“流しのカレー屋”こと、阿部由希奈の罪悪感と充実感

出産でお休みしてから、ようやく4月に復帰した“流しのカレー屋”こと阿部由希奈さん。彼女は現在のカレーブームをどう感じているのだろうか?週2回はカレーを食べないようにしているというほどカレーにのめり込む理由とは?カレーのレシピ本が人気なのは?カレーの魔力に魅せられた由希奈ワールドへあなたをご招待いたします。

こちらのお店は今、どういう状態ですか?

木曜日と日曜日だけキッチン開放日、と言って営業しています。妊娠するまではフリーランスで別の仕事をしていたのですが、つわりがひどくって出勤できなくて辞めちゃったんです。なので今はカレー一本です。今まではフリーランスの仕事があったので週2日だったのですけどね。

“流しのカレー屋”、って今もやってらっしゃるのですか?

このキッチンは私の研究所みたいなところなんです。カレーを研究して、その成果を発表するのが週2回のキッチン開放日なんです。研究成果の発表は地方に出向いてイベントに参加したりとか、その地方の特産物を使ったカレーを作ったりとか。それを東京に持ってきて東京の人に食べてもらう、なんてこともしています。

阿部さんのカレーの特徴を教えてください。

よく、「優しいカレーですね」とお客様がおっしゃてくださいます。カレーってけっこう油をたくさん使う料理なんです。私は油を少なくして翌日も胃にもたれないカレーを目指しています。脂が重たくって、スパイスも利かして辛いカレーだと元気な時しか食べれないと思うんです。でも、気分が落ち込んでいるとか、あまり元気がないな、と思っている時に思い出してもらえるようなカレーを作りたいと思っています。

私のカレーは、肉とか魚よりも野菜重視なんです。今高知の農家さんと青森の農家さんとお付き合いさせていただいているんですけど、こだわりをもって育てたお野菜を使って、お肉のカレーにしてもお肉+どこどこのお野菜で作ってワンプレーでお出ししています。そこに副菜が3つ付いて、旬のお野菜が一皿で何種類も楽しめる、季節の野菜とメインとなる食材に合わせてスパイスを変えていく、そんな作り方です。

カレーにのめり込んだキッカケは何でしたか?

最初はネパールのカレーを食べたのが始まりで、ネパールに“ダルバート”って料理があるのですが、それを食べた時に、自分が知ってるインドのカレーとか、欧風カレーとかとは全く違って、これもカレーなんだと思って。それから国によってカレーという料理は全く違うことを知って、すごく面白いと思いました。

カレーって、スパイスの調合を少し変えただけで、雰囲気が全然変わります。野菜を引き立てるためにスパイスを使っている、そんな感じです。カレーってスパイスが主役だと思われがちですが、やっぱり素材なんですね。素材が美味しければ美味しいほどスパイス少なくて済むので、素材選びがとっても重要なんです。もちろんカレー専門店にはスパイス中心のカレーの方もいらっしゃいますけど、私は素材中心です。

レシピ本も出されていますね?

はい、普通の飲食店というより、カレーが好きで研究してそれをいろんな人に食べていただいてカレーの楽しさみたいのを知っていただきたいな、と思っています。本を出版したり、料理教室でレッスンしたりとか、開放日以外ではそういう活動をしてカレーライフを楽しんでいます。

そこまで楽しませてくれるカレーの魅力って何ですか?

そうですね、素材の組み合わせとスパイスの組み合わせで全然違うカレーになっていく、そう言うところがすごく面白いと思います。スパイスって奥が深いですし、クリエイティブなところがほかの料理と違って強いというか、オリジナリティが出しやすいと思います。

料理ってお客様に喜んでいただく楽しさもあると思います。そこにスパイスはどう関係していますか?

そうですね、元気になるとかお腹いっぱい食べてもスキップして帰れるような、そんな軽いカレーを提供したいと思っています。たくさん野菜が取れるので、お腹いっぱい食べても罪悪感が無い、充実感というかお店を出られる時に感じてもらいたい、そうなれば一番うれしいですね。

スパイスの効いたカレーって、確かにリピートしたくなりますね。ルーだといろんな素材とか添加物などがいっしょになって出来ているんですけど、もちろん美味しくって、素晴らしい発明品だと思うんですけど、スパイスから作るカレーだと何が入っているのか、全部自分で調合するから料理が見えるんです。野菜も見えるし、スパイスは何を入れたか全部わかる。今、家庭の料理って見えなくなっていると思います。たとえば麻婆豆腐の素を使えば美味しい料理が出来ますが、中に何が入っているのかわからない。そういう意味で自分の健康に留意したりだとか気分によって味を変えたりだとか、そういう意味で自分好みのカレーが作れるので、カレーにハマっていく魔力ってそういうところに在るのではないでしょうか。

これからの飲食業はどうなっていく、どうあるべきだと考えますか?

やっぱり健康的、というよりか食べて身体が喜ぶような、じんわりと体に沁み込むような。衝撃的な美味しさとか目の覚めるようなうまさ、ではないですけど、なんとなく体にいいことしたな、って思ってもらえる料理、今日の食事は健康的だったね、って食べてもらえたらいいなと思います。

あと、料理に気づきがあったらいいなと思います。この野菜はじめて食べたとか、こういう味付けで、こういう組み合わせだからこんな味になるんだ、みたいな気づきが一皿の中に詰まってたらいいな、そしてお家でもこの前美味しかった“葉たまねぎ”を使って作ってみようとか。

カレーに出会って人生は変わりましたか?

私はカレーに出会って、カレーの自由な世界観、“こうあれねばならない”というのが無いので自分自身の生き方にも反映されたというか。人と比べたりとかこうじゃなきゃいけないとかが無くなったので、もし私とおなじような悩みを抱えている人がいたら、ちょっと心が救われるかな、って思っています。

取材協力:and Curry

東京都世田谷区羽根木1丁目21−24 亀甲新は 1F

記者:スマイラー特派員
谷口光児(テンポス広報部)