希望に燃えた新卒が、挫折転落まっしぐら。
俺の扱っている「ハイメトロン」は2キロまで計れて、目盛りが5グラム、価格42万
競争会社の電子秤は 3キロ計れて 目盛り1グラム 価格25万
そのままでは売れるはずもないが、競争会社の人が対象客全部を訪問してるわけでもない。
一日中飛び込みしてると中には、話を聞いてくれる客もある。
上手くやれば、見てもらって、貸し出しすることもある。
やっと見つけた客相手に、電子秤を持ち込んでデモする。心は緊張しながらも有頂天だ。
「お客様、この秤は肉を売るときに容れ物の目方を前もって計っておき、このマイナスボタンを押しますと、容器に入れたまま計っても、商品だけの目方を計れますので、非常便利です。」
何しろ、目盛りが5グラムなので、軽い発泡スチロールのトレイをのせると、ゼロ表示になってしまい、せっかくの機能が見せられなくなるので、持っている手帳を乗せて、
「この手帳を乗せます。85グラムありますが、このボタンを押すと、ゼロになりますから、この手帳を乗せたまま肉を乗せれば正味の重さがはかれます。
もう一度やって見ますから見ててください、この手帳を乗せますと80グラムと出ます、このボタンを押しますと、、、、、、」
「おいちょっと待てよ、確か85グラムだったぞ、今度は80グラムじゃないか。計るたびに5グラム違うんじゃ、客が怒っちまうぞ。便利なことはよくわかったよ。」
これでデモ終了!!! 沈没!アーメン
ある日、デモが上手くいって、貸し出すことができるようになった。
翌日訪問すると、ケースの上にあるはずの電子秤が、コードを巻きつけて隅に置いてある。
「コンチにはぁー、便利でしょう?」明るい声を張り上げて聞いてみた。
「便利も何も、目方が狂っていて、使えないよ」
と言われて客の見ている前で手帳を乗せてみると、120グラムになった。もう一度やってみると85グラムが出た。
「あれっ、コイツ恥ずかしがって緊張してますね」
笑いを誘って見たが、上ずって白々しいことこの上ない。
尻尾を巻いて逃げ帰って会社に故障を報告すると、全国どこでもそんな状態らしかった。
性能、価格で負けている上に、貸し出してその日に故障してしまう機械の販売担当者、
全国50人が一人減り、二人減りしていることは、風の便りで、耳にしていた。
コロナ感染者が500人です、昨日は800人、今日は1200になりました。
アメリカは2000万人を超えましたとワイドショーで煽ると、死亡率はインフルエンザよりも怖くはないと分かっていても、そのうちに自分が感染するだろうな、重症になるだろうなと心配になってくる様に、
同期の人間が、脱落するたびに、間も無く自分の番かなぁと、ビクビクする様になってきた。
こうなると、明日の夢などなくなってしまった。
づつく!