問題社員を解雇する時にやってはいけないNG行動とは

1 事例

飲食店の共同経営者Aさん

「この前も話をしましたが、やはりウチの店と君とは合わないと思う。やめてもらえないだろうか。」

従業員Bさん

「これで何回目ですか!?この前、辞めませんとはっきり言ったはずです!それにもかかわらず、前と全く同じ話の繰り返しで、これは違法です!」

飲食店の共同経営者Aさん

「そんな、自主的に退職をしてもらえないかお願いをするだけで違法となるなんてないと思うのだが・・・。」

 

2 退職勧奨とは?

前回はいわゆる能力不足の従業員に退職してもらう場合のプロセスについて取り上げ、そのなかで、いきなり解雇を実行するのではなくまずは退職勧奨を行い、使用者と労働者が双方納得した上で合意による雇用契約の解消を目指すべきことをご説明いたしました。

退職勧奨とは,使用者から辞めてほしい従業員に対して,会社やお店を辞めてもらえないかという話をして、従業員に自発的な退職を促すことをいいます。

退職勧奨は基本的には使用者が自由に行うことが出来るものですが,そのやり方を誤ると不法行為として違法となり,慰謝料などを支払わなければならなくなる可能性があります。

そこで、今回は退職勧奨を行う際のポイントについてご説明いたします。

3 退職勧奨が違法となった事例

これまで退職勧奨が違法となった事例は、その手段・方法が社会的相当性を著しく逸脱したような場合です。

具体的には、まず、退職の強要や脅迫,暴行,長時間の監禁,名誉毀損行為などが行われた場合です。これらの場合は違法な退職の強要と評価され,不法行為として損害賠償請求の対象となります。

次に、執拗に退職を迫った場合です。この場合は上記の刑事事件に類似するなどの程度にまで至らない行為ではあるものの,執拗に何度も退職を迫る場合は不法行為として損害賠償請求の対象となります。たとえば,判例では,約4ヶ月間の間に13回退職勧奨を行った事案で損害賠償請求を認めています。

他にも、業務命令によって退職勧奨の説明を聞くように命じたことを違法とした判例や、近親者などを介して退職勧奨を行ったことを違法と評価した判例があります(ただし,当該判例の妥当性について実務家の間で評価が分かれているものもあります)。

4 退職勧奨を行う際のポイント

まず,当該従業員が話の通じる相手かどうかを早期に見極めることが必要です。

退職勧奨をすると退職金などのお金の話になることがありますが,その場合は,まず使用者の方から退職金ないしは解決金の金額を提示することが多いと思います。その際,当該従業員が使用者の説明や提示した金額に全く反応せず,桁が違うような希望金額を提示してくる場合は,当事者間で任意に話をまとめることは困難であることが多いです。その場合は弁護士を入れて交渉をしたり,退職勧奨とは別の方法を模索したりすることになります。また,交渉上の進め方として注意が必要なのが,この交渉の際に一度提示した解決金の金額を後から下げることは基本的に困難なことが多いことにご注意ください。

次に,退職勧奨の方法ですが,退職勧奨をする使用者側の人数は1人又は2人として,あまり多くならないようにする必要があります。使用者側の人数が多いと,1人で話を聞いている従業員としては圧迫されて自由な意見を言えなくなる可能性があるからです。退職勧奨をする際は,なるべく従業員の自由な意思を尊重できるような雰囲気で行うようにしてください。

また,退職勧奨をする時間は1回につき,20分~30分としてあまり長時間にならないようにして,就業時間中に行うようにする必要があります。これは,あまり長時間にわたると,従業員から「ムリヤリ退職すると言わされた」とか,「監禁された」と主張されかねないからです。退職勧奨の回数については、上記にように短期間に多数回行ったり、また従業員が明確に退職を拒否したにもかかわらず退職勧奨を続けたりすると違法とされる可能性が高まるため注意が必要です。もっとも、従業員が明確に拒否した後は一切の退職勧奨が出来なくなるわけではなく、一定の期間をおいたり、退職金の上乗せや就職支援金を支払ったり、条件を変更して再度の退職勧奨を行うことまでが全て違法とは判断されないと思います。

退職勧奨をする場所については,会社施設内で行うようにして,窓がある部屋を選択した方がいいです。自宅へ押しかけたり,電話したりするなどの行為は避けた方がいいと思います。

あとは,退職勧奨の説得の様子は,従業員がICレコーダーなどで録音しているという前提で臨んで,くれぐれも感情的な発言や脅しと取られるような発言,従業員の人格を必要以上に傷つけるような発言は避けてください。特に従業員の人格を傷つけるような発言は,従業員を感情的にさせて問題が複雑化・長期化する原因の一つとなりますので注意が必要です。

前回の記事

▶みなし残業を払っていたのに、なぜ訴訟になるのか?
▶元店長に残業代を請求された。管理職だった彼になぜ支払わないといけないの!?
▶問題社員を解雇することはできるのか? 解雇したいと思った時にやるべきことは3つ

【執筆者プロフィール】

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上 卓(みずかみ すぐる)

新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件等。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県等後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

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