焼き鳥「十七番地」をはじめ、居酒屋「赤燈」、日本酒の立ち飲みなど11店舗を展開する有限会社ジョウコーポレーション。コロナ渦の東京都で今年の春夏に4店舗をリニューアルオープンする。今後は多店舗展開ではなく個の力を高めていくことが重要だと話す代表取締役社長の常田利幸氏に、コロナに負けない飲食店の作り方を伺った。
―常田氏
入り口で濡れた傘をたたんでいるお客様がいればすぐさま駆け寄り自分が傘をたたむ。今まさに入店しようとしているお客様がいれば、絶対に間に合わないと思っても小走りで駆け寄り「いらっしゃいませ」と出迎える。大げさだと思われる方もいるかもしれません。しかし、お客様に「ようこそおいでくださいました」その気持ちを行動で示すことが大事だと思うのです。
「カタン」と箸が落ちる音がすると条件反射でパッと新しいものをお渡しできるのは、「お客様をよく見ること」これを徹底しているからです。一方で、「料理まだなんだけど、注文通っている?」とお客様に聞かれた時は、それはもうクレームだと捉え、お詫びの言葉と共にお待ちいただく間に召し上がれる小鉢も必ずサービスします。
つまり、何が言いたいのかというと何をおいても接客第一だということです。お客様と会話をする、場を盛り上げる、へりくだるわけではなくお客様を文字通り”お客様”として扱い、全力で食事の時間を楽しんでもらえるよう取り組んできました。その自負があるから人間関係が作れた常連のお客様には、お会計の時に「まだいたの?」なんて冗談を飛ばしてお客様をガハハと大笑いさせることも出来る。するとその常連様が他のお客様を、そのお客様がまた別のお客様を連れてきてくれる。創業後は面白いほど早く軌道に乗りました。そしてオープンから半年後には2号店をオープン。その後も次から次へと店舗展開。しかし多店舗展開は甘くはなかった・・・。
スタッフに自分と同じ感覚で働いてもらうこと
「商売がうまくいっていたのは、私が”商品”だったからです。だから私が抜けると、その店はすぐにダメになってしまいました。スタッフは時間通りに店を開けない、お客様との癒着、仕込み不足による品切れなど、お客様に迷惑をかけてしまうことも日常茶飯事。問題は山積みでしたね。」
飲食を始めた頃、常田氏自身も仕入れの管理がうまくいかず、お客様から頂いた注文が出せない時があったようだ。そんな情けない自分が嫌で仕方なく、お客様をガッカリさせてしまったなと悔やんだという。
「居酒屋は電卓を叩いて儲かる商売ではありません。お客様が使ってくれたお金で、私たちは家族を養い命を繋いでいます。しかし、これをスタッフにも分かってもらうには難しいことだと思います。だから腹落ちするまで何回も言い続けました。」
「何度教えても同じだよ、諦めなよ』と周囲から言われることもあったが、「もう一度だけ」「もう一度だけ」と常田氏は粘り強くスタッフと向き合った。そうしているうちに少しずつ変わってくるスタッフが増え、活躍するスタッフも現れたという。なかでも燻製と日本酒の立ち飲み酒場「189(わんぱく)」の店長は目覚しい成長を見せた一人だ。
「ドリンク出すのが遅いよと注意すれば、『いいんです、じらしてるんです』と冗談とも本気ともつかないそんな返事をする彼でした。売上も良くありませんでしたね。しかし今では、4坪の「189」の月商は150万円、週末には1日8万円を売り上げるまでに成長しました。「俺、今とても楽しいんです」と声を弾ませる彼は、とても頼もしい存在です。」
4店舗をリニューアルオープンする
新型コロナ感染が拡大する中、同社では4店舗を順次リニューアルオープンする。安心して店を任せられるスタッフも育ち、今後は多店舗展開よりも1店舗1店舗を本物に磨き上げることが大切だと考えているからだ。感染拡大の影響で客足が落ち着いている今だからこそできることともいえる。
リニューアル4店舗のうち3店舗は常田社長自らの手で店を作る。コンクリートをはつり、壁用のタイルを発注し、古材を自分で買いデザインに合わせて色味を変えるために削ることもある。時間が惜しいからと作業着にもなるツナギを5着買い今年の夏はこれで過ごすと決めている。
リニューアルする中でも肝いりの店舗は世田谷区下北沢駅から徒歩4分の「ろばた 十七番地」だ。購買意欲をそそるために、カウンターはもちろんテラス席や中2階席からも料理人の手元が見えるレイアウトにこだわった。
「食欲をそそるには文字や写真より断然、実物をみせることなんです。またお客様に見て頂くことで自然と会話も生まれます。『その料理なんですか?』と声を掛けられればしめたもの。「少し、食べてみます?」とポンと試食用にお出しします。すると大抵の方はその後に注文してくれます。あまりお財布に元気がない人でも、また食べてみたいなと次の来店の動機に繋がります。」
実はこの店舗だけは飲食専門の内装会社に依頼することにした。人気の内装会社でその会社が手がけた飲食店を都内はもちろん、福岡まで視察に行くなど事前に数十箇所を回ったという。自分で内装工事をするにしても、お願いするにしても、スタッフ教育にしても、自分が気になったことは、とことん突き詰めないと気が済まない性格なのだ。好奇心旺盛でどんどん開拓いってしまう。
「調理師専門学校を卒業後、私は好奇心から夜の世界に入りました。実は、歌舞伎町でホストを10年間やっていたんです。そこはお客様に気に入られてなんぼの世界。接客はとても苦労しましたし辛いこともありました。それでもやるからには突き詰めたいという想いで、どうすればお客様に喜んでもらえるのか、ひたすらそれだけを考え接客をしてきました。席に着くと会話で場を盛り上げながら、灰皿やグラスの交換にも気を配らなければなりません。ホストをやっていると氷が入っているお酒なら、見なくても音だけであと一口なのか、まだ半分残っているか分かるようになります。すると氷がグラスに当たる「カラン」という音で「次はいかがしますか?」と声をかけられるようになるんです。」
お客様はどんな時に不満を感じるのか、どんなことに嬉しさを感じるのか、すべては夜の仕事で学んだという。歌舞伎町で2年連続NO.1を独走するなど歴代記録を更新し「伝説のホスト」と呼ばれた彼の強さは、「飲食業界」へとステージが変われど健在のようだ。
取材協力:
有限会社JOHコーポレーション
代表取締役社長 常田利幸氏
ろばた十七番地
東京都世田谷区北沢1-45-15
TEL:03-3465-8899
乙丸千夏(テンポス広報部)