【川崎市 Te. Mari(てまり)」】乗馬・テニス・バレエやってた?お嬢様じゃね?

入手困難な而今・新政・十四代なども飲むことができる。

実はオーナーの真理子さんとは、一度お会いしたことがあった。とても上品でおっとりしていて育ちがいいという印象の保育園の園長先生だった。それから数年後、SNSで飲食店を開業したことを知り筆者が思ったのは、「大丈夫なのか?お嬢様に務まるのかな?」というものだった。しかしそれは筆者の老婆心だったことがわかる。コロナで休業していた期間も再開の時期を問い合わせるお客様からの連絡がおびただしかったという。

昭和ハイカラな、日本酒と家庭料理のお店

開業から2年がたち今回の取材を申し込むと、筆者のことを覚えてくれていて快く応じてくれた。最寄りの駅は南武線向河原か横須賀線武蔵小杉。大手総合電機企業の城下町といったところだ。昔ながらの商店街の一角に古びた佇まいの「Te. Mari(てまり)」が現れる。こんな居抜き物件よくみつけたな!と思ったが(失礼w)、大工さんとともにスケルトンから造り上げた内外装だそうだ。店内のそこここに真理子さんが手掛けた装飾がある。昭和初期のミルクホールのようなユニフォームは、内装とともにお客様にやわらかい時代の空気を提供している。
「お店が宝物なんです。だから何でも自分がやりたいようにしたいんです。」

創意満載のお通し。筆者の一番は人生最高だったあん肝

「学生アルバイトでは
最高タイトルまで上り詰めたんですよ(フフフ)」

若いころから夢見ていた飲食店経営ではあったが、紆余曲折というか細い糸のような道を辿ることになる。
最初に働いたのは保育園。子供たちの教育・お世話をしていた。天職だったのか結婚されてからも続けていた。ソムリエの夫といつか二人の店を持ちたいと話していたが、調理師の学校に通い始めると夫婦間に齟齬が生じる。本当に店を持ちたい真理子さんと現実的な夫。
適応力が高いがゆえに様々な場所で重宝されてしまう。ついにいったん辞めていた保育士の仕事に戻り離婚することになる。
園長まで任されることになり、やがて自分の人生に疑問を持つようになる。本当にやりたいことではないのに評価されてしまう自分に少し嫌悪感。
「これが私のやりたかったこと?」
二人の娘さんも成長し今しかないと思い、ついに。

女将としてお客様を預かる真理子さんは、
夜の園長先生かもしれない。

台風の被害やコロナ禍の客足減少・休業要請はあったが、お店を始めてからはやりたいことが出来ている満足感が大きいと真理子さんは笑う。かつて夢を語り合った元旦那さんもお店に来てくれる。連絡は取りあっていたのだ。
自分が取り寄せた日本酒や心づくしのお料理をお客様に喜んでもらえることが何よりうれしい。毎月23日には日本酒飲み放題だとか。やりたいことが認められるお店なのだ。筆者も取材の後、一杯いただいたが、他のお客様とともに子供の時のように居心地のよい時間を過ごさせてもらった。男性ばかりでなく、日本酒を勉強したいという若い女性に評価されていることもやりがいの一つだそうだ。
「ワタシ、女を売りにしたくないの。」
鼻の下が伸びた筆者は幼児のように諫(いさ)められたのかもしれない。

自作の看板はレトロな外観とマッチしている。

◆取材協力
齊藤真理子さん
店名:Sake&Daidokoro Te. Mari(てまり)
住所:神奈川県川崎市中原区下沼部1768-1 小宮ビル1階

記事執筆

光山健児(みつやま・けんじ)

1963年神奈川県茅ケ崎市生まれ。
20年のサラリーマン生活ののち、飲食店勤務を経て2014年ダイニングバーを開業。他店舗研究が高じて、神奈川県の飲食店を中心に取材・広報活動を行う。

写真キャプチャー
【仕込み風景】
煮物の仕上げ中。おいしくいただきました!
【日本酒を注ぐ】
入手困難な而今・新政・十四代なども飲むことができる。
【お通し】
創意満載のお通し。筆者の一番は人生最高だったあん肝
【店頭で】
自作の看板はレトロな外観とマッチしている。