何でもチャレンジしてみることの重要性

4~5年ほど前だろうか。都内のある中華料理店(ラーメン店)でちょっとした実験をしたことがある。店主から「スーパーで試食ってあるでしょ。あれ、うちみたいな店でもできないものかな?」という相談を持ちかけられた。変わりものの店主だったので驚きはしなかったが、面白そうだったのでアイデア出しにお付き合いした。

どうせなら目を引くように新作ラーメンを試食してもらうことにし、まずは店主が鶏ベースの塩ラーメンを新しく開発。麺は茹でるのが大変だしなるべくコストをかけたくないので、最終的にはそのスープのみを試飲してもらうことになった。入口前に「新作ラーメンのスープ試飲会」といったようなA4用紙の簡素な案内板とともに、簡易テーブルに小さめの寸胴鍋を置いて11時くらいからいざスタート。ドアの外だし保健所案件かもしれないと後から思ったが、そのときはオーナーの鼻息が勝りその勢いのままスタートさせることになった。

従業員がスープを勧めるなか私は少し遠目から見ていたのだが、多くの通行人に訝しげにその様子を見られながらスルーされまくるという最悪のスタートであった。野球なら初回に5~6失点くらいは取られた感じだろうか。オーナーに「よし、いけるぞ!」と指名されて意気込んでいたピッチャー(従業員)の気持ちもだいぶ萎えたはずだ。

ところがどっこい、「流れが変わる」とはよく言ったもの。一組の老夫婦が、おそらく意を決してであろうかスープの試飲に挑んできた。一人じゃ怖いが二人なら、といったところか。そして「美味しいじゃない、これいただこうかね」なんて会話があったのか、そのままお店に入っていったのだ。それを見ていた人たちが「どれどれ、どんなものだろう」と続けてスープを試飲し、そうなると堰を切ったように老若男女が試飲し始めた。結局のところみんな気になっていたのだ。

多くはそれだけで去っていくも、お店に入って新作ラーメンを注文する人がそれなりにいたようで、この聞いたことのない取り組みはいちおう成功を収めることができたのだといえよう。初回の大量失点は打線が見事にカバーしてくれたのだ。

この企画は3日間ほど続けて止めたそうだ。詳しくはわからないが、何やら商店会のどこかからクレームが入ったらしい。それでも、新作リリースの出だしとしては売れ行きも好調だったそうだ。試飲して去ってしまった人も、数日後にお客さんとして戻ってきてくれたのかもしれない。

コロナ禍のなか、お金も時間もかけて対策したことが報われない、なんて話をよく聞く。飲食業界が狙い撃ちにあっているのだからそれもよく分かる話だ。それでも少しずつ、それを打開するために低予算で新しいことにチャレンジしてみてはいかがだろう。

新しいチャレンジの半分は、商店街のクジ引きのようなもの。ハズレは無い。クジを引けば箱ティッシュ級でも何かしらヒントが得られるし、もしかすると特賞のハワイ旅行クラスに化けるかもしれない。ワクチン接種も徐々に進んでいる今こそ、次のチャレンジを考えてみるタイミングではなかろうか。

記事執筆

ビズクルー株式会社

代表取締役 田中 良平

集客やビジネスモデル構築を強みとする。飲食店のチラシやPOPなどを格安定額制で丸投げできる「助太刀丸」を運営。