休業要請の対象外で協力金が出ない「喫茶店」 それでも20年続けた喫茶店を守るため、高級食パンを毎日200本売り続ける

特派員、赤名です。実は、僕はずっと仕事をしながら思ってたことがあったんです。「喫茶店って儲かるのかな?」って。しかし、「Y’s café」を2店舗経営し、今年2月高級食パン専門店「信長屋総本家」を開業させた後藤さんの話を聞いて、後藤さんの飲食、喫茶文化を守ろうとする熱い気持ちが焼き立ての食パンを更に美味しくさせてくれた。

ここは元々俺の実家だったんだよ 俺はすぐに家を出たけどね

うちの親父は和菓子屋の息子に生まれて、それを親父は継がずに大阪に修行に出て職安でホテルを紹介された。そこで副料理長までになって帰ってきたら、おじいちゃんおばあちゃんが土地を貸してやるから、ということで始めたのが鳥料理の店。すると爆発的に売れちゃった。それでも俺は飲食なんてやりたくない、建築業がやりたいと思って家を出たんだけど。親父への感謝の思いと生まれ育った地元になにか恩返しがしたい、そういう思いもあったから清須の町にあやかった名前で店名は「信長屋総本家」にした。

このやり方だったら儲かるよ

俺は「Y’s cafe」という喫茶店を小牧と一宮でやってきたわけだけど、料理を作ってお客様に提供して「美味しい」って言ってもらって喜んで帰ってもらう。それを製造販売という業態をやるにあたって、心のなかでなんとなくしっくりこないところがあった。だけどやってみて、正直に言うと、「こういう商売もあるんだな」ってことを知った。

人件費、原価はかからないのに喫茶店よりも売上が大きい。利益率も40%と非常に高い。しかも、この店は「ものづくり補助金」という制度を使って150万円が下りた。この制度は投資額(上限は1億円)の3分の2を国が補助してくれる制度だ。新しい業態を始める事業者を支援することを目的にしているから、うちの場合、喫茶店がもうだめとなって非対面型のビジネスモデル、テイクアウト中心で感染を防ぐという名目であれば国がお金を出してくれる。もちろん融資ではないから、返済する必要はない。

ウチは焼き上がってから30分以内にお客様に渡しているから相当やばいよ

親父の実家が和菓子屋だったこともあって、ウチは砂糖を使わず和三盆と米飴を使っている。有名な高級食パンの甘味って砂糖と蜂蜜の甘さ。そこを和三盆と米飴を入れるとお菓子のような甘さでなくって、口の中でふわっと溶けていくような甘味になる。だからしつこくないんだよ。焼いた時の香りもすごく甘くって焼き菓子的な甘さかと思うと食べた時にそうでもない。でも実はウチのパンは冷めたほうが甘みが増す。普通、パンって小麦、甘味、はちみつ系の順番で、最後にイースト臭さってのが来るんだけど、ウチは順序が違っていて、甘味、小麦の順だから、小麦の風味、グルテンの味が口に残るんだよね。

実家を改装して開業できたのは大きかった

自分のやりたい商売とかじゃなくって、とにかく家賃を抑えることしか考えていなかった。だからここで何ができるか?って考えた時、結局食パンしか無いと思った。それで小さなパン工場を経営している同級生がいるので、11月に入って、このままだとダメだと思って相談してみると「簡単にできるものじゃないけど、一度来てみる?」って言ってくれた。

それで36時間連続でパンを焼き続けているうちに、同級生が、「やれると思うよ」って。結局一ヶ月でパンは焼けるようになった。そしてそこから細かな設定は自分で試行錯誤してレシピを考えた。12月に厨房が完成してレシピの細かな調整をしてめでたく2月11日のオープンにこぎつけた。発想してからオープンまでたったの4ヶ月で出来た業態なんだ。

なぜ、パンを焼き続けるのか!?

「信長屋総本家」は、「Y’s café」とカフェのスタッフを手放さないためにある。今日のように雨、風が激しい日でも、こんなちっぽけな店で売上9万円ですよ。「Y’s café」が赤字でも店は残したい。店の雰囲気が良くて、店員の接客で、自分の好みをオーダーして料理を作ってもらう。持ってきてもらった出来たての料理を食べて、美味しいと思ってその対価をいただく。そういうのが飲食店だと思っている。

そういうのがここのパン屋にはないけど、目の前で食べてくれるわけじゃないから嬉しい顔が見えない。嬉しい顔が見れる商売って飲食しか無いんだ。だから俺は「Y’s café」を終わらせたくない。

取材協力:信長屋総本家

愛知県清須市西田中城下20-1

℡ 052-908-4577

記者:スマイラー特派員
赤名祐貴(テンポス名古屋西店)