古民家再生の先駆け。低投資で多店舗展開で成功

2000年3月“円らく三鷹荘”(現、和ビストロ 円らく 東京都三鷹市)をオープンしたのは、株式会社円らくの代表取締役、平野健太郎氏だ。古民家創作料理、おでん、ビストロ、ジンギスカン、ハンバーグ、赤身肉業態等、13業態23店舗を展開する。

大学を卒業後、ウエディングパーティー、クラブ・イベント企画を運営する会社に入社。レストランバーの配膳スタッフから支配人を経験し、取締役に就任後は、店舗開発、社長秘書をこなし、その後、28歳で独立。円らく三鷹荘をオープンする。

創業当時は珍しい“古民家”をモチーフにした“円らく”はメディアにも多数とりあげられた。なぜ、古民家創作料理だったのか。

1990年代のホテルウエディングが中心だった挙式から、プライベート空間を味わえる、ハウスウエディングの流行の変化に伴い、前職では自社のウエディング会場として、邸宅の大家に直接交渉し店舗開発を行っていた。この時の経験と、飲食市場で古民家を使った飲食店がほとんどなかったことから、空き家の大家に直接営業し、古い2階建ての店舗付き住居の雰囲気を残しつつ室内を改装し、古民家創作料理店として円らく三鷹のスタートをきった。

円らく5店舗目の出店を最後にジンギスカン業態をスタート

円らく1号店のオープン後は、約1年おきに店舗を出店。5店舗まで店舗を拡大したところで円らくの出店を止め、新業態“ジンギスカン楽太郎”を池袋にオープンした。なぜ、5店舗を機に別業態を始めたのか伺うと、「円らくは料理人ありきの業態です。料理・サービスにかなりこだわっているので、なかなか量産できる業態ではありませんでした。チェーン店という感じではなく、ワンオーナーで運営するような個店の雰囲気を大事にしたいと思っています。メニューは店長に権限を与えていますから、各シェフ店長によってメニューも違います。(共通メニューももちろんありますが)」と話す。

そのため、料理人がいなくても展開できる業態であること、また当時、平野氏が北海道の飲食店のプロデュースを行い、地元の仕入れルートの繋がりができたという事が重なり、ジンギスカン楽太郎のオープンに至った。

ジンギスカンオープン以降、8年間7業態9店舗をオープン

ジンギスカン楽太郎オープン後も安定的に店舗を出店。しかし、以前の出店とは違い、ハンバーグ、ビストロ、おでんなど、立て続けに新業態をオープンした。

“京風おでん でんらく”は恵比寿駅東口から徒歩2分の恵比寿横丁にある。横丁の出店店舗が決まる際に、「おでん業態はどうですか?」と話を受けた。夏場が弱いおでん業態をやりたがる人がいなかった中、「恵比寿横丁とおでん屋のイメージが合ったから。この横丁なら面白いことができそうだ。」という理由で出店を決めた。

ジンギスカン楽太郎のオープン後、8年間に7業態9店舗をオープンした。手広く業態を広げて出店している印象だが、平野氏の話を聞いていると、新業態を狙ってオープンするというよりも、物件に業態がついていっているようだ。「本来は、いくつも業態を持つよりも、今あるブランドに集中して売り上げを伸ばしていく必要もあると思います。ただ、出店は物件と人ありきだと思っているので、物件を見つけた時、ここならこの業態がいいかなと今ある業態の中から選ぶか、イメージにあう業態がなければ、新しい業態を作っている感じです。」と話す。“京風おでん でんらく”の出店もまさにこの理由からだろう。

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未知の新業態に対して“もしうまくいかなかったら”の恐さはないのか

物件によっては“新業態”にチャレンジする価値があると話す平野氏だが、店舗のオペレーションも、食材仕入れも違う新しい業態の挑戦に、“もしうまくいかなかったら”という撤退に対する不安は感じられなかった。創業して一度だけ撤退したことがあるものの、その店もオープンして半年で早々に引き上げたとのこと。雲行きが怪しいと思ったら撤退する。この決断ができるのも、これまで一貫して低投資で出店しているという理由も大きい。また、ジンギスカンブームに乗って出店したビルの空中店舗も業績不振に見舞われたが、ハンバーグ業態(三浦のハンバーグ)に変更したことで完全撤退を免れた。撤退時の原状回復費用や、再出発に新たにかかる物件取得費用を考えると、『ダメなら他の業態でチャレンジすることができる』という点で、他業態店舗で展開するメリットは十分だ。

店舗数が増えていく中で、会社の組織作りはどうしているのか

ここまで店舗が増えると、財務労務、店舗開発、人材教育と専任のスタッフを配置し、本社事務所を構え始める飲食店も多いが、(株)円らくに本社事務所はない。財務関連は会計事務所にアウトソーシングし、本部付け社員が数名いるものの、そのスタッフも基本は現場に出ている。平野氏自身も2年前までは新店の現場に立っていたとのこと。

店長会といった各店長を集めた会議も多くはない。しかし、それでも各店舗が安定して売り上げをあげている理由は、1店舗1店舗に裁量権を与え、経営者に近い形でやらせているという点が強いからだ。今後もこの組織方針は変えず、独立を目指す社員のための分社化や独立支援に力をいれていきたいと話す。既に円らく業態は、起業時のメンバーの一人と平野氏の2名代表という体制だ。また、現在はジンギスカンらむすけと、ワイワイワイン食堂において独立希望者に平野氏自身が指導にあたっているとのこと。

今後も、店舗展開は続けるが、“店舗拡大”が第一目標ではなく、分社化、独立支援を行いスタッフの夢の実現の場を作っていきたいと話してくれた。