相手の腹の底を見極められず失敗したセールスマン

ビジネスアスリート 森下篤史

分不相応なものを欲しがる人がいる。それが使いたくて欲しいのか、それを持ってる事が嬉しいのか、それとも、持ってる事を自慢したいから欲しいのか。「貧乏人が持てるものではありませんね」「最新機種でまだ使ってる人は少ないですようですね」、そんな受け答えの中から、どんなものを欲しがるタイプか、どんなものを欲しがっているか、相手が欲しがっているものを見極めないといけない。

40年前・・・
Kyodoというコンベア式の給食センター向けの洗浄機メーカーを経営していた頃、350食程度の小さな給食センターに、食器洗浄機を売り込みに行ったことがあった。オーナーと仲良くなって洗浄機を入れ替える事になったが、せいぜい270万円の型で十分の規模だったが、そのオーナーは580万円の洗浄機の説明をしてくれと言う。「350食分の食器が洗えればいいんですよね? 270万の洗浄機なら500食になっても能力的には十分ですよ。勿体ない!」、そう言って納得させた。だが、結局そのオーナーは他社から780万円の洗浄機(過剰設備)を買ってしまった。

お客さんのためと思って機能的には十分な機種を薦めたが、本人は機能ではなく、大型の洗浄機を欲しかったのだろう。そう言えば、その給食センターの社長室は馬鹿に綺麗で靴を脱いで上がる応接セットだった。普通なら、350食程度の小さな給食センターの会社に社長室なんて無いし、社長の机なんて事務所の隅の方に、壊れた椅子と一緒にあるものを使っているくらいだよ。どこもその程度だ。だけど、780万円の洗浄機を買ったオーナーの社長室は金をかけていた。俺は、その社長が物を欲しがる人だったことに気がつかなかったんだ。この人が買いたいものは、機能ですか、良い物を欲しがっているのですか。腹の底にあるものを見極めなくて失敗した。

年商230億くらいのときの社長の机。後ろのハンガーは、社員のもので、座っていても社員がコートを取りに来ると立っていたあの頃。by 編集部