ラーメン店を多店舗展開していくために 、人の問題をどう乗り越え、顧客満足を追求していくか

2017年に「日の出らーめん」を買収したテンポスグループ。しかし「人」の問題を乗り越えられずに、あっという間に店舗は6店舗から3店舗へ。買収当初は6000万円程あった年間利益は、赤字500万円へと転落した。そこで、テンポスの代表である森下が「日の出らーめん」の再建を託したのは横田晃一氏。本対談では、「日の出らーめん」の経営を縮小させた森下と、新たなスタートを切る横田氏。そして、煮干しラーメンの代名詞とも言える「ラーメン凪」の代表、生田智志氏を迎え、ラーメン店の多店舗展開について語って頂いた。

当たり前を徹底させることが難しい

(敬称略)

 テンポスHD 代表 森下

上手くいくラーメン店とそうでない店の違いは何だと思う?

日の出らーめん 代表 横田

当たり前を、当たり前にできるかだと思います。レードルでスープ一杯をすくうにも、それを決まり通りにきちんとできるかどうか。でも、簡単な作業だけど、出来ないという子は多いですね。

 森下

そうだね。ラーメン店はオペレーションが決まれば、あとはアルバイトでも出来ると思う人もいるかもしれないがそれは違う。何が難しいかというと、決まり通りにやらせるということだ。

 凪ラーメン 代表 生田

本当に難しいです。アルバイトが変わったとたんに味が変わることもありますからね。

森下

そうそう。麺を40秒で茹でるためにタイマーを置いたとしても、時間通りにできない人が多い。40秒たったら自動で麺がポンと湯からあがればいいけど、人がやるときはタイマーを置いていても、35秒で麺をあげる人もいれば、他の作業をしていて45秒であげる人だっている。タイマーは一つの基準になっているだけで、40秒でやれといっているのに出来ない。

じゃぁ、それをどうしていくかが課題になってくるわけだ。

部下と上司は師匠と弟子の関係である

森下

オペレーションにしても何でも、部下に徹底させるためには何が必要だと思う?

生田

そうですね、昔は自主性を持たせるために、「あなたの考えは何だ」とかやっていた時もありましたけど、一向に話は進まないし、まとまりませんでした。

森下

そう。本を読むと、「全員経営だ」とか書いているもんだから、勘違いしてしまうんだよな。

生田

そうです。それに、意思決定がぶれて失敗した時に何で成果に結びつかなかったかが分からない。失敗を共有することは大切なのにそれが出来ない。だから、今は、社長の責任として意思決定していくけど、私の考えをきちんと伝える場を作って取り組んでいます。

森下

なるほど。横田さんはどう?

横田

私も「日の出らーめん」で片腕をしていた時は、本当にゴリゴリの昔ながらのやり方で怒鳴ることも多かったです。でも独立してから、人が辞めてしまう時期があって、それでもう一度最初からやってみようと。牙を抜かれたみたいに、優しく、優しくずっとやってきました。だけど、結果はあまり変わらなかった。「社長のために頑張ります」と言ってくれても、1カ月後には「他の仕事に興味をもったから辞めます」と、なってしまう。

また、「全員参加」の観点で何かを決めると、妥協した案が通ってしまう。妥協した案だから結局成果も出なかった。だから、抜本的な対策が必要だと思い、今は時代錯誤かもしれないけど、もう一度トップダウンで、「これやりなさい」と言ったら一斉に動く、という体制を作っていきたいと考えています。殴るというのは時代ではないので、普通のトーンでドギツイことを言うのが最近は良いのかなと。怒鳴るとかではなく、平気でトゲトゲしたことを言うようなイメージですね。

森下

言い方は普通だけど、内容は厳しいということか。俺の3年先を言っている。なるほどね、それ使わせてもらうよ。生田さんは、どうやって厳しくしている?

