なぜ、そこまで無化調にこだわるのか?

「夢心亭」の開業は今から25年前。日本遺産に認定されている大山を訪れる参拝者を泊める宿(宿坊)を現代アート作家の原栄三郎氏によってリノベーションされた空間、そこで提供される料理とは?このような人里離れたところにもコロナの影響はあったのでしょうか?気になったので訪ねてみました。老舗料亭で名門の「葉山日影茶屋」修行を積まれた二代目亭主の相原和教氏が丁寧にインタビューに答えてくださいました。
コロナ前と後で変わったことはありますか?

ランチメニューを一新しました。実は、最近の飲食業界は夏場にすごく売り上げが落ちるのが課題でした。その原因は猛暑です。ここ数年は特に異常じゃないですか。日中に人が外に出ないで家で簡単なもの、たとえばそうめんとかで済ませちゃう。

このままではまずいということで色々調べました。すると飲食業界で夏でも売り上げが落ちない業種が3つあることが分かりました。回転寿司と焼肉、そしてラーメンなんです。それで「夢心亭」で何ができるか考えた結果がラーメンでした。

実は「夢心亭」も昔一度やったことがあったんです、和食の料亭が作るラーメンというのを。時代が変わって今回はつけ麺にしました。田舎の自然あふれるロケーションにはどんぶりに入ったラーメンよりもつけ麺の方がしっくりくるんじゃないかと思ったんです。もう一品が湯葉丼なのですが、湯葉丼はメニュー自体はもともとあったんですけれども内容を変えました。

お客様は主にどういう層ですか?

週末は家族連れの方が多いですね。平日は結構高齢の方が多いし、夜は接待にご利用いただいております。今はコロナで接待利用はあまりないのですが、大山の中では比較的若い方の利用が多いお店です。

大山にはコース料理の店が多いので、客単価3000円とかになってしまいます。すると若い人はお豆腐が食べたくってもコンビニでおにぎり買って大山に登って食べる。せっかく大山まで来てくれたんだからこの土地のものを食べていただき、社会で活躍するようになった時に大山をご利用いただきたい。そう思ってランチを始めたんです。

「夢心亭」の料理は単品では販売してないんです。普通、つけ麺だと大体1000円を切るぐらいが一般的だと思うのですが、やっぱり豆腐も一緒に食べてもらわないと。お昼だけのラーメン屋さんにするつもりはなかったのと、大山に行ったら絶対豆腐を食べなきゃいけないよって。つけ麺も美味しかったけどお豆腐は絶品だったね、って言ってもらうのが一番嬉しいですね。

「大山つけ麺」の特徴とは?

まずスープとチャーシュに「伊勢原軍鶏(シャモ)」、実はできたばっかりの鶏を使っています。というのも神奈川県にはなぜか地鶏がなかったんです。葉山牛だとか高座豚だとかはあるのですが、なぜか鶏だけがなかったんです。それで伊勢原で地鶏ができるという話をいただき、「あふり軍鶏」という鶏を「夢心亭」が初めて使うことになりました。だからスープは鶏ベースですね。鶏ベースのつけ麺ってあまりないんです。だから食べた時にこれまで経験したことないような感じだと思いますよ。

もう一つこだわりのポイントが全て無化調なんです。ラーメンに化学調味料を使うのって当たり前ですよね。そもそも中華料理で化学調味料を使うのは当たり前、それが中華の歴史といってもいいくらいなのです。だけど「夢心亭」がラーメンだけ化学調味料を使っていいの?「夢心亭」の常連さんがラーメンを食べた時に「なんだラーメンには化学調味料を使ってんだ」ってなったら、それってお客様を裏切ることになるじゃないですか。なので私は化学調味料は一切使わないでラーメンを作ってみようと決めたんです。そのために言葉では言い表せない苦労があったんですけれどもね。コストかかりますし思うような味がなかなか出せない。和食ベースの出汁を引いてそれをラーメンのスープにすると旨味が足りなくて、すまし汁を飲んでるみたいです。やっぱりラーメンってインパクトが欲しいじゃないですか。そこが圧倒的に違うところでした。

そこまで無化調にこだわる理由とは?

今の時代、無化調と言ってるラーメン屋さんもあるんです。でも私は化学調味料が入っていればすぐに判ります、舌が。普段、私はラーメンを口にしません。なぜかと言うと自分の商売道具である舌を守るためなのです。普段から食べないものは他にも色々あります。市販のソースだとかマヨネーズだとかも一切使わないですし、飲み物でもコーラとかそういうものは一切飲まないです。それはもう仕事のためにやってることですから。和食は旨味の足し算引き算です、素材の味を引き出す出汁は和食の命です。手を抜くことはできません。それに対して中華は旨味の掛け算の料理です。どちらが優れているという話ではありません。

今回のコロナ禍を振り返って感じたことは?

こういった異常事態が起こると、経営者は出費を抑えて経費を減らすことが多いと思うんです。しかし私は逆だと思って、こういう時こそ皆さんとは逆に経費をかけて新しいメニュー開発だとか宣伝とかしないと、結局自粛が開けた後にうまくいかないと考えました。それで今回ランチ二本を新たに作ったんです。

というのも、普段これだけまとまった時間が取れる事ってまずないでしょう。今回の異例づくしのコロナをプラスと考え、結構新メニューについてじっくり考えることができてすごく良かったと思ってますよ。私の周りの経営者でうまくいってる方って本当に前向きなのです。世の中の動きを常に見ていて、逆の動きをする方がすごく多くて、私もそういう素晴らしいところを学んでいかなきゃいけないと常々思っているのです。

取材協力:「夢心亭」

神奈川県伊勢原市大山441

電話 0463-91-1551

記事:スマイラー特派員
小林寛武(テンポス湘南店)