売り上げゼロを6ヵ月続けて、まだ辞めない。

当時の秤には時計の様なデカイ針がついていた。
それがデジタル表示になって、
東京電気で専任の電子秤 販売担当として、全国で50人の営業経験者が採用された。
俺は新卒ではあったが、学生時代「ブリタニカ」という、全部英語で書かれている百科事典のセールスをしていたので、営業経験者ではあった。
ブリタニカは全部英語で、全く読めないから、辞典としての価値は無いものを、うまいことを言ってその気にさせて売るんだから、毎日詐欺の練習をしていた様なもんである。
しかも50年前、初任給2.5万の時代にワンセット36万もした。今で言えば300万くらい。
それを売りに行くのだから、自分をこれで財を成すんだと、洗脳させてカルト集団の様なグループだった。
それなりに「ブリタニカ」は販売していたから、自信はあったし、
東京電気(テック)は社員も1万人近くいる上場会社だし、
まともなものを売るのが嬉しくて、意気揚々としていた。
セールスのセオリーを学んだ。
アプローチトーク お近づきの話し方
クラッチ合わせ 相手の警戒心を取り除き気軽に話せる様な投げかけ。
プレゼンテーション 導入前の導入後比較 他社比較
テストクロージング 買うとすれば、現金で支払いますか、リースにしますか。
買うとすれば、ここに置きますか、それともこちらにしますか
クロージング 契約を迫る、決断させる
何回もトレーニングを重ねた、覚えは良いし、勉強熱心だからトークの腕は上がったが、ちっとも売れない。
全国の50人が一人辞め、二人辞めして、9月には8人しかいなくなった。
我々のテックの商品は、ハイメトロンという商品名である。
ハイメトロン 最大2キログラムまで計れる、2グラム単位 42万円
石田秤 2キログラム 2グラム単位 28万円
寺岡 2キロ 2グラム単位 30万円
大和秤 3キログラム 1グラム 27万
50年以上前のことだからうろ覚えだけど、秤量(最大計れる単位)、メモリ、
性能、価格、どれを取っても、ハイメトロンは最低の商品であった。

こんな状況の中でも売ってくる人はいた。
俺は9月までで、ただの一台も売れなかった。
6か月ノーセールで、首にもならなければ、辞めもしなかった。
毎日新聞の転職のページを読むのが日課となって、気持ちは職探しをしていたから、余計に売れるはずもなかった。

ろくに仕事もしないで怠けてばかりの半年に嫌気がして、退職を申し込む前に、
一ヶ月後に退職すると願い出て、今月から給料いりません。
そのかわり自分の経費で結構ですからと、全国トップセールスマンのかばん持ちを願い出て許可をもらった。
それからの話は明日にします。