生田

そうですね、厳しくというよりは、“しつこく”ですね。「頑張ります」という社員ほど本当に頑張らない。「社長やりますよ!」という人ほどやらない。だから、今は、愚直に繰り返し繰り返し続けることを大事にしています。あと、その過程では価値観を揃えていくことが大切で、価値観を揃えるには“形”から入ることを重視してきました。

6年間、毎月必ず続けてきて社内行事として定着している「清掃状態チェック」も、目に見えることを徹底して「整理・整頓」することでまず形を揃えて、考えや思想、心を揃えてきました。8年ほど続けている「早朝勉強会」は教育の整理・整頓の場ですね。勉強会を通して会社の方針や考え、価値観を共有しています。昔は怒鳴り散らすこともありましたが、それではダメだなと思い、今はそんなやり方で上司と部下の関係を築いています。

森下さんは上司と部下の関係、どう考えますか?

森下

上司と部下の関係は「弟子と師匠」だと考えているよ。社員と考えるからダメなんだ、だから弟子である。師匠が「今日は無礼講だ食え」と言ったとしても、弟子が先に箸を付けようものならゲンコツ。「ばかやろう、無礼講と言ったからといって、俺が箸をつける前に食べる奴がいるか」とね。これが師匠と弟子の関係なんだ。

生田

理不尽極まりない、それでこそ師匠制度ですよね。

森下

そう。師匠は弟子を本物にするためには、弟子が辞めたくなるくらい厳しい修業をしないとダメ。一方で弟子は、叩かれたりするのは全て師匠が自分をプロにするためにやってくれていると思わないといけない。弟子になったつもりでどこまでやるかは自分次第。師匠は師匠であるべき姿を作りながら、自分の仕事の道を究めていかないといけないね。

「サシ飯」「サシ風呂」「全社飲み」「芋煮会」
社員との会話・社員同士の会話の場を作る

森下

幹部の働く動機は、どんな風に捉えている?

生田

まずは一つに給料があると思います。会社の年商はまだ17億程ですが、今30億を目指していて、30億になったときは、10人を年収1千万円プレイヤーにするという目標を立てています。中間計画では達成できたので、今は1千万の人は2千万へとか、もっと若い人を育てて目指してみようとか。あと、仕事のやりがいは「働く人」との繋がりが強いと思っています。会社の文化に、「サシ飯」「サシ風呂」といった一対一でコミュニケーションを取る場や、毎月必ず「全社飲み」という従業員の7割が参加する会を開催して、そこで、「最近どう?」と対話する機会を作っています。

森下さんの会社は組織が大きいですが、どうしているんですか?

森下

「芋煮会」という名前で、2カ月に1回、各店舗・各部署が自分の仕事場で料理を食べながら会話をする場を作っているよ。会社が1人800円分の食事代を支給してね。不平不満を言う人は来なくていいから、「会社をもっとこうしていこうよ」とか、「自分の人生観はこうだ」とか話す場です。ただ、この制度も親の心子知らずで、店長やマネージャーの中には、そういうのが嫌いな人がいる。それだと中身がないんだよな。もちろんこの制度をきっかけにして良いチームにしようとする部署もあるが、組織が大きくなると一応形はできあがるが狙い通りにいかない事が多い。それでも全部ひっくるめて全体を動かしていかないといけない。

横田

組織が大きくなっていくとき、どんなことに気を付ければいいでしょうか?

森下

大事なのは、組織が大きくなっても経営者が店を臨店する。店に行った時に、「こんなところにトイレットペーパーを積み上げるんじゃない。湿らないように1個だけにしろ」、そんな小さなことでも言わないといけない。見逃してはダメだ。気づいたらすぐに改善させる。これが大事。

生田

基本的なことを徹底するということですよね。

森下

そう。サラダバーがある店を臨店した時、ホイル焼きの具材はあるんだけど、何分焼いたらいいかが分からなかった。近くをぐるぐる回って探したら離れたところにPOPがあって、そこに細かく焼き方が書いてある。でも、まずPOPが遠いよ。上手な焼き方とか書かなくていいから、具材の近くに「4分焼いてください」とだけ書いたPOPがあればいいのに。お客さんが知りたいことって何だという話しだよね。一つ一つがお客様目線じゃない。だから、経営者が店を回って直接見て、これはまずいなと思ったことをその場でどんどん変えていく。いつまでもそんなことをしていると組織は大きくならないと思いながらも、でも気づいた時にどんどん変えていけばいいと思っているよ。

