成功者と凡人の分かれ道。

今回は、普通の真面目な凡人と、成功する人が、どこで分かれるのかを考えてみたい。分かれ道は、どこにあるのか。俺が思うには、熱量の差じゃないかな。要はエネルギーなんだ。

ここでは、年商でせいぜい50億から100億くらいの社長というのを、成功した人だと考えよう。この程度の会社の社長というのは、俺もそうだけど、賢そうなことは言うけど、全然、賢くない。そこに至るために、普通の真面目な人と何が違うかというと、単細胞でエネルギーが強いこと。単細胞でないと、エネルギーって、なかんか出てこないんだよね。

本をたくさん読んでて、知性を使って、打つ手を考えるような人は、50億、100億の社長にはなりにくいんだ。なまじ考えると、打つべき手が20個くらい思いついちゃう。そんなに思いつくと、何をやればいいのか、優先順位が分からなくなる。打つべき手ってのは、多少は的からずれてても、ガリガリやれば何とかなるんだよね。いくら単細胞だって、うまくいかないことを、いつまでもやってない。次の事をやるでしょう。

大事なのは、考える事よりも、ガリガリやるってこと。熱エネルギーのある人間は、失敗してもくじけないから、最後は成功していくんじゃないかな。

浜松に「あさくま鹿谷ガーデン店」という店があるんだけど、その店で、高級な焼肉をやろうということになった。店を焼肉館とステーキ館に分けて、あさくまというステーキ屋が焼肉をやるとこうなるという新しい試みをしてみようというわけだ。その焼肉館が、今年8月7日にオープンした。

その店の店長の牧野という男は、60歳で、とにかく実直で、誠実なんだ。焼肉館がオープンした後、この牧野の動き方を見ていて、こころへんが、成功者とサラリーマン店長との分かれ目なんだなと、つくづく思ったね。

新聞にチラシを入れたり、新しい看板を出したり、フリーマガジンに広告を出したりして、客集めをやるのはいい。でも、俺に言わせれば、そんなのは努力でも何でもないんだよ。金を使っているだけだからね。ところが、牧野は、そういう集客活動に終始するわけだ。他の事は、中途半端にしかしない。

俺だったら、自分が提供しているものが、本当にお客様に受け入れてられているかどうか、必死になって知ろうとするだろうね。あの手、この手でお客に聞くよ。聞かないといけないんだ。ところが、牧野は必死に聞かない。中途半端に聞くから、店の欠点が見えてこない。

9月の初めに、俺がその店に行ってみたら、「5点盛り冷麺」というメニューがあった。確かに、5点は盛ってあったけど、きゅうりのスライス2枚とか、うすっぺらなリンゴが2枚だとか、ありきたりな具が、冷麺の上にのっているだけなんだ。俺は「この野郎!」と思ったよ。寿司屋で普通、5点盛りと言ったら、5店すべてが素晴らしいという意味なのに、この冷麺のどこが「5点盛り」なんだ!

それから、器が貧乏ったらしかった。焼肉館の客単価は3500円に設定されている。あさくまの客単価は1780円くらいだから、ほぼ2倍のお金を支払ってもらおうとしているのに、そのまま流用していたんだ。3500円のお客様使う器にしては、安っぽいんだよ。なおかつ、デザートが情けなかった。アイスクリームと何かが2つ皿にのっているだけ。3500円も取るんだったら、スイーツだって8品から10品くらいあって、そこから3~4品、選ばせるくらいにしないと、お客様は満足しないだろう。

よくよく聞いてみると、店長の牧野の頭の中にあるのは、何とか滞りなく店を運営して、一日を終えたいということだけだった。だから、日々に熱心にやってるのは、クレームへの対処だった。

クレームなんか、5つでも6つでも、まとめて一気に処理すればいいんだ。クレームの処理とクレームをもとにして明日からの対策にしていくことが大事なんだ。なおかつ、焼肉館が提供する食事に3500円の価値があるかどうかをお客様に確認して、「価値がない」と思うお客様が少しでもいたら、何らかの手を打って、「価値がある」と思われる店にしなければいかん。それが店長の仕事なんだ。

俺と牧野の違いは、何よりエネルギーのぶち込み方だった。やるべきことに、どれだけエネルギーをぶち込めるかが勝負なのに、彼はぶち込むエネルギー自体が少なすぎるんだ。だから、全てが中途半端でクレーム処理だけで一日が終わってしまう。

