外国人の行動力とアイデアが赤字店舗を立て直す 

株式会社あさくま サクセッション事業部本部長
サル ラズ クマル
SHARU RAJ KUMAR

株式会社あさくまは、「ステーキのあさくま」(65店舗)、「もつ焼き エビス参」(7店舗)、「インドネシアレストラン スラバヤ」(1店舗)の3ブランドを運営している。そのうちのエビス参とスラバヤを担当しているのがサクセッション事業部。ネパール出身のクマルさんは、赤字だったエビス参の店舗を次々と黒字化し、入社8年目で本部長に抜擢された。日本人社員を追い越す出世を遂げたスーパー外国人に話を聞いた。


当たり前のことをきちんとやる 

 「日本語学校はとても楽しくて、自慢するわけではありませんが、成績も良かったんです。ところが、卒業後に入った専門学校の授業はつまらなくて、あまり真面目に勉強しませんでした。最初はよかった成績がどんどん悪くなっちゃって、就職もなかなか決まらなかったんです。ドラマが好きでよく見ていたので、日本語の会話は得意でしたが、漢字が全然ダメで、筆記試験で落ちちゃう。そんなある日、専門学校の会社説明会にあさくまが参加していて、そこで面接を受けたら、その場で入社が決まったんです。嬉しかったです」

 あさくまに入社することになったクマルさんは、ステーキのあさくまの研修を受け、あさくまの店舗でアルバイトもした。接客マニュアルなどもしっかり覚え、ある程度のオペレーションはマスターした。ところが配属されたのは「厳選もつ焼き酒場エビス参」と言う居酒屋に勤務することになった。

モツ焼き「エビス参笹塚店」にて。常連のお客様との写真。

「居酒屋業態は、ちゃんとしたマニュアルはなく、店舗によってオペレーションが違ったり、最初はどうすればいいのかわかりませんでした。お客様を迎えるときは、『いらっしゃいませ』と言いなさいと研修では教わったのに、エビス参では『いらっしゃいませ』ではなく、『こんにちは』と言うんです。最初は混乱しました」

 クマルさんはエビス参の複数店舗で、一通り学んだ後、新しくオープンする笹塚店の店長を任される。

「約1年、いろんな店を回りました。人手が足りないので、応援スタッフとして手伝いに入る形でね。そこでいろんな経験をしたのが良かったのかもしれません。日本人スタッフに比べると覚えるのは遅かったと思いますが、店舗ごとのちょっとした違いなどを見られたことで、どうすればより良くなるのかと考えるようになりましたから」

 いろいろ回って、特に売り上げの悪い店を見て感じたのは、掃除ができていないと言うことだったとクマルさんは言う。

「言葉は悪いですが、店に入ってすぐに、汚いと思ってしまった店、けっこうありました。整理整頓ができてない。だから、応援に入って最初にやるのは掃除ということが多かったですね」

 繁盛店になるための第一歩は、当たり前のことをきちんとやることだと言う飲食店経営者は多い。その基本を、クマルさんはいろんな店を見ることで、自然に学んだのだろう。

ランチの客数を増やしたアイデア

 店長になったクマルさんが、最初にぶつかった壁は部下のマネジメントだった。 

「アルバイトスタッフは、学生が多かったので、忙しい時にうまく集められなかったり、急に休むような人がいたり、シフトを考えるのも大変でした。アルバイトの募集をかけても、なかなか応募がこない。いつも人が足りませんでした。だから私が現場仕事を頑張らなくてはいけなくて、毎日とにかく忙しかったです。店長らしい仕事は全然できませんでした」 

 人手不足が続いている状態を解消するために、クマルさんは、近所に住む知人の外国人に声をかける。居酒屋でアルバイト経験のある女性をはじめ、4人の外国人スタッフが集まった。これによって、経営は安定し始める。人材が確保できたことによって、クマルさんに、販促方法などを考える余裕ができたことが大きかった。 

「人手不足の頃は、なかなか休みもとれなくて、考える時間もありませんでした。それが休めるようになったので、苦手だった漢字も勉強して、自分でPOPやメニューを書いたりしました。おすすめメニューをPOPで押し出したりしましたね。余裕ができますから、接客もていねいにできるようになって、常連客も増えました」 

