2020年4月の緊急事態宣言後は、今、何ができるか、飲食の仲間は何をしているか、世の中はどう動いているか、そんなアンテナをいくつも張りながら、今後自分たちはどこに向かうべきかを考え続けました。そんな中、もともと交流のあった大分県の飲食仲間がフルーツサンド屋をオープンしたんです。私も何か新しい手を打たなければと思っていた中、“フルーツサンド”は自分にものすごく刺さりました。
実際に、大分までお話を聞きに行き、学ばせて頂きましたね。しかし、京都でフルーツサンド屋をオープンしたとしても、どうしても後発になってしまいます。皆が驚くような何か付加価値が必要でした。「何か、何か、何かないか」と考え続けました。そんな時、物件情報が入ってきたのですが、そこは、京都の「烏丸」というビジネス街であり、近くには百貨店がある立地でした。もしそこで店を出すならどんなターゲットが考えられるか。ターゲットは会社帰りのビジネスマンや、百貨店を利用する年齢層の高い方になります。そこで、単なる断面映えするフルーツサンドではなく、有機食材を使ったフルーツサンドにしようと考えました。
また、一般的なフルーツサンドは、断面が一番大きく見えるように、三角の形になっていますよね。カラフルでインパクトがある見た目は若い世代に人気ですが、その分、1つのサンドの量が多いんです。30歳、40歳になると、甘いものってたくさん食べられなくなる。「少量で良いもの」、もしくは「少量でいろんな種類を食べたい」という嗜好に変わっていきます。そこで単なるサンドイッチという概念から、見た目も可愛らしく見えるスクエア型にしたコンパクトなフルーツサンドに仕上げることにしました。
仕入れ開拓を甘く見ていた
コンセプトが決まり、商品開発を行うわけですが、フルーツの仕入れがこんなにも難しいとは思ってもいませんでした。お好み焼屋を経営してきた私たちにとって、フルーツは八百屋さんにお願いするものだという感覚でいたからです。さらに、有機栽培で育てたフルーツとなると、さらに難しいのです。看板商品にしたいと考えていた有機JAS認証のいちごは、市場ではほとんど出回っていません。京都でそのいちごを栽培していたのは2人だけでした。もちろん自分達にはルートがないため、いろんなところに掛け合い、ようやく仕入れさせていただくことができました。
食パンの選定にも苦労しました。いろんなところに食べに行きましたが、いざ交渉をすると、私たちにはまだ実績がないこと(フルーツサンド屋として)、また現状で手一杯というお店が多く、断られる日々が続きます。このような状況下、新たなビジネスの話をだれもが喜んでくれるという私たちの思い上がりだったのかもしれません。さらに、ココアを配合した黒の食パンを使うことにもハードルがありました。黒の食パンを製造するには、ココアの色が他の食パンに移らないようにするために、他の商品を全て焼き終わった後に焼くという事情もあり、なかなか商談は進みませんでした。しかし、ことごとく断られる中で、1店舗だけ快諾してくれたお店がありました。パン作り一筋の職人の方です。物件は既に決まっていましたから、商談がまとまった時は、嬉しさよりも、とにかくホッとしたのを覚えています。
オープン後の反響
オープン2週間前からInstagramで、「プレミアムいちごサンド300個限定無料」と広告を配信しました。この効果は非常に高く、短期間で多くの人に知っていただくことができました。営業時間は11時から16時まで。平日は1日200個、週末は350個を販売し、ほぼ完売する状況が続いています。まだ製造に余力はありますが、今は、量産することよりも、有機JAS認証のフルーツサンド「ももの樹」というブランドづくりを大切にしたいと考えています。また今後は、季節に合わせて有機JAS認証のフルーツの種類を増やしていく考えです。
新しいことをするには、本当にエネルギーがかかります。これまでお好み焼屋を展開してきた経験はありましたが、新業態は予想外のことばかりでした。試作を何度も行うため出店以外の費用もばかになりません。今はまだ自分達の店の確立で手一杯ですが、もし今後多くのお客様からの支持をいただけるならば、業態をパッケージ化したいと考えています。今、飲食業界は厳しい状況が続いていますが、今回お話した私たちの経験が、新たなチャレンジをする飲食店さんの少しでもお役に立てれば嬉しいです。
取材協力
モンテステリース有限会社 取締役社長 星山真也氏
京都府京都市中京区西魚屋町593
TEL.050-5218-9481
乙丸千夏(テンポス広報部)