飲食店で、新メニューを出したとする。それが売れるか売れないかを、一刻でも早く見極めないといかんわね。ところが、新メニューがメニュー帳の下のほうにのってたり、POPも地味にしか出していない店が多いんだ。その程度で、3ヵ月くらいして、「あまり売れませんね」と判断したりしている。

本来、新メニューを出したら、来るお客様全員に対して、「今度これを売り出したんで、一度、食べてもらえませんか」くらいのことを、全従業員が言わないといかん。メニュー帳のトップに新メニューを出し、POPは一番目立つところに貼るなど、全店あげて新メニューをプッシュしないとダメだ。その結果、売上が悪いんだったら、味が悪いか、値段が高いかといった見極めもつく。

ところが、牧野のような真面目なだけの店長は、見極めるためのエネルギーをろくにぶち込もうとしないので、3ヵ月たっても見極めをつけられない。淡々と真面目にやってるだけなんだ。

独立して新店舗を作ったとしよう。2000万円なり3000万円なりかけた店を立ち上げたとする。そのとき、かなりの経営者が、牧野店長と同じようなやり方をする。一生懸命やるだけなんだ。

でも、成功するためには、一生懸命くらいじゃ足りないんだよ。半年くらいは、死ぬ気でやらないとダメだ。家族と、海水浴に行ってるようじゃどうしようもない

場合によったら、店に寝泊まりする。資金に余裕があるわけではないんだから、売れ残った食べ物を家に持って帰って、それ以外の食費は一切使わないだとかさ。これくらい、徹底してやりながら、お客の評判を確認する。いろんな手を打つ。こうして真剣にやってたら、子供の運動会に行くヒマなんか、あるはずがないんだよ。

半年なり1年なり、自分で死ぬ気でやって、ダメならやめようという覚悟もないんだろうな。覚悟があれば、その間だけでも必死でやるという動き方になるはずだ。要は、エネルギーのぶっ込み方が決定的に足りないんだよ。そもそも、生きるエネルギーが足りないのかもしれないね。

対照的にさ、少し前に植草某という教授がよくTVに出てたじゃない。女子学生のスカートの中を盗撮して捕まったよね。俺は思うんだけど、彼が偉いのは2度も捕まったことだ。あれこそが生のエネルギーなんだよ。エネルギーってのは、理屈を超えて、体の中からやむにやまれず、出て来るものだからね。植草某のような人材がうちに来たら、すぐに常務だよね。

俺はいま67歳だけど、あと33年100歳まで現役でやろうと思ってる。当然、体を鍛えておかないといけないから、三浦雄一郎をライバルだと思って毎日、運動している。運動すると、頭が単細胞になってくるからいいんだよ

朝は5時半に起きて、ゴミの片付けをした後、6時少し前くらいに家を出る。犬の散歩に行くんだけれども、チンタラ歩いても運動にならないから、散歩の間中、中腰で歩くようにしている。膝を曲げて、スクワット状態で歩くわけだ。最初は、100歩も続かなかったけど、最近じゃあ、一時間ほどの散歩中、ずっと中腰で歩けるようになったね。歩いている間は、体をひねるなどのストレッチもしている。また、犬が小便するために立ち止まると、その場で前屈、後屈をしたり、木などにつかまって、脚を蹴り上げる運動もやる。顔の表情金も大事だから、歩きながら顔を左右にねじ曲げたり、大口を開けたりする。近所の人は、俺とすれ違っても気味悪がって、寄って来ないようになったけどね。

公園につくと、腕立て伏せ、腹筋、懸垂。最近は、200m走をやるようになった。7月頃にTVを見てたら、94歳のばあさんが200mの年齢別世界記録に挑戦しているという番組をやっててね。200mを58秒走ってるんだ。すごい速さなんだよ。それで、自分のメニューには、短距離走入ってなかったと気づいて、走ってみたら、60mくらいしか走れなかった。しかも脚がもつれた。これはいかんと、毎朝、走るようにしたんだ。最近では、脚はもつれなくなったし、140mくらいは全力で走れるようになってきた。

家に帰ってからは、腕を鍛えるために、鉄アレイを持ち上げる。それで息が切れたら、息を整えるためにしゃがんで庭の草を取る。右手で130個ずつ取る。さらに左手で130個ずつ取ってワンセットだ。息が整ったら、また鉄アレイを持ち上げる。この運動を毎朝、6時から7時半まで、みっちりやっている。

 

Smiler vol.20 森下篤史の店長教育

2014年11月発行