 こうして、笹塚店を繁盛店にし、スタッフも安定してきたところで、クマルさんは、他店舗の立て直しも命じられる。掃除をし、ジョッキやグラスをピカピカに磨くことから始めた。メニューを変え、月ごとのおすすめメニューや、季節のメニューも作った。気になっていた料理の提供スピードも、早く出せるように改善した。そしてネパールからの留学生など外国人を雇って、足りなかったスタッフを安定させた。売り上げはどんどん上がっていったと言う。 

「結局は、当たり前のことをすることが大事なんです。私は思いついたことはすぐにやらないと気が済まないタイプなので、毎日、朝早く行って、看板や提灯をきれいにしたり、汚れていた短冊を全部入れ替えたり、そんなことをしていました。売り上げを上げるために、定休日をなくしたり、ランチ提供を始めたり、応援に行った店の状況を考えながら、いろんな手を考えては試行錯誤をしましたね」 

 クマルさんは、一度来たお客様にもう一度来たいと思ってもらえるように接客することが大切だと語る。 

「それが、私たちの仕事だと思っています。だから、汚い店はダメだし、料理やドリンクの提供が遅いのもダメ。まずはお客様に嫌な思いをさせないことが大事。その上で、喜んでもらえるサービスを徹底する」 

 クマルさんは、アイデアマンでもある。六本木にあるインドネシアレストラン スラバヤは、ランチには100人以上のお客様が来る。そのため、席が埋まっていて、相席を嫌がって、他の店に行ってしまうお客様も多かった。4名席が多かったので、そこに一人だけと言うのはもったいないと考え、コロナ禍に使っていたパーティションを置いてみた。すると相席を嫌がっていたお客様も座るようになったと言う。パーティションにはメニューを貼って、隣が気にならないようにした。その結果、客数が増え、ランチの売り上げはさらに上がった。 

外国人雇用のポイントはコミュニケーション

 現在、クマルさんは、そうした手腕が認められ、「エビス参」「スラバヤ」業態の営業本部長に出世した。

「店長の時は、売り上げを上げるためにはどのくらいの客数が必要で、人件費や材料費はこのくらいに抑えないと、などということは考えていましたが、細かいことはあまり考えていませんでした。営業利益がどうで、経常利益がどうで、などと言われても、言葉の意味から分からなくて、出世は嬉しいのですが、勉強しなければいけないことがたくさんあって、大変です。みんなに教えてもらいながら、頑張っています」

 店長から本部長になると言うことで、はじめて幹部会議に出た時は、自分が関わっていた店舗の数字しか見ていなかったので、全店の売り上げの前年比を聞かれて、答えられなかったと言う。

「今は全店舗、見るようになりました。もっと早くから勉強しておけば良かったと後悔しています。最近は、予算見込みなども、教えてもらいながらですが自分で作れるようになりましたし、新規出店も考えて、物件を見に行くようなこともしています」

 クマルさんが引き入れたネパール人は、現在5人いると言う。すでに店長や店長候補になっている人がその半数だそうだ。外国人は、職場を気に入ってくれれば長く働いてくれる人が多いとクマルさんは言う。

写真真ん中がクマルさん。両隣も外国人スタッフの方々。クマルさんがスカウトして入社。

「外国人雇用を考えている経営者に言いたいのは、コミュニケーションを大切にしてほしいと言うこと。仲良くなれば、絶対に長く真面目に働いてくれます。日本語があまりできなくても、たいていはなんとかなります。時間はかかるかもしれませんが、しっかり教えれば、仕事はちゃんとやります。私は、通訳アプリなども使ってコミュニケーションしています。メニューにローマ字で振り仮名を振ったものを渡して、料理名を覚えてもらったりもします。日本人を雇うよりは手間がかかるかもしれませんが、慣れてくれば日本人と変わらないレベルで仕事できるようになりますから。シフトのドタキャンなどはほぼしませんから、むしろ日本人アルバイトよりも安心できます。私の実感です」


取材協力:「株式会社あさくま」名古屋市天白区植田西二丁目1410番地 052-800-7781