コロナ下でも25坪で月商500万円! 秘訣はお客さまの顔をスタッフみんなで覚えること

左は「串ぼうず」二代目オーナー、T-ボウズ株式会社の取締役田中将大さん。右は奥様の田中 菜摘(たなか なつみ)さん

親の店を継ごうと思ったのは大学4年の就活の時だった。一次試験、二次試験へと進んでいく時に、ふと考えた。~どこの会社に就職しても結局は自分次第だな~って。だったら、ウチの店は本当にちっちゃな居酒屋だけど、自分が頑張れば結果がダイレクトに帰ってくる。親にもそう言われたし。これが10店舗経営していたら完全に親の七光りみたいになる、それがイヤだった。そんな僕の高校野球の先輩、「串ぼうず」二代目オーナー、T-ボウズ株式会社の取締役田中将大さんを紹介します。

先輩の店では、コロナでも売上は1割ほどしか減少してないそうですね。これって常連さんをがっちり掴んでいるってこと?

ウチの場合は、定期的に、月1回は通ってくれるお客さんを常連だと考えている。アルバイトには常連さんをキチンと覚えるよう徹底させてるねん。

席数はどれくらいでしたっけ?

宴会などで詰めれば52席。

それだけの席数で、誰が月1回以上来るお客さんなのか覚えられるんですか?

それは、覚えるために接客の時に自然な会話をするとか、料理の紹介をするときに必ず目を見て話すとか、会話をしながら特徴的なことを掴むとか。2回目のお客さまが、なかなか気づきにくいことはあるけど、3~4回目ともなれば、店の誰かがあの人、前はあそこの席に座りました、とか言えるように覚えさせる。そういう風にみんなで意識して対応することが肝心なんだ。

それがアルバイトでも当たり前になっているんですか?

そう。ドリンクを用意するとき、厨房に入った時に、「初めてのお客さまで〜す」ってみんなに伝えるようにしている。これを徹底させると、「この人、何回目のお客さまですか?」って確認してから会計するようになるし、そこで、初めてのお客さまだったら「ウチの阿波尾鶏の焼鳥の味、どうでした?だし巻き卵も食べてみてくださいよ~。日本一のこだわり卵を使ってますから。ウソちゃいますよ」みたいな“たわいのない会話”をしながらしゃべっていると、その人の顔の特徴とかしゃべり方とか雰囲気、特徴を覚えるから、次に来てくれた時にそういう話をする。それによってお客さんも次のとき、来やすくなるんだ。

スゴイですね。接客型のさらにその上を行っているような、お客さんに寄り添った接客をされていますよね。あとスタッフもそういう空気感を作っているんでしょうね。

そう、それを一番意識していて。それって、オレがやる前から親が徹底していたよ。段々とオレもそこが一番大事だと思うようになってきて、より一層強化しようと今、一番力を入れてんの。

そんなこんなで、大手が価格競争を挑んできてもオレは一切無視して、食材へのこだわりと、お客さまに満足して帰っていただき常連さんになってもらうことだけを考えてる。価格でいけば、ゼッタイ大手に勝てっこない。野球で言ったらダルビッシュ選手からホームランを打つようなもんや。

お客さまのことを覚えようと思ったのが、大手チェーン店がやっていることを知ってから。あれはもはや接客じゃないわな、と思った。テーブルに端末を置いて、これで注文してくださいって。これやったらリモート飲み会でええんちゃう。そういう風に見えてくる。働いている人も笑顔が無い、ただ作った料理を運んでいるだけ。これやったら、ペッパー君の方がよっぽど愛嬌があってええんちゃうの。ほんと、人間味がないんよ。

それで、他店がやってないのは何やねん、となった時にオレ考えたよ。お客さまの顔をしっかり覚えて、何回か来店してもらってると、飲むドリンクの種類、飲み方、飲む量、そう言うのをちゃんと覚えていく。もちろん全員を把握するのは無理やけど。意識してないよりは意識してる方がぜったい覚えられるよ。

それじゃあ、顧客名簿とか連絡ノートとかあるのですか?

それが、ウチはそんなん付けてない。それをやると個人情報みたいで何か嫌やん。こういうのって、業務的にやるんじゃなくって、自然と覚えるほうがええんとちゃうんかな。何度か来てもらっているのに覚えてなくて、初めてのお客さまとして接客してて「いや、俺何回か来てるでー」となったら、それはそれでええんちゃうの。「すんません、ボク、アホなんで~。」と返せばいい。そこで、お客さまを覚えられるし、もう忘れへんよ。いつもと違った話が出来れば、覚えるきっかけになる。それで次来てくれた時、「お客さん、もう忘れませんよ~」って言ったらええんよ。冗談半分で言っても、お客さまの心をがっちり掴めるよ。

やっぱり、お客さんはうれしいですよね、覚えてくれてはったって。

もちろん、そういうのもあるけど。スタッフの頭が“自分が客だったら”って考えれるようになるのが一番大きいとオレは考えとる。というのもオレが最初、バイトでこの店に入った時、親にしつこく言われたんや、お客さま目線が大事やで、って。「お客さまが何を求めて、何をして欲しいんか、よ~く考えろ」ってしょっちゅう言われとった。これももちろん大事だけど、やっぱり一番大事なんはお客さまをちゃんと見る、聞く、客商売として当たり前のことじゃないかな。もちろん、ある程度覚えてもらったらお客さんも安心して来れる、他店(よそ)より行きやすい店になると思うし。それで気分良くなって料理を食べたら、より美味しく感じるんやないかな。でもウチは素材にこだわってるだけじゃないで。お客さまはお会計の時、さらにうれしなってしまうねん。なんたってウチは庶民価格やからね。

取材協力:T-ボウズ株式会社(串ぼうず 新長田店

電話078-611-0870

記事:スマイラー特派員
大橋一徳(テンポス西宮店)