人のために尽くして、浮いてしまった男

森下篤史

28才の年
5階建市営アパートが70棟余りの、大団地に4人家で引っ越した。
一棟40世帯
トップセールスだった俺は、その棟の4人のうちの役員になった。
日曜日に、各棟の前の庭約100坪の草取りを総出でやる事になった。
役員の4人は8時30分に集まって、倉庫にある籠、草取り小手 ゴミ袋をを取りに行くようになっていた。
9時から11時まで、全員のやるようにとの事。
どう考えても、2時間はかからない
100坪を40人でやると、1人2.5坪 6畳より狭い。
2.5坪の草取りをしてみた。15分で見事に草取り出来た。
もしやと思って、倉庫に行ってみた。往復5分
籠やら小手やらの道具は、1人で運べる。
役員3人に「1人2.5坪なので、どうやっても30分いらない。自分でやってみたが15分もあれば、完璧だ。
どうだろうか、うちの棟は10時30分集合にしよう。2時間も庭にいても、やる事はないよ」
他の役員3人は「9時から11時っていうんだから、10時30分はまづいんじゃないの」
「じゃあ 9時集合にして、終わったら解散にしよう」
で話がまとまった。
「それから、倉庫に行ってみたんだけど、籠や小手は俺が運んでくるから、役員さんも他の人と同じように9時集合でいいから」
「そういうわけにはいかないよ、役員は8時30分集合になってるから。」
「いいからいいから、俺が取りに行ってくるから」
「そういう訳にはいかないよ」
当日 8時45分に行ったら、8時30分に来ていた役員3人で道具を揃えて立ち話をしていた。
バツが悪いので「俺が取りに行ってくると言ったのにぃ」などと言ってしまった。
9時になって全員集まったので、5人づつ8列に並んでもらって、
大雑把に100坪を40区画に分けた。
「皆さん自分の区画をやりあげたら今日の仕事は終わりですから、家に帰って下さい」
役員の1人が「9時から11時ってなってるから、早く帰っちゃまずいよ」
40人が「帰っていい」派と「残っていなけれゃぁ」派に別れて、収集がつかなくなった。
俺は声を張り上げて「帰りたい人は帰って、残りたい人は残って下さい」と権限もないのに、
決定してしまった。
案の定早い人は9時15分に終わり、遅い人でも9時30分には綺麗になった。
帰る人が多いので、躊躇していた人達も帰ってしまった。
後日
団地の理事が見回りに行ったら、うちの棟は誰も草取りをしていなかったと、大クレームがあったらしい。
「ちゃんとやりました」と伝えたのかと、役員に詰め寄った。
「だから終いまで居ればよかったんだ」
「やる事もないのに、居たって意味がないじゃないか」
「文句言われたじゃないか」
「ちゃんと言えばいい」
「言えないよ、森下さんが言えばいい」
「俺はその場に居なかった、あんた達がきちんと言うしかない!」
だんだん、険悪になってきた。
翌週役員3人で俺の家に来て「役員を降りてくれませんか」だってよ。
くそったれが!!

後年
堺屋太一によると、組織には、2つある。
機能体組織と、共同体組織
機能体組織は、目的達成のための組織で、会社、軍隊 消防団、合理性と効果を追求する
共同体組織は、参加することに意味がある。やり甲斐、楽しい、一体感
効率効果を追求すると、浮き上がってしまう。
頑張り屋が砂を噛んだような寂しい思いをして、しまう。

佐渡マリーナに捧げる。