この雰囲気は作りたくても、作れない
今の時代に「純喫茶のい」のような店を一から作るのはまず無理でしょう。まっさらなお店では出せない、この店のような雰囲気を作るのがいちばん難しいと思います。お金をかけたところで、この落ち着いた昭和のノスタルジーな感じを作れるものではありません。
昔の純喫茶のイメージを出すためにレトロというかアンティークな家具を利用することがあると思いますが、結構高いんです。その代わりにインドとか新興国の飲食店が近いというのでステンレスの窓枠にわざと錆びたブリキを張ったりするんだけど、仕上りはボロボロで窓も開かない。難しいんだよね、こういうレトロ感を出すのは。やりすぎるとお客様から「求めているのとちょっと違う」って思われちゃう。大切なのは中古なんだけど中古感が出てないってところでしょうか。
この店は伝えたくなくても、伝わる
都会の喫茶店は、いわゆる“映え”のためにスタイリッシュに作られている店がほとんどです。逆にこういう喫茶店が少ないから、来ちゃうんですよ、全国から。都会こそ純喫茶を求める人が多いんじゃないでしょうか。SNSなど一切やらない原口マスターですが、この絶妙な居心地の良さは特にインスタグラムで人気を博し、みるみるうちに広がりました。日常に溶け込む、絶妙にゆるい居心地の良さ、空気感は写真だけでも伝わるものです。
使える店になりたい、使いやすい店
マスターの原口さんは名古屋の喫茶店のなかでも名店中の名店「コンパル」のしかも本店の大須店で修行をされて、ここ静岡でも同じ喫茶文化を継承されています。
これからの季節、喉が渇いたときについ飲みたくなるのが「アイスコーヒー」。「純喫茶のい」で注文するとデミカップに入ったホットコーヒーと氷が入ったグラスが運ばれてきます。これは「コンパル」と全く同じスタイル。
原口さんはコーヒーが好きだけど、そこじゃないという。「『この店で飲むコーヒーが好きなんです』って言われたい。お店とコーヒーがトータルで楽しめる、それが使える店。」美味しい店よりも使える店として選ばれること、原口さんはそういう店を目指しています。そう言われると確かに、昔はあそこのコーヒーが美味しいから喫茶店に行くのではなかったように思います。もっと普段に生活の一部だった。前のオーナー夫婦がやっていた時代、やんちゃな高校生がタバコを吸うたまり場になっていた「純喫茶リーベ」が時を超えて、原口マスターによって「純喫茶のい」へと形を変えて今の時代に溶け込んでいるのです。
取材協力:「純喫茶のい」
静岡県静岡市葵区駒形通2-7-20
Tel.054-275-2100
杉山俊介(テンポス静岡店)