生田

設備を変えるとかではなく、「すぐにできることは変える」、それすごく大事ですよね。ここにあるものをこう変えれば良いとか、毎日ひとつ改善していくと、一年でメチャメチャ変わります。

森下

そう。だけど社員は、顧客満足とか普段あまり頭にないから、こうした方がいいという意見は出にくい。だから、テンポスグループでは社員でもアルバイトでも、お客様目線の観点で、自分の仕事をどう改善できるか、というのを書き出させるようにしていく。

生田

お客様目線の習慣が付きますね。

森下

そう。そして、あとは何事も「RKT-1」でやる。「R」は連絡する、「K」は決める、「T」は頼む、「1」はRKTを1分以内にやる。会議で決まったことは休憩の合間に部下にすぐに指示を出す。グズは1週間、10日とたってもやらない。

生田

仕事が出来る人、早いんですよね。弊社の文化に、2日間、先輩後輩が1日中、社長の後ろを付いて回る「カバン持ち」という制度があるのですが、できる人は「お疲れ様でした」と別れたすぐ後に、その日の感想を送ってきます。帰り道、歩きながらやっているんでしょうね。しかも、早く送った人と後から送った人の内容のレベルもほとんど変わらないんです。

森下

なるほど。「カバン持ち」いいね。ところで、生田さんは年収1千万プレイヤーを10人作りたいという話だったけど、実際にもう払っている人はいるの?

生田

はい、幹部社員はそうですね。

森下

横田さん。やっぱり俺らもそれくらいしないといけないな。

横田

夢がありますよね。

森下

俺みたいに勢いばかり言っていてもだめだな。やっぱり払うものも払わないと。今日話せて良かった。

ありがとうございました。

■プロフィール

株式会社凪スピリッツ 代表取締役社長 生田智志氏

1977年生まれ。福岡県北九州市出身。とんこつラーメン「一蘭」でのアルバイト入社を機にラーメン業界へ。2004年に独立し新宿ゴールデン街で4坪の間借り営業からスタート。創業当初は365日「日替わりラーメン」で注目を浴びる。しかしトレンドではなく本物を追求していくとうい想いからその後は「煮干しラーメン」に特化。また、2010年に香港に海外1号店をオープンし大ヒット。現在は32店舗を海外で展開する。国内は都内を中心に18店舗展開。主なブランド:すごい煮干ラーメン凪・ラーメン凪 豚王など

株式会社アルバ産業 代表取締役社長 横田晃一氏

1984年生まれ。神奈川県藤沢市出身。俳優業からラーメン業界へと転身。神奈川を中心に展開する「日の出らーめん」では本部長として店舗展開に携わる。2013年に独立し株式会社熱血を起業。家系ラーメン・つけ麺を神奈川県で4店舗を運営する。2019年からは、2017年にテンポスが買収した「日の出らーめん」の顧問に就任。2020年1月からは日の出ラーメンの代表に就任し、店舗の再建を任される。現在は、(株)熱血と、アルバ産業の代表を兼任する。

株式会社テンポスホールディングス 代表取締役社長 森下篤史

1947年生まれ。1983年に食器洗浄機メーカーを創業。本業のかたわら英会話学校の運営や、傘にフィルムをかぶせる機械の開発、回転寿司店など6つの事業に次々と手を出すも失敗。それでも「挑戦を繰り返せば、いつか芽が出る」という信念を曲げず、1997年にリサイクル厨房機販売の「テンポスバスターズ」を創業。2012年ジャスダック上場。現在、株式会社「あさくま」を含めグループ会社は18社。2019年(株)あさくま上場。上場予備軍も6社あり、1000億円企業を目指す。

記者:スマイラー特派員
乙丸千夏(テンポス広報部)
Smiler53号 ラーメン特集