陰口を叩かれてばかりの俺が、一度だけ立派な男だと褒められた事がある。

40キロもあるでかい秋田犬を、毎日散歩に連れて歩いている。
有名な池上本門寺は、境内も広く、公園とつながっているので、余計に広くなっていて、犬の散歩にはもってこいで、朝の6~7時は、犬の散歩のラッシュである。
「朝潮」は、父「貴闘力」母「円」の血統書付きの真っ白な名犬。
実家にいるときは、一日中鎖を外してあるので、野山は自由に歩き回る。一軒家なので、隣まで500メートル離れており、「朝潮」は隣まで出向く事もある。
1~2時間の散歩は当たり前で、居なくなったとも思わないし、そのうち帰ってくる。
気に入った犬の居る小屋の前で2時間も座っている事もある。
東京ではそうはいかない。
村はずれを朝潮と、一緒に歩いていたが、突然藪の中に突っ込み、物凄い勢いでガサガサ駆け回って、暫くしたら、向こうの方で「びーびー」鳴き声がする。
どうかしたかと駆け寄って見たら、同じ位の大きさのイノシシの喉に食らいつき、押さえつけていた。
ビービーは、イノシシの鳴き声であった。
石で頭を叩き、家で皮を履いでしし鍋にした。実のところ、あさくまのステーキの方がうまかった。
秋田犬を、2匹飼っている家が近所にあるが、「朝潮」は吠え友達でその家の前を通る時のけたたましさといったら、気恥ずかしくなるほどで、「朝潮」の通る時間には
二匹を家の中に閉じ込めているが、二階と道路で吠えあっている。
扉が空いていて、二匹が朝潮に飛びかかってきた。
3匹とも真っ白、がほがほ噛み合っていたが、そのうちに「朝潮」が顔から首から血だらけになった。
家主が蒼白になり走ってきて、平謝りで家に連れ戻した。
朝潮はひどい怪我をしたようで、血が垂れていた。
よその犬に噛み付いて、もうなん万円も払っている。だいている犬にまで飛びかかって噛みつき、
病院代と慰謝料で10万近くはらった
今度は飛びかかられた方なので、気が楽だった。二匹の持ち主が、昼になって見た事もないようなケーキを持って謝りにきたそうだ。
向こうの犬の血が付いただけで、朝潮は怪我をしてはいなかった。
ケーキ美味かった。
本門寺の境内を朝潮と散歩していたら、放し飼いのラブラドールが二匹、朝潮めがけて突進してきた。ラブラドールは大人しい犬のはずだが、
2対1でがほがほ始めた。
止めるはずの飼い主はどこにいるかもわからない。
一匹が朝潮に噛み付いた。もう一匹も噛みつきそうになったので、思い切り蹴りを食らわせてやったその時、朝潮が噛み付こうとしたその犬に、蹴りをいれた俺の太ももを、朝潮にガバッと噛みつかれてしまった。
飼い犬に足を噛まれた。朝潮も何がなんだかわからないようで、相手の喉元を噛み付こうとしたら、主人の腿であったとは、という顔をしていた。
デカイ牙で根元まで噛みつかれたら、痛さを通り越して、一瞬神経が働かなくなり、へたへたと座り込んでしまった。
まだ犬どおしがほがほやっている。そこに飼い主が息を切らして走り込んできた。
噛まれてへたり込んでいる俺を見つけて、飼い主が二人で抱きかかえて起こしたが、足が麻痺して歩けない。
椅子のところまで抱えられて行った。
飼い主はビックリして、「大丈夫ですか」と震えながら聞いてきた。
「大丈夫な訳ないだろうよ!」とは言わなかった。
朝潮に噛まれたのだから「大丈夫」と言ってへたり込んでいた。
病院だ救急車だうるさいので、大丈夫です。構わないで下さいと言った。
飼い犬に噛まれたとはとても言えない。
構わないて下さいが精一杯であった。暫くしてどうやら歩けるようになっり、ひどいびっこをひいて、公園の脇をヒョコヒョコと、帰った。
数日して歩けるようになったので、朝潮と散歩に出かけた。
ビッコがわざとらしいので、公園の隅の方を人目を避けて歩いた。
何日かしたら、物好きが話しかけて来た。「あんた、あれだけの怪我をさせられたのに一切請求しなかったんだってぇ、よくなぁ、我慢したもんだ。」
公園では俺の事を日本の「サムライ」ここにありという噂だそうだ。