株式会社ねぎしフーズサービス 代表取締役 根岸榮治氏
まずは、38年前に何があったのですか?
「当時仙台駅周辺に出店した大皿料理が人気で、2号店を出店した。その2号店である日、店長からアルバイトまで全員が出勤してこない。電話をかけても出ない。仕方ないからしばらく様子をみていると、2号店のすぐ近くに同じような大皿料理の店がオープン、そこで目にしたのは店からいなくなったスタッフが全員、生き生きと働いているじゃないですか。スタッフに逃げられたんですよ。」
悔しかったのでは?
「そりゃあ、腹が立ったし、彼らを恨んだよ。しかし、これは自分自身の問題だということに気がついた。僕は彼らを売上と利益を上げる為だけの人材としてしか見ていなかった。それが経営だと舞い上がっていたんですよ。周りが成功者と言うもんだから、店はどんどん増える、反対にスタッフは疲弊していなくなっていく。店が流行らなくなったら、新しい店に従業員ごとそっくり作り替えたらいいや、って。」
当時の根岸社長は茨城県の水戸から宮城県の仙台まで240キロの間に20店舗の飲食店を経営していた。東京で流行っている業態の店をいち早く出店、「根岸社長が店を出せば必ず成功する」と言われていた。しかし、全スタッフに逃げられた事件をきっかけに根岸社長は考え方を180度変えることになる。「飲食店で大切なのは人、人を育て、一から業態を作り、育てていこう」。ここから根岸社長の牛たんの定食屋という新しい挑戦が始まった。
出店に対する考え方
なぜ新宿から30分以内にしか出店しないのですか?
「その当時は、飲食やるなら誰もが地元でやろうと考えてた。私も地元でやろうと考えていたところ、セミナーの先生の話に遭遇し、教科書通りに実行しようと考えた。」
どんな話だったのですか?
「釣り人はどこで釣りをするか?家の裏にある池とか川ではやらないんだ。本物の釣り師は、1ヶ月とか最低でも一週間前から準備して一番釣れる場所まで行く。その時に自分が好きだからといって肉を餌にはしない。魚が好きな餌をつけて釣り上げる。釣り人の趣味趣向で釣りをしてはいけない、魚の立場に立って餌をつけて魚が出やすい場所まで行く。じゃあ牛たんの定食屋をどこでやるってなった時に、日本で一番お客のいる場所が東京の新宿だったわけです。」
でも30分以内でなくていいのでは?
「実際地方からの出店依頼もたくさん頂いてます。少し前までは海外からも出店依頼が本当に沢山来てました。でもすべて断りました。新宿駅から30分以内、これはどういうことかと言うと店長が孤独を感じないため。そして集中出店して地域社会でナンバーワンのブランドをつくるためです。」
それは牛たんだから出来たということではないでしょうか?
「基本的にはどんな商売でも同じですよ。だっておいしくって接客がよくって店の造りが良くて価格も食べやすい、そして特に働く人の接客が素晴らしくて親切であれば、どんな業態でも可能ですよ。あの店は美味しいけどここは不味くって駄目だなんて今どきないでしょ。今や飲食店で美味しいのは当たり前で人が中心の世界なんです。周りは美味しい店だらけ、あとは人が付加価値を提供するしかない。」
ドミナント戦略の有効性
採用や教育でもドミナントは有効ですか?
「ドミナントというのは、歩いて10分とか新宿駅で言うと10店とかが近くにあるわけです。ですから店長のエリア会議は毎月やってますし、食材が余った、働いている人がどうのこうのと、日々起こっていることをみんなで話しながら助け合っています。だから孤独感がない。マネージャーを中心に、店長同士の良き人間関係が出来ているので、「ねぎし」の社員で離職するのはわずか5%です。」
今後も新宿から30分以内で店舗は増やしていくのでしょうか?
「せいぜい60店舗まででしょう、年商で100億くらい。『ねぎし』を関西だ、九州だと伸ばせはあと20億、30億は乗せられるけどそんなことやらないですよ。
「ねぎし」は単一業態ですよね。店舗同士客の奪い合いは起こらないのですか?
