オリンピックを目指す人は幸せになれない

昔、1300ccの大型バイクで大阪から名古屋、仙台から新潟と4泊5日でバイクでテンポスを臨店していたことがある。その中で富山に向かう途中に「柏崎港」という新潟で有名な釣り場の漁港があるから行ってみることにした。魚を釣っている人が数人いて、その中に、軽トラの中に畳があったり冷蔵庫やちゃぶ台があるような、改造したおしゃれな軽トラが停まっていた。持ち主の親父さんに「けっこう良いものつくりましたね」というと、「ずっとこれを作りたくてね」と親父さんは答えた。その親父さんは、この春定年になり、毎日釣にきているという。若い頃から3日に1回は釣りに行くほど好きで、定年後は自分だけのトラックで毎日釣りにいくことが夢だったという。そして、念願叶って、今こうして釣りに来ているわけだ。しかし、定年からわずか3ヶ月で、「今日は釣りに行くのをやめようか」と思うようになってきたという。釣りに行くのが苦痛になってきたのだ。
なぜ親父さんは、軽トラを改造してまで好きだった釣りが苦痛になってしまったのか。親父さんは、「休みがもっとあれば・・・」「軽トラがあれば・・・」と、それらがあればもっと釣りが楽しくなると思っていた。しかし、いざ実現しても嬉しくも何ともなかった。なぜなら、親父さんは何かを獲得したら、自分はもっと幸せになれると思っていたけど、違ったからなんだ。幸せとは、今、生きている中で感じるものであって、何かを獲得して得るものではないと親父さんも気づいたはずだよ。

周囲が見たら辛いことが、本人にとっては幸せだと感じる人がいる

アスリートには2つのタイプがいる。一つは自己満足型のアスリートだ。毎週2回は10キロ走ろうと決めて、今月はタイムを1時間切ろうとか、12キロ走れるようになろうとか目標を持って、自分との戦いとして挑戦するタイプだ。昨日の自分、先月の自分と比べて記録を伸ばせたかが評価となる。しかしこれは単なる自分自身との競争であって、オリンピックに出るような人と勝負して記録を作るアスリートとは違う。このタイプは、昨日よりタイムが10秒短縮できたとか、5m高く飛べたとしても、
他者がより高い数値を出していれば評価されない。だから、オリンピックアスリートは、自己満足型のアスリートとは全く違う苦しさがある。でも、苦しいけどやる。体が故障しても挑戦を続ける。なぜなら、挑戦している自分を実感することに幸せを感じるからだ。

なぜ、オリンピックを目指す人は幸せになれないのか

人間のタイプには、今ある中で幸せだと思える人と、いつも不満足で何かを獲得したいと思っているタイプがいる。震えるほど寒いのに朝4時から釣りをする人もいれば、炎天下で熱中症になりかけながら4時間もゴルフをする人もいる。何に喜びを見つけるかは人それぞれだよな。その中で、アスリートの道を選んでいる人は、記録を作っていくことを喜びとする。だから、その人たちが嬉しいと感じることは、目標に向かって挑戦している自分を実感することなんだ。だから、銅メダルを獲得したとしても満足しない。銅メダルは世界で3番目だから、3番目だって偉業を達成したことには変わらないのに、本人は「4年後は何がなんでも金メダル!」という気持ちになっている。さらに言えば、金メダルをとったとしても、その日はケーキを食って、ゆっくり風呂に浸かったら、「次は2年連続金メダル!」と翌日にはトレーニングに行っている。無理ばかりするからほとんどのオリンピックアスリートは故障だらけだ。一般人からすれば、「なんで怪我までしてそんなに頑張るの?」と思うだろう。しかしアスリートは勝負の世界に身を置いて挑戦することに幸せを感じるんだ。だから、メダルを獲得した時はもちろん幸せをその瞬間は感じるが、次の日には、もっと上のメダルに向かって動き出す。だから、オリンピック選手は、常に何かを追い求めているから、一般的な幸せにはなれない。だけど、本人にとってはそれは不幸ではないんだ。挑戦している自分に幸せを感じるのだから。

挑戦する人には2つのタイプがいる

挑戦する人の中にも2つのタイプがいる。オリンピックアスリートのように、ひたすら今以上の目標を獲得するために挑戦を続けるタイプと、ある程度まで挑戦する人達だ。中小企業の社長の99%は、後者のタイプで、ある程度目標が達成されると、とたんに挑戦意欲がなくなり、みんな良い親父になってしまう。俺みたいに74歳になっても、「次の目標!」「次の目標!」と目が血走っているような人はほんの一握りだ。俺の場合は、アスリートが金メダルを目指すのと同じで、挑戦している自分が嬉しいんだよね。だから、テンポスが上場した時も、あさくまが上場した時も嬉しかったけど、嬉しいのはせいぜい証券取引所で鐘を鳴らして笑っている25秒の間だけだよ。次の日には、「次は2部から1部上場にしてみよう」とか、「次は子会社を3社上場させよう」とか、そんなことで頭がいっぱいになっていた。だけど、社員全員が俺みたいになる必要はない。俺は挑戦している時が幸せを一番感じるんだけど、無理にアスリートのようにならなくてもいいんだ。幸せになるとは、今、生きている中で“幸せ”だなと感じることであって、今あなたが日常生活の中で幸せを感じられているのであれば、それもあなたの人生である。
つまり、普通の生活をしている人たちは、幸せになれる場合が非常に高い。ただ幸せになるという考え方は、もっと給料が欲しい、もっと良い家に住みたい、そんな何かを獲得することではない。幸せになりたいなら、何かを獲得したいという考えは一切捨てて、今、生きている中で、「ありがたいものだよな」と思うようになることだ。「この夏は冷やしラーメンが食べられて嬉しいな」、とか一つ一つにありがたいなと思える考え方ができたときに、あなたも幸せを感じられるようになるよ。

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