【この機会にパワハラ防止対策を】弁護士水上卓の法律問題相談室

事例

取締役Aさん 令和4年4月1日以降は中小企業でもパワハラに対する対策を取ることが義務化されるみたいだけど、知っている?

取締役Bさん 詳しくは分からないけど、パワハラの申告者に対して適切な対応を取らなければならないだけではなくて、パワハラの行為者に対しても適正な処分を行う必要があったり、様々な対応が求められるみたいだよ。

令和4年4月1日以降のパワーハラスメントに対する措置の義務化

いわゆるパワハラ防止法が令和2年6月1日から施行され、パワハラに対する措置を取ることが大企業については既に義務化されています。

他方、中小企業については令和4年3月31日まではそれらの措置を取ることは努力義務とされていたところ、4月1日からは中小企業についてもパワハラ防止に対する措置を取ることが義務化されることになります。もし適切な措置を取っていなかった場合には、勧告を受ける、企業名を公表されるといった行政指導等を受ける場合があります。

このようなパワハラ防止のための措置の義務付けの背景には、全国の労働局に寄せられた個別労働紛争に関する相談のうち、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が右肩上がりに増加し続けており、パワハラが社会問題化していたことが挙げられます。

企業が取らなければならない措置

パワハラ防止法で企業に義務付けられたのは、①パワハラに対する自社の方針等の明確化と周知・啓発、②パワハラに関する相談等の体制の整備、③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、④①から③までの措置と併せて講ずべき措置です。

具体的には、①では、職場におけるパワハラにあたる内容やパワハラを禁止する旨の方針を明確にして、パワハラの行為者に対して厳正に対処する旨の方針や対処内容を就業規則等に示し、従業員に周知・啓発すること等が必要となります。

②では、パワハラに関する相談に対応する窓口をあらかじめ定めて従業員に周知するとともに、相談窓口の担当者に対して相談対応について研修を受けさせたりマニュアルを作成したりして担当者が適切に対応できるようにしておくことが必要となります。

③では、パワハラが発生した際に速やかに事実関係を確認し、パワハラの事実が確認できた場合には、被害者に配慮する措置として配置転換やメンタルヘルス不調への対応等の措置を速やかに行う必要があります。さらに、パワハラを行った従業員に対しても、就業規則等のパワハラに関する規定等に基づき、必要な懲戒やその他の措置を講じることが必要となります。

④では、パワハラの相談者や行為者のプライバシーを保護するために、必要な事項をあらかじめマニュアルに定めることや相談窓口の担当者に研修を行うなど必要な措置を講じること、また、パワハラの相談等を行ったことを理由として従業員に対して解雇など不利益な取扱いはしないことを周知することが必要となります。

パワハラのリスク

パワハラ防止法では、パワハラの定義を「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就労環境が害されること」としています(なお、「優越的な関係を背景」とは、上司から部下に対する言動に限定されているわけではなく、各種事情によっては部下から上司に対する言動がパワハラとなることもあり得ます)。

企業を運営していく上で従業員に対して業務上必要な教育や指導を行うことは避けて通ることができませんが、上記のパワハラに該当することを過度に恐れて指導等を怠ることがあれば企業の運営上大きなリスクを負いかねません。

また、企業は従業員に対して働きやすい良好な職場環境を維持する義務を負うため、企業がパワハラに対応するための体制の整備を怠るなどしてパワハラが発生した場合には、損害賠償責任を負うリスクもあります。

令和4年4月1日からは全ての企業にパワハラ防止のための対策を取ることが義務付けられますが、これを機に各種対応策を講じておくことは、上記のようなリスクを回避することにもつながります。この機会にパワハラ防止対策をご検討されてはいかがでしょうか。

【執筆者プロフィール】

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上 卓(みずかみ すぐる)

新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件等。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県等後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

住所:東京都中央区日本橋富沢町7−14岡島ビル8階
TEL:03-6661-0775

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