高級業態進出への苦悩、そして喜び。業態を作り上げていくとは

東京都新宿でドミナント展開する株式会社絶好調は、2018年9月9日に同社初となる高級業態「原始焼 火鉢」をオープンした。オープンから早6ヶ月、「開店当初は自分たちがかしこまりすぎてお客様を緊張させていました。」と話すのは、同社の総店長であり火鉢の責任者である田中将太氏。今回、田中氏に新業態の開発秘話、人材教育や採用、販促の取り組みについてお話を伺った。

「原始焼 火鉢」の業態づくりは2年前から始まった。もともと代表の吉田氏の中で「原始焼き」の構想はあったが具体的に話が進んだのは、和の総料理長、高橋伸弥氏の社内プレゼンがきっかけだ。当初は高級業態ではなく既存店と同じ客単価5000円前後の店作りをイメージしていたという。しかし、お客様からの接待利用や個室を望む声、また会社全体のサービスのレベルアップを図りたいという考えから、客単価1万円の原始焼火鉢が誕生した。「高価格帯の“火鉢”のサービスレベルを既存店に落とし込んでいけば、客単価5000円の既存店でも1万円相当のサービスをお客様に提供することが出来るようになります。そのため、火鉢の出店は私たちのサービスの質を上げていくためのチャレンジでもありました。」

コンセプトは、『昔の船着き場で味わう魚の原始焼き料亭』。40代、50代の会社員がターゲットだ。「業態を作るにあたり、ターゲットは生活に余裕のある方になりますので、その方たちがどんなお店を求められているのかをまずは知りたいと思いました。そのため1年間は月に8~10件ほど様々な高級店をまわりましたね。その中で感じたことは、どの店も『当たり前』のレベルが高いということです。挨拶、掃除、言葉遣いから基本の所作まで、たくさんの勉強をさせて頂きました。」

人づくり

オープニングスタッフは、社内公募と媒体を使い募集した。公募では高単価業態で着物の接客や所作を学びたいという意欲的な多数のスタッフが手を挙げ、媒体からは100名を超える応募があったという。同社は面接時にどんな話しをするのだろうか、田中氏に伺うと、「面接では応募された方が、将来どんな仕事に就きたいのか、どんな自分に成長したいのか、その方の『やりたい』をたくさん聞き出すようにしています。その上で、私達はその方に対してどんなサポートが出来るのかを伝えています。例えば、その方が将来アパレル会社で働きたいという夢を持たれていれば、私達の店舗で働く事を通して気配りや礼儀、接客を身につけられるようにサポートすることが出来ると伝えているんです。そして、最終的には本人に働きたいと決めてもらい面接を終えることを意識して行っています。」

研修後に実際にアルバイトスタッフが店に立つときは、『トレーナーとトレーニー(教育を受ける新人)2人で10を作る』という考え方を大事にしている。例えば、まだトレーニーのスキルが2だと判断すれば、「今日はおしぼりの提供だけをやってみよう。ポイントは笑顔でお客様にお声がけすること。今日は少し肌寒いけど、○○さん(トレーニーの名前)なら、なんと声を掛けてもらえたら嬉しいと思う?私がまずはやってみるから見ててね」というような会話をしながらトレーニングを進めていく。徐々に接客も慣れトレーニーのスキルが7になったと判断すればトレーナーのフォローは3割程度に抑えるといったぐあいだ。この「10」の判断基準はお客様に迷惑をかけない、不快な思いをさせないという接客の最低ラインだ。このバランスを絶対に崩さないようにトレーニングを進めていった。

手書きのお手紙とクラウドファンディングの活用

お客様と名刺交換ができた時は、次の日に仕込みの時間等を使いスタッフがお礼のお手紙を書いている。手紙に書くポップでかわいい筆文字は全てスタッフの手書きだ。皆、練習して文字を習得した。これは既存店でも取り組んでいたことではあるが、既存店と比べ手紙の回収率は高い。「当初は100通送って1通回収があればいいなと思っていましたが、火鉢では10通送ると1組の来店に繋がっています。これは高級業態にチャレンジしてみて分かった新しい発見でした。」

また、販促費用をほとんどかけていない同社だが、2019年1月に初めてクラウドファンディング「Makuake」を利用した。高級店を経営する方から勧められたのがきっかけだったという。実際にサイトを調べてみると新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客のリピート増も見込める事が分かり募集をスタート。クラウドファンディングの支援者への特典は11,000円のコースを毎回8千円で利用できる会員権を用意した。結果、わずか一ヵ月で目標金額100万円に対して276万円の支援が集まる、好調な滑り出しを切った。

ミリ単位でBGMの音量を調整する試行錯誤の毎日

「オープンしてから1ヶ月くらいまでは、私たちスタッフが『高単価』の店を意識しすぎて、かしこまった接客をしていました。そのせいで、お客様にコソコソとお話をさせてしまうような雰囲気を作ってしまい、居心地の悪い思いをおかけしていたと思います。私達が目指していたのは、明るい接客だけれども落ち着いて食事ができる笑顔で温かい空間です。そのため、その空間づくりには、時間を費やしました。今日は、敢えて居酒屋の雰囲気に振り切ってみよう、今日はカウンターだけBGMを流してみよう等、いろんなことに取り組みました。」実際に今はカウンターだけジャズのBGMを流しているのだが、そのBGMも決まるまでは、お客様の反応を見ながらボリュームを2ミリずつ調整する徹底ぶりだった。

オープンして6ヶ月、常連客も徐々につきはじめた「原始焼 火鉢」。まずは月商1000万円を目標としている。しかし田中氏が目指すのは、繁盛店というよりも繁栄店。長くお客様に愛される店づくりにこれからも愚直に取り組んでいきたいという。同社にとって初めての高級業態というプレッシャーもあるはずだが、チャレンジを楽しみながら飲食に捧げる田中氏の笑顔はとても無邪気に輝いていた。

取材店舗
株式会社絶好調
総店長 田中将太氏

原始焼 火鉢
東京都新宿区歌舞伎町1-19-3 3階
TEL:03-6380-2238

smiler45号より
記事:オト