―外出自粛が解禁された後、接客の中で困ったことはありましたか?
ここ、「響(ひびき)」は、ゆったりとした空間でお食事を楽しんでいただく業態です。このコンセプトに合わせて、お客様との会話の中で店のこだわりや想いを丁寧にお伝えしています。そのため、ファーストアプローチは他のお店よりも長いですね。初めて来店されたお客様には、着席から乾杯ドリンクが届くまでの数分間で、一通りの食事の紹介から店の想いをお伝えしているからです。
そこで困ったのが、外出自粛明けの対応です。どこまでが安全で、どこからがそうではないのか。なるべくお客さまとの接触を減らし、不安を感じさせないために違う手法を考えなければなりませんでした。そのため言葉でのアプローチをなるべく減らしたんです。そこで気づいたことがありました。それは、絶対に外してはいけない、無くしてはいけない言葉があるということです。これまでは、言葉のトッピングをたくさんつけて、価値があるように見せていたところがありました。でも本当に伝えるべきことは10あるうちの2つ程度なのです。伝えなければならないことをシンプルに届けるスキルを学びましたね。
―お客様の中には、対面での接客を敬遠する人もいらっしゃると思います。今はどんな接客が求められていますか?
外食市場はもう元に戻らないと言われている中、今まで以上に「選ばれる店作り」が重要になってきます。これからは「察する力」がより求められると感じていますね。では「選ばれる店」とはどういう店か。僕は“居心地の良さを感じる店”だと考えます。「そっとしておいて欲しい」「かまって欲しい」「よいしょして欲しい」「話しを聞いて欲しい」等、居心地の良さは人によって違いますよね。
―「察する力」はどうすれば身に付きますか?
一つは、一瞬のお客様の目の動き、表情、仕草を「通知表」だと思えるかどうかです。学校の通知表って結果だけでなく、どこが良くてどこが悪かったのかが項目別に分かるようになっていますよね。「お客様に喜んでもらえた」で終わるのではなく、なぜ喜んでもらえたのか、何が良かったかを感じられる人は成長します。
だから、上司や先輩は、部下と一緒に考える機会をたくさん持ってほしいです。例えば、お客様が腕をさすった時、「これはどういうことだと思う?」 と聞いてみてください。カウンターの男女の体の向きや距離感を見て、「お客様は何を考えていると思う?」というように、お客様は何を感じていて、どうしたら喜ばれるのかを一緒に探すのです。まずは、お客様からの“通知表”に目を通していきましょう。そして、感じたことの中からお客様の居心地の良さを見つけてアプローチしていく。それを繰り返していけば、自分なりの「接客」が見えてくるのではないでしょうか。
―「大皿は避けて料理は個々に」「グラスの回し飲みは避けて」等、新しい生活様式に対する意識の違いで、思わぬクレームに繋がることもあるのではないかと思います。
そうですね。僕たちはクレーム対応のことを「ご指摘対応」と呼んでいるのですが、ご指摘を受けた時の初期対応をしっかり行えるかどうかがポイントだと思います。ご指摘対応で大事なことは3つです。1つはお客様の話を否定しない事。まずはお客様の気持ちを受け止めます。2つ目は聞き役に徹する事。お客様の気持ちに共感するのです。但し、腹が立っているお客様の気持ちに同調してはいけません。受け止めないといけないが、受け入れてはいけないのです。3つ目は立ち位置です。誠意を見せる時はなるべく正面に立つようにします。怒りを吐き出してもらっている時は、できるだけお客様より目線を下げるために腰を落とします。そして、改善などを提案する時は、そっと横に立ち同じ方向を見るようにするんです。立ち位置や目線ひとつで、印象はガラリと変わります。お叱りを受けた時は初期対応に8割の力が必要です。反対に初期対応に8割の力を使っても良いのだと思えば、焦らず落ち着いて対応することができるでしょう。
―最後に、ダイナックが掲げる「究極のサービス」とは何ですか?
お客様が喜ぶことを察知して、提供すること。これに尽きると考えています。そのためにはお客様からの“通知表”にどれだけ真剣に向き合えるかどうか、何を感じどんな改善をしていくのか、終わりなき旅だと思いますが、これからも一つ一つ積み上げていきたいと考えています。
株式会社ダイナック
ホスピタリティマネージャー 禰冝田賢二氏
東京都新宿区新宿1-8-1 8階
TEL:03-3352-4915
乙丸千夏(テンポス広報部)