株式会社Globridge 代表取締役 大塚誠氏
バーチャルレストランって何?
グロブリッジの戦略を紹介する前に、まずは「バーチャルレストラン」について説明したい。「バーチャルレストラン」とはWEB上に店舗を構え、メニュー開発や商品開発はグロブリッジが行い、実際の調理は加盟店(飲食店)が、注文・配達はUber Eatsが行うという構図だ。キッチンとデリバリーだけで運用できるゴーストレストランの場合、1つのキッチンを複数の飲食店がシェアすることが多く、シェアキッチンをつくる初期投資が必要になる。その点、「バーチャルレストラン」は、既存飲食店の既存設備・既存食材・既存スタッフで提供できる初期投資ゼロに特化したモデルだ。加盟する飲食店は自店の状況に合わせて、特定のブランドを提供するのか、複数のブランドを提供するか自由に選ぶことができる。
デリバリーに取り組み始めたのは約8年前
2020年5月にバーチャルレストラン「東京唐揚げ専門店 あげたて」の本格展開を開始すると、2021年1月で加盟店数は158店舗を突破した。そんな同社のデリバリーの原点は、意外にも約8年前のオーストラリアでの飲食店経営にある。
―大塚氏
「創業から3年頃、オーストラリアで和食店を運営していました。当時、デリバリーはまだ浸透しておらず、Uber Eatsに掲載している飲食店も、ただ載せているだけであまり活用していない状況でしたね。その中で、私たちはデリバリーを注文するお客様はどういうシーンで利用するのか、検証と確認を繰り返し、それをもとにメニュー開発を繰り返しました。今、国内の店舗で取り組んでいる事と同じですが、顔が見えないデリバリーだからこそ、きちんとお客様情報を取得し活用すること、お客様が何を求めているかを突き詰めることが大事と思い取り組んできました。」
この和食店では、マーケティングに注力した結果、イートインで月商400万円、デリバリーでは月商600万円を達成する成果を上げた。一方で国内の店舗でも、アンケートを中心としたマーケティングに力を入れ取り組んできたという。
「最初の頃は、来店客からアンケートをとり、その日のうちに改善するといった努力をしていましたが、それほど売上は伸びませんでした。そこでお客様を増やそうと外に出て自ら呼び込みをした時に気づいたのです。自分の店の看板がお客様に全くささっていないことに。私たちはもつ鍋のスープや食材のこだわりを前面に出していましたが、それがダメだったんですよね。「お酒の種類があるともっといいな」「このメニューがあればまた行きたいと思うよ」等、アンケートをとればお客様はそれっぽい回答をしてくれました。ですが大枠は外れていませんが集客に繋がらない。もっと検証が必要だ、そう思いました。そこで、外に出て通行人に「ビール290円なら来たいと思いますか?」「どんなもつ鍋なら食べたいと思いますか?」と、テストクロージングをかけ続け、どうすれば単なる通行人からお客様へと変えられるか、クロージングポイントは自分で見つけるしかないと腹を決めてやり続けました。」
この経験が後のリアル店舗68業態70店舗というほぼ1業態1店舗という店舗展開を成功させることになる。そして、その後もお客様のアンケートやNPS(満足度を示す指標)に取り組み続け、それらの莫大なデータは保存し、現在も活用している。現在、同社が飲食企業でありネットマーケティング会社と呼ばれる由縁なのだ。
デリバリー業態に求められるもの
グロブリッジが提供するバーチャルレストランの主力ブランドは「東京唐揚げ専門店 あげたて」だ。しかし「唐揚げ」「デリバリー」の競合がひしめく中で、なぜ同社は突き抜けて店舗数を増やしているのだろうか。
―大塚氏
「当初は、『グランプリ受賞」『名店の味を再現」等、素材や味付けを前面に出していました。しかし、それらは大切な要素ではありますが、デリバリーで何が大切かというと、外でしか食べれない料理を自宅でも食べたいという欲求を満たしてあげることなんです。そのため、温かさと食感を自宅でも再現するための商品開発や、販促に注力しました。オペレーションの改善はもちろんのこと、調理法だけでなく、水分は抜けるけど保温性を損なわない容器に変える等、この1年でだいぶ変更しましたね。WEB上でも、「揚げたて」を前面に打ち出し、「30分以内のお届けを約束」といったキャンペーンも随時行っています。」
コロナ下の飲食店の収入は「イートイン」「テイクアウト」「デリバリー」の3本セットが当たり前となってきた。しかし、その中で大塚氏が警笛を鳴らすのは、「テイクアウト」と「デリバリー」を一緒くたにしてしまうことだという。
―大塚氏
「外食店のテイクアウトは、お客様にとってはコンビニ弁当の延長線上にあるんです。コンビニで買うか、いつもと違った美味しい店の弁当を買うかの違いなんですよね。しかし、デリバリーは違います。デリバリーと比較すべきは、イートインです。つまり、外で食べる料理を自宅で食べたいというニーズに対して、コンビニの延長線上の「弁当」を届けられては困るんです。そのため「唐揚げ あげたて」は、電子レンジの温めを前提にしていません。店内で注文しテーブルに届くのと同じ状態を、家でも再現できるかが肝であり、我々が揚げたてにこだわる理由でもあるのです。」
リアル店舗の業態転換、その成功は狭き門
創業5年目から1業態1店舗の出店を開始し、2019年には68業態70店舗を展開。そして2020年5月に開始したバーチャルレストランも好調なグロブリッジに、今話題の業態転換についてお話を伺った。
―大塚氏
「創業5年目から、いろんな業態にチャレンジしながら店舗展開をしてきました。しかし、現在は、業態転換は積極的に行うべきではないと考えています。今までの私のやり方は、やってはいけなかったことだと反省していますね。というのも、店舗の業態変更は、どうしても小手先になってしまうし、流行りだけの変更では寿命も短い。しっかりとしたマーケティング無しの業態転換はほぼ失敗してしまうのです。
いま、飲食店にとって大切なことは、今の業態を何とかすることです。今の業態も、ちょっと工夫をすればなんとかなってしまうことが多いのです。その“ちょっとの工夫”とは、お客様の声を拾い上げることから始まります。もし業態変更をお考えなら、既存設備でできる取り組みから始めるほうが良いでしょう。例えば、デリバリーの注文がとれるようになれば、当然売上に占める賃料比率が下がります。飲食店のコスト構造は、FLRP(Rは賃料、Pはプロモーション)です。FLの改善には限界がありますが、デリバリーの売上があがれば、飲食店の利益構造が大きく変わります。賃料は「イートイン」のプロモーション代金ともいえますから、賃料・販促の部分をどう捉えて手を打つべきか、それが今飲食店に求められることではないのでしょうか。
取材協力
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