人生に大切なことは、すべてラーメンが教えてくれた。10坪のラーメン店、それぞれの戦い方

湘南地区のラーメン激戦区、と言えば平塚です。今回紹介するラーメン店は平塚市民のソウルフード・タンメンの老郷もしくは花水ラオシャン、ではなく片や塩一本で17年目の「麺肆秀膽(ヒデタン)」、もう一方は今年4月で3年目の豚骨ラーメン「麺や晴」、どちらも店主一人で切り盛りする繁盛店。2人の店主のスタイルが全く逆なのが面白く、あらためて飲食店経営を考えるきっかけになりました。

接客がきらいなラーメン店主

平塚駅北口を出て徒歩4分にある「ヒデタン」の店主、今井秀彦さんがラーメンに出会ったのは今から22年前。きっかけは給料が良かったということだが、必死に働いて5年後に独立したというが、その自分の城を持ちたいと思った理由が面白い。「ラーメン屋は接客しなくても良い商売だから」。とにかく今井さんは組織というのが苦手、まったく人間に興味がないらしい。逆に自分のやりたいことが自由にできるなら一日18時間労働、睡眠時間は僅か3~4時間の生活も全く苦にならないという。以前、人を雇って店をまかせてピーク時に一日300人が来店したこともあったが、ストレスが溜まるという理由で今は一人で黙々とラーメンを作り続けている。

博多ラーメンが好きだから

次の「麺や晴」は平塚駅から徒歩で15分ほどの住宅街の幹線道路沿いにあった。女性だけでも入りやすい、カフェ風の店内。店主の後川友晴さんに聞くと、「ラーメンの味以前に店の雰囲気、サービスを大切にしている」というのにナットク。場所柄、特に土・日はファミリーが多く来店することより、カウンターは低く、子どもでも食べやすい作りになっている。

「接客したくないなんて、ラーメン店もそんな時代じゃないと思うけど」という後川さんは福岡出身。子どもの頃から身近で美味しい食べ物だった博多ラーメンを平塚でも提供したいと「博多糟屋らーめん あかつき」で店長を3年務めたのち独立。その前は鉄板焼、焼肉と飲食一筋の人生だ。

お客様目線で考える

カウンターのみ10席でも、オープン月の200人には及ばないものの、(わけ合ってテーブル席を外したこともあるが)今でも1日160~170人は来店するという。ラーメン店の多くはオープン月をピークに、徐々に客数が減っていくのが普通だが、「麺や晴」は凹むことなく、高い来店数をキープしている。その秘訣を聞くと後川さんは「味とサービス、どちらも大事ですが、特に接客態度に気を付けています。声出しをはじめ、いつもお客様目線で考えるようにしています。」個人のラーメン店はこだわりが強いあまり、お客様の中には小さな子どもを連れていけないイメージがあるけど、ここは「この味を出したい」という後川さんの想いと丁寧な接客態度が多くのラーメンファンを引き付けているようだ。

ヒデタンの接客が気になったので行ってみた

人に興味がなく、美味しいラーメンを作ることだけが生きがいと言い切った今井さん。実際の接客が気になったので、休日に客としてヒデタンへ行ってみた。

入店すると、魚介の何とも言えない出汁のいい匂いにそそられる。そして奥から「いらっしゃいませ~」の大きな声が聞こえた。カウンターの8席はすべて埋まっており、ベンチには先客の2名が静かに着席している。券売機で鶏精湯の志那そばをチョイスしてから待つこと10分、2席空いたので着席。

聞いた通り客と目を合わそうとしないから、テンポスさんと気付かれない。というか、ラーメンを作るのに全精力をつぎ込んでいる。正直、一人ではキツイと思った。着席してから入丼まで待つこと約6分。そのあいだに「ご馳走様でした」というお客様に背を向けて「あっりがとうございましたぁ~」との威勢のいい声が店内に響く。

提供されたラーメンを食べながら考えたこと、それは今井さんが17年間毎日ラーメンを作り続けてきたという事実の重みだった。適否(それがその人に適しているか否か)で言えば、売れる、売れないよりも作り続けることが“適”、これしかないからとあきらめて流されるままに作るが“否”。「SNSとかで他人の人生についてあれこれ会話して、世の中に流されている人が多いから、オレは自分のやりたいことをやるんだ」という今井さんが7年も試作を続けているという醤油ラーメンが食べたい!と思った。

■取材協力
麺肆秀膽
神奈川県平塚市紅谷町14−26
℡ 0463-24-2421

■取材協力
麺や晴
神奈川県平塚市老松町22−8
℡ 0463-20-6255

記事:スマイラー特派員
橘田純一(テンポス湘南店)

Smiler53号 ラーメン特集