新鮮な食材の宝庫・北海道で生産者との密接な関係を築いて飲食店を経営している会社がある。株式会社タフスコーポレーションである。飲食店経営の経験がほとんど無いにも関わらず、わずか30席の小さな店からスタートしたのが30年前。数々の失敗を乗り越えて現在では札幌市内を中心に6店舗を展開している。社長・田村準也氏にお話をうかがった。
120名が押し寄せたイベントが開かれたのは2016年8月21日。「pizzeria&bar PACE」で開催された「いけだのゆうべ」である。このイベントは二部構成になっており17~19時の第一部では4000円で池田牛や十勝ワインを、19~23時からの第二部では山わさびやつくね芋といったおつまみと合わおせて1カップ300円で十勝ワインが楽しめるという趣向だった。当日は地元の農家や池田町に出向している観光庁員も参加し、訪れた人たちに食材の美味しさを直接伝えながらイベントが進んだ。食材生産者の生の声を聞きながら食を楽しめるのがなによりの魅力だ。
「農家の方がお店に立って、”豚を飼っている○○です”と話している間に各テーブルに豚がドンと来る。お客様は生産者の話を聞きながら食べるんです。すると”これ、どこで買えるんですか?”などと自然に質問が出てきます。それに生産者が答えている間に、観光庁の人が池田町のチラシを渡したり!(笑)。旬の野菜や魚を生産者さんから送ってもらったり、わざわざ私たちの店まで来て頂いて、ライブイベントができるのも、3年の年月をかけて少しずつ生産者との信頼関係を築けたからだと思います。」
と田村社長は笑顔で語る。このように、生産者の方と直接コラボしたイベントができるのが強みなのだ。新鮮な食材の宝庫である北海道ならではの取り組みと言っていいだろう。
一般に飲食店が生産者と直接取引きをしようとするときに、小口梱包や配送の手間、価格の壁にぶつかることが多い。しかし、実際にやってみるとスムーズに運ぶことが多いと田村社長は話す。
「取引している生産者は、東京や大阪のレストランやデパートのバイヤーから指名買いされるくらいの方々なので、市場に出回っている食材とは明らかにクオリティが違う食材です。しかし、生産者から金額を聞いて市場よりも高かったことは一度もありませんでした。こんなに良い食材が市場で買うよりも安く手に入ります。それに、配送に手間がかかると思われがちですが私の店では生産者の方に、送れるときに送ってもらっています。ただ、一般の市場ルートと違って厳密な規格品が届くわけではないので、そこは料理人の腕の見せ所です。生産者さんとはコミュニケーションを密に取りながら、お互いにこれならOKだねという丁度良いところを探して取引きをしています」
仕入れる食材は常に一級品。他社との差別化・独自化路線を歩むためには譲れない条件なのかもしれない。
生産者と飲食店がタッグを組み、北海道の美味しい食材を消費者に正しく伝えていくことを目的としたNPO法人がある。「北海道アグリキャラバン」である。田村社長氏はこの団体の代表も務めているのだ。2016年2月27日には北海道庁とタイアップして、ウィンターグルメフェスタ2016(in 星のリゾート トマム)を開催した。イベントには250名が駆けつけ、生産者と料理人の話を聞きながらご当地食材の料理に舌鼓を打った。
アグリキャラバンの活動の一つを紹介しよう。例えば他店のシェフをトウモロコシの生産現場に連れて行き、生産者とシェフに直接会話をさせながら、価格や配送のノウハウを伝えるのだ。そのため今では他店からもよく電話がかかり「田村さん、こんな魚ないかな」と相談されることも多くなったという。適宜、生産者と飲食店とを繋いでいるのである。しかしなぜ、競合店のためにそんなことができるのかと聞くと、「相談を受けたら生産者に電話で聞くくらい簡単な話。電話一本の話じゃないですか。私に出来ることがあるならお手伝いしたいなと思っています」という明快な返事が返ってきた。もちろんその裏には、他の店には真似のできない差別化・独自化に取り組んでいるという自信が感じられた。
2013年から北海道由仁町に畑地を借りて自社農園を始めている。社員は料理が作れても野菜がどのようにできているのかを知らないため、社員教育という理由でスタートしたのだ。しかし、実際にやってみると、 土にまみれて畑仕事に没頭するうちに人間関係の垣根が取れ、職場における人間関係の活性化にも繋がった。生産者とのコラボによる差別化だけではない、自社農園で育まれるチーム力の高さが、お客様の心を掴んで離さないのかもしれない。
株式会社タフスコーポレーション
代表取締役 田村準也氏
取材店舗/pizzeria&bar PACE
札幌市中央区南4条西3丁目
TEL:011-512-0072
smiler 34号