並ぶ。店内に入ると店主のお子さんが出迎えてくれることもある。靴を脱ぎ店内に入ると、棚とテーブルに各地の産物・調味料・自家製のお菓子などが居心地よさそうにならんでいる。オーナーの早田のりこさんが選りすぐった逸品ばかりだ。筆者なりに定義すると「KAMOSU」は、カフェでありセレクトショップであり小規模イベントスペースだ。焼きたてのお菓子のいい匂いが立っていたり、子供を連れたママが買い物に来たり、お茶を飲んだりしている。

そもそも海なし県で育ったんです。

20代前半まで滋賀県で過ごしたのりこさんは、スポーツはと問われれば冬は県内の山でスキーやスノーボードをしていたぐらい。海のような琵琶湖も近いが、海への憧れはあったようだ。湘南には親せきの家があり、幼少より海で遊ぶこともしばしば。波乗りなどはしなかったが海の近くに憧れ引き寄せられ、現在住む街に住むことにした。
「わたしには海も必要なんだ!」
憧れた街での生活ではあったが、オフィスのパソコンと向き合う毎日。一日の大半が海や太陽や人々の営みとかけ離れていった。この違和感は。

畑に導かれる。

日々の暮らしの中にある食べること、食べるものが作られる過程などを追及していく中で、自然と畑に足が向かうようになった。畑に出て土に触れ、実際に植物が育つのを目の当たりにすると、自分が生きるヒントが見えてくる気がした。オフィス作業の傍ら、週末に太陽の下で身体を動かして野菜を育てるのはハードな生活であったに違いない。しかし子供といっしょに土いじりをしていると、栄養と豊かな時間を自分で選び取っていく喜びはますます大きくなっていった。そして3年前、のりこさんは半生の結実である「KAMOSU」をオープンする。ストイックでなく気負いもなく、自然な自然派ショップである。

地域と人の輪を”醸す”普通のママ

ご近所さんとのお付き合いが希薄といわれる現在では、お隣さんのことすらよくわからないことが多い。ほぼ地元であるこの地にお店を構えても、周りは知らない人ばかり。ホームページやSNSをつかって手探りでPRをはじめると、自分と同じように子供を育てている人、健康に気を遣う人が訪れてくれるようになった。手作りのお菓子を焼く日を楽しみにしていた親子が取材中にも何組か来店されていた。おいしくて安心安全なものに母親の嗅覚は鋭い。
「ご近所の方も来てくれて、お店をしていなかったら知り合いになっていなかったかも」
お店は自分を表現する場所。その表現に共感してくれる人が多いことに感激すると言う。
最後に、お子さんが好きなのりこさんの手料理を聞いてみた。シジミのお味噌汁だそうだ。
「なんで?」と一瞬思ったが、よく考えればお味噌はのりこさんの自家製であった。

ご自分のお子さんだけでなく地域のためのお母さん

◆取材協力
早田のりこさん
店名:KAMOSU(カモス)
住所:神奈川県藤沢市本鵠沼4-14-12

記事執筆

光山健児(みつやま・けんじ)

1963年神奈川県茅ケ崎市生まれ。
20年のサラリーマン生活ののち、飲食店勤務を経て2014年ダイニングバーを開業。他店舗研究が高じて、神奈川県の飲食店を中心に取材・広報活動を行う。