ワイン30分290円飲み放題のインパクト。 魅力を最大限に伝える努力をすること

「大衆和牛酒場 コンロ家」を都内で5店舗展開するのは株式会社頼富商會。和牛×ワイン×大衆酒場をコンセプトとしており、A4・5ランクの黒毛和牛を使った料理の他、ワイン&生ビール100種を30分290円で提供し人気を得ている繁盛店だ。創業店舗の代々木店は月商550~600万円で坪売上は約30万円。しかし店舗展開が急速に進んだのはここ1年の話で、創業から1年半は苦しい時期を過ごしていた。そんな同社に創業から現在までの取り組みについて代表取締役副社長の蒲池章一郎氏にお話を伺った。

30分290円の飲み放題が誕生したワケ

1号店をオープンしたのは2016年4月。共同代表の頼富氏がA4・5ランクの黒毛和牛の仕入れに強みを持っていたこと、蒲池氏が酒の取扱に強みを持っていたことから、「和牛」と「ワイン」を業態の柱に決めた。しかし、それだけでは弱い。そこで、和牛という高級食材と大衆酒場という性質の異なるものを掛け合わせて誕生したのが「大衆和牛酒場コンロ家 代々木店」だった。

今でこそ代々木店は月商550-600万を売り上げているが、オープンから1年半は月商200万円前後で、赤字ではないものの苦しい時期が続いたという。駅から徒歩10分、夜の人通りはほとんどないため、普通にやっていてもうまくいくはずもない。また、店を運営しながら店のコンセプトに違和感を感じていたと話す蒲池氏。「ワインって何となく気取ったイメージがありますよね。私たちは大衆酒場という雰囲気の中で高級和牛を気取らずに食べてもらうというコンセプトを掲げていながら、店の特徴の一つであるワインをその業態に落とし込めていなかったんです。当時は大衆酒場を意識してワンカップワインで出していましたが、原価が高く売価を580円にしないと利益が出ません。でもそれって、見た目は大衆的なのに価格は大衆的じゃないなと。この違和感をどう解消すればいいのか試行錯誤する中で始めたのが時間無制限ワイン飲み放題でした。」

オープンから約1年後、『時間無制限890円のワイン飲み放題』を始めるにあたり内装も一新。壁面に20種類以上の樽ワインを設置しセルフ型の飲み放題にした。しかし、内装を変えるほどの思いきった施策ではあったが、思うように数字は上がらない。このままではダメだと、お客さんの反応を見ながら飲み放題の種類を増やしたり、制限時間を変更したり、価格を変えてみるなど試行錯誤は続いた。そして、最終的にたどり着いたのが、今やコンロ家の代名詞でもある『30分290円のワイン飲み放題』だ。

「飲み放題の価格や制限時間を決めるにあたり、何をどう伝えれば魅力を最大限に伝えられるかを重視しました。その中で30分290円で打ち出した時のお客様の反応が一番良かったんですよね。1分10円の価格で売り出そうという話も出ましたが、それってお客様にとって安いのか高いのかが直感的に分からない。だから30分290円だったんです。」

現在は30分290円の価格のまま、お酒の種類をワイン100種・ビール4種に増やし提供している。30分以降は1分10円の自動延長だが、120分飲んでも価格は1200円。コンロ家の平均滞在時間は2時間だが、30分で飲み放題を切り上げるお客さんはほとんどいない。

現在、お客さんは食事を目的とした来店が多い。霜降り和牛鍋は1人前で2,280円、神戸牛ホルモン鉄板焼は1人前1,880円で両メニュー2人前からの注文のため、結果的に客単価は4,000円~4,500円になるが、30分290円というインパクトのある飲み放題をグルメサイトで謳うことで新規客を集客し、そして料理で満足してもらうことでリピート客に繋げる図式ができあがっている。この飲み放題をスタートしたことで、代々木店の月商はちょうど2倍の400万円になり、現在は550万~600万を売り上げるまでになった。

経営が軌道に乗ったことで、2017年11月には飯田橋店をオープン、その1ヶ月後には両国店をオープンした。そして2018年9月までに、さらに2店舗をオープンするなど、1年で4店舗を出店している。今後は、2022年までに現在の年商2.5億円を10億円にしていくことを目標に出店を続けていく考えだ。

お客さんをプッと笑わすPOPへのこだわり

店内を見回すとユニークなPOPでいっぱいだ。予約席には「神降臨」と書かれたカードが置かれ、呼び出しボタンには「召喚」のシールがはられている。雑誌風に作られワインリストには『お金持ち専用(同店が飲み放題290円を提供しているため)』と書いているなど、店内には、おもしろPOPで溢れている。また、同店を有名にしたのは「おい、生ビールは1000円頂きます」という張り紙だ。内容は、「おい、生ビールなら1000円」「生一つもってきてなら500円」「すいません、生ひとつくださいなら定価の380円」と書かれており、さらに「お客様は神様ではありません。また、当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません。当店にとって一人ひとりが大切な奴隷(宝物)なのです。皆様のご理解とご協力をお願い致します。」と書かれている。この張り紙がSNSで話題となり注目を浴びた。蒲池氏が率直に自分が思ったことを書いているという。「自分が嫌だと感じたことは、きっとスタッフも嫌だと思う。そんな思いをさせたくないなと思っていました。そこで、うちの店らしくお客様に伝えたいなと思った時に、このメッセージを一つのおもしろメッセージとして作成して張り出すことにしたんです。」この張り紙は賛否両論あったものの、張り紙を見て大勢に認知してもらい、コンロ家のとがった雰囲気が好きだと、その後のリピートにも繋がったという。

看板メニューは、イラストとクスっと笑える紹介文を入れて紹介。ついつい読んでしまう。

飲み放題の利用方法をイラストとジョークを交えながら紹介

取材の最後に、飲食経営について大切にされていることを聞いた。

「利益を重視することです。従業員の幸福度とかも後回しで、これも資本があって初めて考えることだと思います。飲食業界は1年後に半分が閉店してしまうという厳しい世界ですから、利益を出せるまでは、1人もしくは志を同じくした2人で店を運営し、従業員は雇わないほうが良いと私は考えます。実際に私もそうしてきました。あとは、自分の店の魅力をいかに伝えられるかです。しかも、ただ伝えるのではなく、魅力が100あるなら、100の状態で伝えられるかが大事だと私は考えます。」

現在、利益が安定して出ているからこそ、4月からは従業員のベース給を2万円アップし、事務作業などは外注に依頼するなどして勤務時間の短縮や有給制度の見直しにも積極的に取り組み、年商10億の目標に向かい突き進んでいる。SNSで注目を浴びた「おい、生ビール」の張り紙には、批判の声もあったというが、「批判を恐れていては何も出来ません。批判されることもビジネスの観点から言えばメリットも大きいと言えます。」と話していた蒲池氏の口ぶりからも、「利益をだすこと」、それだけに集中し様々な手を打ち続けてきた同社の強い信念が感じられた。そんな企業だからこそ、厳しい飲食業界の荒波を超えてこれたに違いない。

(左)蒲池さん(左)神田店店長の中村さん。中村さんは入社前はバックパッカーをしていたとか。

店舗情報
株式会社頼富商會
代表取締役副社長 蒲池章一郎氏

大衆和牛酒場コンロ家 代々木店
東京都渋谷区渋谷2-6-8 ST青山ビル1F
TEL:03-6383-4866

 記事:オト

取材:2019年5月