あさくま サービスマイスター

あさくま 再生
179億だった売り上げが、30億になった時に、テンポスが再生に取り組んだ。
資金もなく、メンテナンスの資金もほとんどなかったから、全国の店は、それは其れは風情のある
面白い店になっていた。
武蔵小杉の多摩川店
トイレのノブが壊れていて、中からカギが掛からない。客はノブをもったままで、用を足さなくてはいけない。
女性は、男と比べて、身体か小さい分、ノブを持ったまま用を足すには、相当無理な姿勢を強いられる。
ガチャガチャ外でやっても、中の人はノブを掴んでいるので、中からコンコンやるわけにいかない。
恥ずかしいのを我慢して、「入ってます~」とやるしかない。
「入ってます~」の声が小さくて聞こえないので、外の客が思いっきり引っ張った。
ケツを半分出した女性が、飛び出して来た。
外の客が「きゃっ」と言って逃げて行ってしまった。
半ケツの女性は、二度目だったので、落ち着いたものだった。
この女性は、いつ、見られても良いように、あさくまにくる時は、ケツの周りの毛を剃って、クリーム付けて、照りがでるようにして、其れくらいの心構えがないと、あさくまに、来てはいけませんよ、だって!
浜松鹿谷店 敷地3000坪余のスペイン風の店 35年ほど前俺は、セールスマン時代に、チビタ バイクに乗っていた。森の奥に、瀟洒な(そんな言葉は当時、知らなかった)建物がみえた。
そばに行って、余りにもその荘厳さに撃たれ、いつか、立派な真人間になって、出所したら、あさくまで
食って見たいものだと、胸に秘め、引き下がってきた。
そのあさくま鹿谷店
35年の年月が、その変わり果てた姿を、初恋の人に晒すのは、いたたまれないようで、
「鹿子(ここは、しかこ と)さん!変わり果てたお姿 苦労なすったんでござんすねぇ」
ひじ掛けの付いた、元フカフカの椅子。
ケツに触るバネが、指圧を兼ねて、マニアには、人気
ひじ掛けは、擦り切れて、内臓が出て、立ち上がる時には、衣服の袖をはらってやらないと、ゴミが付いてくるが、そんな程度のことには、動じないあさくまシンパサイダーにとっては、
背もたれが、少しくらいねちゃねちゃしたって、ほら、よくガード下にいる乞食のジャンパーの、襟首のテカテカしたの見たことあるでしょう。
背もたれが、その襟首状態なわけよ。
だから、立ち上がる時、チョットした抵抗があるわけさ。これが、気の弱い客にとって、立ち上がろうとした時に、チョコっと背中を引っ張られる事にになるわけだから、かえろうとしても、もうヒトシナ注文しないと、かえりにくいってわけさ。
俺なんかには、考えられないような仕掛けをしてあって、179億が30億になっても、脈々と、あさくまだましいを、伝えていたっつうわけさ。
有田さんという、74歳のばあさんが、ランチのステーキを、一人で賄っていた。
「ミデアム!」なんて注文したって、手は震えているし、注文の内容なんてまるで気にして居ないから、その日の勢いで、レアになったり、ウェルダムになったりで、そんな事を気にしていたら、命なんかいくつあったって足りない。
たまに、レア!と言ってレアが出てくると、嬉しくなって手を叩いている客が、時々いた。
富士店は、今で言う、ユニバーサルスタジオ風に、それも30年も前に作ったんだから、その感性たるや、天才と言えるほどのもので、客席の真ん中に、直径3メートルくらいの、ほら、歌舞伎で使っている「せり」わかるかなぁ
そのセリに、清水アキラが、マイク片手に、「消え残るまーちあかりー」と歌いながら上がってくる、入りきれない客が、みせのそとに、100人以上も待っている。俺には思いつかないねぇ。
一斉を風靡した富士店、荒城の月を作った土井晩翠の気分だぜ。昔のひかり、今いずこ~
その富士店で3400円のステーキを、注文したのが、雨だったとするか。
だんだんあめがひどくなる、そのうちに、ぽたっぽたっとくる、店員は慣れたももんで、さり気なく、バケツのサービスをするったって、バケツを持ってこなければ、店内ビショビショになっちまうんだから、
さーびすというほどのもんでもないが。
晴れてる日に、女ときたならまだ格好はつく。
途中であめでもくると、バケツ持った店員が、走り回る。
3500円のステーキも、バケツの、ピッちゃんを聞きながら、貧乏人じゃないんだぜーと言ってやったら、
社長!京都の割烹屋にいくとあるでしょう。山水のこじゃれた庭に、竹筒を、斜めに切って、ピトピト水がたまると、カーンと音がしてこぼれる、ししおどし、あれですよあれ!
バケツの、ピッちゃんと、京都のししおどしと同じかー
うちにくるお客様は品が良い人ばかりで、ピッちゃんの中に、風情を感じる事のできる達人ばかりですときたもんだ。
こんな店を引き継いで、俺のやっことといえば、ノブを取り替えただけで、エライ感激されて、これで、20年来の腱鞘炎が治るだってさ。
毛を剃らなくなると、緊張はかけるわねぇ、と、いろんな人がいるもんです。
初年度俺のやった事といえば、ソファに白い布をかけた事と、有田さんを、洗い場に回した事くらいなもんだが、それで赤字1億が、トントンになったんだから、
偉かったといえば、偉かったんじやないの。なに!偉くない、うすうすは、俺もワカっちゃぁいるんだよなぁ。