蛭の嘆き!

実家の畑は、動物天国
村に若い衆がいなくなったもんで、はぜに干してある大豆を、猿どもが、両脇に抱えて持って行ってしまう。
90と85のじじ、ばばが、震えるかすれ声で、「コッコッコラァー」なんて怒ったって、
迫力ゼロ、90才が、歩幅20センチ足らずで、追っかけたって、さるは、驚きもしない。
噂を聞いて、鹿は来る、イノシシは来る、
俺が、庭で立ちションをしている時なんて、4メートルくらいのところに、ハクビシンが座って、こっちを見ている。
警戒感まるでなし、と言うより、俺も、森の動物として、扱われていた。
その結果、20年前までは、いなかった蛭が、畑にいっぱいいる様になった。
昼飯どき、テーブルの下に、ドス黒い小指の先の虫が、動いていた。
「蛭だ!」
浜松生まれの義兄は、「蛭だ蛭だ」と大騒ぎ、姉貴も、塩をかけろ、塩じゃぁ駄目だ、タバコの火だ、タバコ吸う人がいない、タバコを姉貴に、無理矢理やめさせられた義兄は、「だから言わんこっちゃない、やめなきゃ良かった。」
俺がティッシュでつかんで、日向のコンクリートの上に、放り出した。
蛭は、熱くて、俺の血を吸って、パンパンに膨らんだ身体から、一筋、また一筋と、血を吐き出している。元の大きさは、爪楊枝くらいのもんだから、随分血を吸ったもんだ。
「コンクリートじゃあ、熱くないから、鉄板にのせろ!」外野は口だけ、その分うるさい。
日向で十分熱くなっている鉄板の上に、放り出した。
コンクリートどころじゃない、熱くて熱くて、のたうち回っている。
外野は潰せだの、押さえてみろ好きかってをいっている。
しゃがんでいた、俺に、最後唸り声を発した。
「なぜだ‼この世に生を受けて、親から教えられたとおり、生きてきた。好い加減に喰いつくと、外れて、また一週間も食糧にありつけなくなるぞ。喰いついたら、肉の中にシッカリと食い込んで、少しくらい揺れたって、外すんじゃないぞ、外れたら、餌なしで、お前が死ぬ、吸えるだけ吸えば、ほろっと落ちるから、目一杯吸え! 引きちぎられたって、口だけは肉に食い込ませておけ、2~3日すりァ、胴体が出来て来る。
俺が何をしたってんだ、血をそれも、ホンノチョット、輸血ノ100分1にもならぬ 吸っただけじゃないか、忌み嫌って大声を出し、まるで魔性に凝りつかれた様に、大騒ぎをし、果ては、焼き鉄板の拷問にしてぇ!
人だろうと、蛭だろうと、神が作った生命の一つ。
人だけが、高いところから見て、良い虫悪い虫ときめる、人には他の命の価値を決める権利があるのかよ!」
蛭の死を見ていた蚊、虻、ゴキブリがいた。
ゴキブリが、死んだ蛭と蚊に向かって言った
「お前等ァは、いくら少ないとはいえ、人の血を吸って生きている。嫌われたってとうぜんだぁな!
よーく聴け!俺たちゴキブリは、人様に何をしたってんだ。
未だかって、ただの一度たりとも、人様に噛みついたこともない、刺したこともない、謙虚に部屋の隅を、なるべく目に触れないようにと思って、素早く走り抜ける。
真昼間は遠慮して、夜だって、一目につかぬようなるべく、くらい時に出歩くだけ。
蚊よ!お前なんぞでて来たって、蚊だ!蚊打!って大騒ぎしないだろ!
俺だちゃあな~、チョロット顔を見せただけで、家族全員が、全日本女子がマッチポイントだって時でも、テレビそっのけで、新聞丸めて追っかけ回す、娘は、最近じゃあ、なにやら、シュウット吹き付けられてイチコロだぜ。
あーあ 蛭に生まれりゃあ良かったよ。