令和2年11月に藤沢南口に「サロンドティファニー」をオープンさせた石井隆久さんは、地元でも有名な進学校の出身だ。在学当時は野球に明け暮れながらも、皆に愛される喫茶店に入りびたっていた。コーヒーや食事もおいしかったが、居心地がよかった。飲食店というものは時間を売る場所なのだと知る。そんな青春の時間を提供してくれるママのお店を、卒業してもずっと忘れることはなかった。ここに来ればキラキラした高校時代に戻れる、そんなお店の名は「ティファニー」。今はもうない。石井さんはいつの日か湘南の地に「ティファニー」の名を冠したお店を開こうと決めていた。
ママに開店の挨拶をすると喜んでくれた。
カフェではなくサテン(喫茶店)なのだ!
民放キー局の営業をされていた石井さんは、時間調整(サボり)のため喫茶店を利用し続けていたのではないかと、筆者は勝手に邪推する。ヘビーユーザーほど厳しい眼が養われる。コーヒーの味・BGM・椅子の座りやすさ、そしてマスターとの会話。今では希少になった喫茶店のよさはいろいろあるが、昭和の時代にはそういうよきお店がたくさんあった。しかしながら、効率と利益の魔力からカフェなるものに駆逐されていった。そういう時代に抗うように「サロンドティファニー」は産声をあげたのだ。
実はその直前、石井さんは某人材会社の役員まで上り詰めていたが、どうしても自分との約束を果たしたいと、退任することを決めた。
「”サテン”をやるんで辞めさせてもらいます。」
「コーヒーとウイスキーと野菜は極めたよ」
コーヒーの師匠とまわった喫茶店は300余り。コーヒー店運営の専門学校にも通った。ウイスキーの検定も取得。野菜ソムリエの資格も持っている。必要と思われる資格や知識は迷わず手に入れた。さすがは秀才である。
実務経験なしでのオープンだったが驚くほど手際がいい。提供される順番・タイミングもいい。
仕事は経験だけではない。考えて進めることが大事だと改めて思う。
オシャレで小奇麗なのに”昭和”のスピリットを感じさせる店内
オープンして10か月、最初は昔の同級生しかあてにしていなかったが、以外にも若いお客さんが多い。もちろん古くからの友人も来てくれるが、ユニークビジターには若い女性が多い。そして何度もリピートしてくれると言う。いい店だからなのか? それだけではないだろう。やはり古き良き昭和のコンセプトが評価されてのことだろう。居心地がいい、うるさくない空間、時に声をかけてくれて時に放っておいてくれる。そんな包容力の出し入れがこの店にはある。
外でお酒を飲めない現在、コーヒーに酔いに来るお客さんとの心の距離は近い。
<取材協力>
石井隆久さん
店名:salon de TIFFANY(サロン・ド・ティファニー)
住所:神奈川県藤沢市鵠沼石上1-2-5 京町家ガーデン2F C
URL:https://sites.google.com/view/salon-de-tiffany/home
<筆者プロフィール>
光山健児(みつやま・けんじ)
1963年神奈川県茅ケ崎市生まれ。
20年のサラリーマン生活ののち、飲食店勤務を経て2014年ダイニングバーを開業。他店舗研究が高じて、神奈川県の飲食店を中心に取材・広報活動を行う。