【スパイスカリーつけ麺・門仲山田】コロナに苦しめられた居酒屋店主が生み出した反撃のラーメン 

門仲山田店主 井田哲也氏株式会社Tiesカンパニー 代表取締役 井田哲也氏

東京都にまん延防止等重点措置が適用されていた77日にオープンし、その5日後の12日には緊急事態宣言が出されるという最悪のタイミングだったにも関わらず、SNSなどでクチコミが広がり、ラーメン好きの間でいま評判になっている店がある。 

「スパイス足りてる?」 

ひときわ目を引く黄色い垂れ幕が、道行く人にそう問いかける。なんの店だろうと近寄って案内板を見ると、スパイスカリーつけ麺専門店という表記。 

ありそうでなかったジャンルかもしれない。一体、どんな味なのだろうと興味が湧く。食べてみると、それほど辛くはないのにしっかりとスパイスの香りと味わいを感じる。よくあるカレー味のつけ麺とは違う。スパイスは、毎日、お店で臼と杵を使って手で挽いている。杵というよりは石の棒か。これで丁寧に叩いて潰していく。 

「これが大変で。ミルを使えばもっと簡単かもしれないのだけど、ミルだと、きめ細やかさが落ちるというか、なんかあと口に残る感じがあるんですよね。だから手間がかかるけど、石で潰しています」 

美味しいものは、手間がかかるのだ。まだオープンして間もないのに、叩きすぎて石の棒が、折れてしまったこともあるそうだ。SNSで話題になるのもよくわかる。 

門仲山田

新たなる挑戦の始まり 

改めて紹介しよう。この店は江東区門前仲町にオープンした「門仲山田」。スパイスが好きだという井田哲也さんが考えたスパイスカリーつけ麺が評判の店だ。 

井田さんは、今年の1月まで茅場町で和食居酒屋を経営していた。オフィス街の飲食ビルの中にあったこの店は、収容人数も多い大店舗で家賃も高かった。茅場町のビジネスマンに愛された人気店だったが、コロナ禍の影響をまともに受け、来客数は激減した。この状況がいつまで続くのか、先行きが見えない状況に、ついに撤退を決める。 

本社は鳥取県で複数の飲食店を経営している企業。井田さんも鳥取出身だ。しかし、鳥取に帰るのではなく、東京でもう一度頑張る道を選んだ。 

「今のような状況がいつまで続くかわかりませんので、もうオフィス街はやめて、今度は、人が住んでいる町で路面店にしようと考えました。以前の店は宴会で使われることも多かったのですが、そんな需要もしばらくはないだろうと思ったので、少人数グループが楽しめるアットホームな大きさの物件を探しました」 

門前仲町は、茅場町のすぐ近くだが、下町の雰囲気が色濃い。住んでいる人も多い。会社員、商売人、地元住民が程よく共存する活気のある町だ。そんな下町らしい活気が、井田さんにこの町を選ばせたのかもしれない。カウンター8席、テーブル12席の小さな店が新しい挑戦の場となった。 

門仲山田

居酒屋のランチだから 

「ラーメン店をやろうと思ったわけではありません。門仲山田は居酒屋です。居酒屋のランチで普通のことやっても今の時代は厳しいですよね。そこで、何かインパクトのある料理ができないか、でもロスはできるだけ抑えられるメニューがいい、と考えていくうちに、流行りのスパイスカレーを麺で食べる料理はどうだろうというアイデアに行き着いたんです」 

つまり、酒類提供ができるようになれば、門仲山田の夜は完全に居酒屋になる。スパイスにこだわる居酒屋。もちろん普通の居酒屋メニューも用意するが、スパイスを使ったスペシャル料理が登場する。ランチタイムはスパイスカリーつけ麺を続ける。 

飽きられない工夫を

「オープンは夏だったので、スッキリした爽やかなカレーがいいなと思い、カルダモンの清涼感を強調したスープカレー風つけ汁にしました。しかし、涼しくなってくると、この軽さが物足りなさにつながってしまう可能性がある。コクや味わい深さが欲しくなるんです。なのでこの秋からは、出汁をしっかりと利かせた新しいつけ汁に変えました。季節限定の冷やし中華の代わりに、まぜそばを開発。季節に合わせてメニューのリニューアルをしたり、新商品を開発したり、飽きられない工夫もしていきたいと思います」と話す。 

「でもラーメンって、難しいですね。美味しい麺と美味しいスープを作ればいいってわけじゃない。バランスがとても大切なんです。開発中、カレーとしては美味しいのに麺と合わせるとイマイチということを何度も経験しました。いまだに試行錯誤はありますし、毎日が勉強です」

門仲山田カリーつけ麺

コロナで苦しんだ経験があったから

最後まで井田さんの話を伺って思ったことがある。Withコロナ時代の居酒屋がとるべき戦略の一つが、ここにあるのではないだろうか。コロナ禍を生き残るために、起爆力のあるランチメニューを作ろうと考えたのは、実際にコロナに苦しめられた経験を持っていたからだろうと想像できる。 

「夜営業をはじめたとき、老舗も多い門前仲町で、うちのような新参店にどれだけ来ていただけるのか、常連になっていただけるのか、とても心配です」と言う井田さんだが、ランチで掴んだ評判と話題性は、必ず居酒屋にもつながるだろう。和食の達人が次はどんな料理を作るのだろうと、興味津々にならないわけがないのだから。 

記事作成:市毛秀穂

#取材協力
店名:スパイスカリーつけ麺「門仲山田」
住所:東京都江東区深川2-13-1