盛岡冷麺の元祖 『食道園』の冷麺は愛され続ける温かな冷麺

盛岡の繁華街とは少し離れ、駅から徒歩15分程の細い路地中に佇んでいるのが、盛岡冷麺の発祥とよばれる「元祖 平壌冷麺 食道園」。

外食産業が大きく変わったという、1970年の外食元年と呼ばれるよりも前、昭和29年に食道園は創業した。創業当時は飲食店も少なく、外食といえば、いわゆる家族のハレの日にだけ、という時代だった。

「平壌冷麺 食道園」という名前で店を出せば、「平壌冷麺」という珍しい名前に興味を持った客が店に押し寄せることだろうと創業者は考えた。

しかし、2代目オーナーである青木氏に創業当初の話を聞くと、お客様からの評価は最悪だったと話す。もともと在日朝鮮人であった先代の店主が、子供の頃に食べた朝鮮の冷麺を再現しようと、そば粉を使った黒い冷麺を、本場スタイルの銀製の器にいれて提供していた。それが朝鮮半島に伝わる冷麺「平壌冷麺」のスタイルだったのだが、これが日本人には合わなかったのだ。「色が気持ち悪い」「麺がゴムのようだ」と酷評の嵐。しかし、そんな辛い創業当初を支えたのが、先代の妻、現オーナー青木氏の母親だった。日本の味覚を持つ(日本人の)日本の味覚を持つ(日本人の)母親は、初代店主に日本人が好むような味は何なのか伝え何度も試行錯誤を繰り返したという。「色が気持ち悪い」という黒い麺は、そば粉を使うのではなく小麦粉に変えることで、現在の白い半透明な麺を開発した。冷麺の器も銀製から白い器に変えることで料理の印象を変えた。

これらの取り組みによって、日本人に受け入れられるようになり、お客様が一人、そしてまた一人と増えていった。「ゴムのようだ」という評価に対して、平壌冷麺特有のコシの強さは残したままにしていたが、麺の見た目の改良やトッピングの改良などにより、「冷麺独特のコシの強さが忘れられない」と、来店客をファンに変えていったことで、押しも押されもしない現在の行列繁盛店「平壌冷麺 食道園」を確立させたのだ。

冷麺作りで大事なのは「麺」「スープ」「キムチ」、この3つ。その中でも「スープ」が一番の要であるという。厨房には直径60㎝はある大鍋に、たっぷりの牛肉を入れグツグツと煮込んでいる。「この牛肉をケチるとスープは旨くならないんですよ」と青木氏は断言する。良質な牛肉を丹念に煮込むことで、透明だけど少し甘くて旨味のあるスープができあがるのだ。観光客を中心に、冷麺に辛味を入れて食べるスタイルが流行ってはいるが、青木氏の一番のオススメは、スープの味を堪能できる、辛味を入れない普通の冷麺とのこと。ちなみに、食道園では現在、昼夜共に平壌冷麺を1杯900円で提供している。ランチは、焼肉も一緒に楽しめるカルビ肉と冷麺のセット1650円が好評だ。

あまりの行列に、多店舗展開の意欲を聞くと、「出店はあまり現実的な話ではありません、スープは1日半でだんだんと酸化してしまうし、自家製麺は、作り置きをすることができないですから。出店すれば儲かるかもしれないが、創業当初からの味を提供できる職人という点で、人手が全く足りません。」と語る。

青木さんの親である、先代の店主ご夫婦が、ゼロから生み出した味を変わらずに守り続けることが、わざわざ楽しみに来店してくれるお客様への精一杯のおもてなしであり、愛され続ける店である証なのだろう。

元祖 平壌冷麺 食道園

岩手県盛岡市大通1-8-2

Tel019-651-4590