「それはあります。奪い合いというよりも1店舗が流行りすぎて店が回らないとなれば近くにもう一店舗出しますよ。すると客数は当然減る、でも利益は十分に取れている。つまりそこには2店舗の市場性があるということです。そういう市場に「ねぎし」が2店舗出すと、もう他社は出店できないです。1店舗だけだったらこれはいいと競合店が出店してくる。だって人間というのは巨人だ阪神だみたいにどちらかを贔屓にしたくなるからね。ところが2店舗あると競合店が入りづらく、地元の人はやっぱり「ねぎし」だよね、ってことで、いわゆるブランドが確立する。もちろん価格も美味しさも品揃えも接客も店作りも新しい店以上でないと駄目だけれどね。これがドミナントなんだ。」
ドミナントでは、一業態が理想ですか?
「べつに、能力があればやればいいですよ。店舗数を増やしてもいいし、業態を増やしてもいいけれど、世の中は質の時代です。量がたくさんだからみんな来るような時代ではない。会社に求められるのは永続性です。流行りを追っかけるんじゃなくって、永続性が求められているんです。あれもこれもやってそれぞれが永続性を持っていられるんでしょうか。そこで働いている人の目的は何ですか?いろんなことをやるのが目的なのか、従業員の幸せを求めるのか、売上を求めるのか、それとも業態を多くすることを求めるのか。だから目的が大切ですよって言ってるわけです。これからの日本は人口減少の時代なんですよ。一番大切なのは『何のために仕事をするのか』ということです。『ねぎし』は何のために存在し、その仕事の目的は何ですか?ということ。」
「ねぎし」は何のために存在しているのですか
「社員の幸せのためにやってるんです。そのために「ねぎし」はあるのです。だけどその幸せの元はお金ですよ。お金はどこからくるかと言えば、お客様からしか来ないわけです。だからお客様の幸せを一生懸命考えないと自分たちの幸せには繋がらない。お客様のためになればなるほどたくさんのお客様が来てくれる。だから理屈抜きに自分たちの幸せのためにお客様を幸せにしないといけない。」
それで言えば、いちばんにお客様が来るのではないですか?
「いえ、お客様じゃないです。お客様のために会社をつくったわけじゃない。社員のために会社を作ったのです。お客様がいちばんだと社員はいくらでも犠牲になればいい、そういうことになってしまう。これは違う。だからお客様の幸せは2番目なのです。」
ウィズコロナ時代に向けて
ウィズコロナ時代に向けた出店はどうあるべきですか?
「人口が増加していた時の教育、商売のやり方、出店のやり方とこれからの人口減少する時代が同じやり方でいいはずがないでしょ。だって40年後の2060年には、日本の人口は9000万人を切るんです。80年後は4000万人、江戸時代に戻るんですよ。今の若い人に最低3人子供産んでくれって言わなければ増えないんだから。人口が増えるっていうのは時間がかかる。ちょっとやそっとの仕掛けでは増えないんだから、このまま行っちゃいますよ。
コロナよりも人口問題の方が重要ということでしょうか?
「人口が減少し、マーケットが縮小する時代は量より質だ。成熟した時代はモノが行き渡ってるから量を追っかけても駄目でしょう。モノを欲しがらない時代に合った店作り、商品づくり、人づくりをやってますか?ということなんですよ。今まで通りの拡大することしか考えないでやっていたってもう駄目なんです。特にコロナ以降はそれが加速するっていうことなんだ。コロナが収束すれば元に戻るなんて思ってると、違うんだって。コロナが来る来ないに関わらず人口減少に向かっている中での会社の成長とか人の成長とか商売のあり方とか、今までのやり方は通用しないってこと。だけどみんな未だに高度成長期のことをやっている。「ねぎし」の場合は人口減少の時代、縮小均衡にあった店作り会社作りをやっている。そして、この街に『ねぎしがあってよかった』と思って頂ける店を働くみんなでつくっていこうと思っています。」
取材協力:株式会社ねぎしフードサービス 東京都新宿区西新宿7-22-36 三井花桐ビル4F TEL:03-3227-3281
谷口光児(テンポス広報部)