名古屋の喫茶文化、これぞ名古屋の魂

今から20年前、コーヒーが飲めなかった筧さんに、その美味しさを教えてくれたKAKOの深煎り焙煎コーヒー。職を転々としていた自分に「そうだ、オレは独立したいんだ」ということを気づかせてくれ、KAKOコーヒーがぶれない自分を作ってくれた。

名古屋の喫茶文化とは、コーヒーを注文するだけでモーニング、つまりトースト、ゆで卵、サラダが無料になるシステム。中には朝からとんかつ、茶碗蒸しなどを注文できる店なんてのもある。そもそも一宮が発祥の地だそうで、繊維会社の工場が多く、打ち合わせに喫茶店が使われていたことより、回転率より常連客を大切にする文化が徐々に定着していったってことなんだよね。この土地が安い、家族経営で人件費が安いが条件のモーニングサービスはコロナでどうなったのか!?

コロナとは何だったのか

筧さんによると、2月にコロナが日本でも発生したが3月に入っても店は大丈夫だった。しかし、中旬ごろ、突然街から人が消え、たちまち客が“ゼロ”に。KAKOコーヒーは名古屋の老舗喫茶店ということで地元はもとより、観光客、インバウンド、名古屋の喫茶文化を体験しようと常に行列ができる店だった。それが創業以来、始めて“店に客がいない”という経験をすることになる。どん底である。そのあたりを筧さんに聞いてみると、

「いやあ、厳しかったですね。まず、これまで経験したことがありませんでしたから、客席ゼロって。スタッフも忙しいのが当たり前で何をどうしたらいいのか。でも、思ったんです。何か悪いことやってしまってお客様が来なくなったんだったら問題だけど、自分も店も何一つ悪いことなんてやっちゃいない。だったら大丈夫。自分は資金繰りのことだけを考えよう。」

すると、5月頃から常連さんが戻ってきた。そして通販にさらに力を入れた。心がけたことは「KAKOコーヒーのブチョーコーヒーは元気だよ」とアピールすること、そして絶対に「助けてください」なんて言わないこと。スタッフと一緒にグッズを作ってコーヒーと抱合せで販売した。すると秋のGoToキャンペーンの頃には単月で黒字になった。

お客様がお金に見えたらもうおしまい

コロナで売上は減った。しかし、店はコロナ前より利益を出しやすくなった。というのも、お客が入るのが前提だったからいつも大盤振る舞い、無駄な注文がコロナのせいで見えてきた。徹底的にコストを見直した結果だった。

そして、客単価が低かった店がちゃんとお客様を満足させる店へと進化した。モーニングセットとしてきちんとお代をいただくこと。セットで530円、コーヒーが2杯飲めると思えば決して高くない。さらに小倉は追加でお代をいただく。薄利多売ではなく、持続可能な金額を設定してきちんとしたサービスでお客様に満足していただく。そのために、コロナのさなかでもスタッフの時給を上げた。

銀行の数字がどんどん減っていく。コロナの真っ只中のある日、預金通帳を持つ手が震えるその時、お客様が入ってきた。その時思ったのが「お客様がお金に見えたらもうおしまいだ」ということ。筧さんは言います。「飲食やっていて、社長が矢面に立ったらダメなんです。客ゼロを体験出来たことはすごい経験ですよ。お金を払ってもこんな経験はできっこない。この経験を活かしてスタッフを育てようと思いました。心の底からお客様に来てくれてありがとう、って言えるように。そしてスタッフは見事にボクの思いに応えてくれました!」

“お客ゼロ”は時間の経過とともに忘れていくだろう。でも経営者は絶対忘れない、忘れられない。だから筧さんは常にスタッフに声をかける「いそがしいって、イイね」って。

取材協力:KAKO BUCYO COFFEE

愛知県名古屋市中村区名駅南1丁目10−9

電話052-582-3780

記者:スマイラー特派員
赤名祐貴(テンポス名古屋西店)