社員への愛が足りなかったしくじり先生

節骨麺たいぞうの中川泰象です。私は高校を卒業して就職をしたのですが、目的や目標もなく転職を繰り返す日々を過ごしていました。しかし、一杯のラーメンが私の人生を変えました。ラーメンのおかげで、私は生まれて初めて人に褒められ、自分に自信が持てるようになりました。たった一杯のラーメンでお客様から「ありがとう」と言ってもらえる。お客様の「おいしかった」のたったひとことで感動できる。今、私がラーメンという職業をすばらしいと思えるのも、これまでいろいろとしくじってきたおかげなのです。

株式会社プロジェクト・ジャパン
代表取締役社長
中川泰象氏

転職を繰り返す日々

私は、高校を卒業し、就職したものの仕事に対し目標を持つことが出来ず、やりがいを感じることが出来なかったのです。当然何をやっても手につかない、仕事がつまらない。アルバイトを含めて数十回転職を繰り返す日々が続きました。しかし、一杯のラーメンがその後の私の人生を決めたのでした。

当時、私は22歳でした。トラックでコンビニの弁当配達をやっていたのです。ある日、ラーメンマニアの先輩から「イチ押しのラーメン屋があるので行かない?」と誘われました。面白そうだったので行ってみると、なんと夜の7時半に60人の行列です。私はもうびっくりして、生まれて初めてラーメン屋さんに長蛇の列ができているのを見たのです。

しかもそのお店といったら10坪ぐらいの本当に狭い店で、駅近でもないロードサイドで駐車場があるわけでもない。いったいどこからこんなにたくさんの人が湧いてくるの?というロケーションの中で待つこと2時間半、ようやく待望のラーメンがドンっと来ました。一口食べた瞬間、今でも忘れられません。な、なんだこれは!すごい美味しい!私とラーメンとの衝撃の出会いでした。

それがきっかけで、もっといろんなラーメンを食べたい、ラーメンという料理をもっと知りたい。もうじっとしてられなくて、全国のラーメン店を食べ歩きました。するとお店ごとに全く違う世界が広がっているのです。味も違う、雰囲気も違う、店舗の内装外装も違う、スタッフの接客もお店ごとに全然違う。しかし、どの店も多くのお客様が行列を成し、今か今かと一杯のラーメンを待っている姿があったのです。ラーメンの魅力をひとことで言うと、他の業態とは違った、枠にとらわれない自由な発想。そしてどんぶり一杯に自分のすべてを注ぎ込める、このシンプルさにすごく惹かれました。そして、どのお店の店長も、みんなすごく輝いて見えたのです。ラーメンってかっこいい。

この仕事がしてみたい

私は生まれて初めて、働きたい!と思いました。給料とか休日の数とかで仕事を選ぶのでなく、ラーメンの仕事がしたい。転職を繰り返しながらも、このままではヤバい。腰を据えて打ち込める、自分の人生を賭けられる仕事に巡り会いたいという願望はあったのでしょう。でもそれが何なのか、よく分かりませんでした。

そして私はラーメン店に転職をしました。そこで出会った私の師匠となる大ベテランの先輩がゼロから私にラーメンの仕事を教えてくれました。体はしんどかったが、毎日がなるほどの連続で仕事が楽しくてしかたなかったのです。

先輩は、「お前、こうやるんだ。そうじゃない、こうだよ」とつきっきりで教えてくれました。すると一ヵ月も経たないいうちに、「お前、もう出来るわ。」と言ってくださり私を認めてくれたのです。仕事で初めて褒められたのでした。何よりも仕事を任せてもらえたことがうれしかった。そして、自分に自信を持つことが出来た。

私は仕事で怒られたことは何度もあったのですが、褒められたことは一度もなかったんです。当然ですよね、やる気ないんですから。それが生まれて初めて褒められた。めちゃくちゃ自分の中で嬉しいやら、こんな自分を認めてくれた。自分で自分を認めた瞬間と言うか、俺すげーじゃんみたいな。

現場を任せてもらって店を回せるようになってから、夜遅くまで働き、月1400万の売り上げをあげていたのです。想像以上に忙しかったです。しかし自分が店を回している、この自信とお客様に自分が作ったラーメンを食べていただいて、「うまいな!」。という声を聞くたびに、私は、すごく嬉しい気持ちと、お金だけでは買えない、代えがたい充実感がラーメンにはあることを知りました。

毎日厨房に立ってラーメンを作る、そしてお客様から「おいしかった」と言ってもらったときの何とも言えないワクワク感。ラーメンってほんとうに素晴らしい職業だと思えてきました。なぜなら、お客様から感動をいただいているような毎日でしたから。そんな日々を繰り返せば繰り返すほど、さらに自信がついてきました。よし!自分の店を出そう。

お客様が来ない

自信満々で出した店の一年目は赤字でした。池袋の一等地なのに、行列どころかお客様が来ない。

ラーメンを作るプレイヤーとしては良かったんでしょう。しかし一従業員としてラーメン業に携わるのと経営するのとでは全く違いました。今までは目の前のお客様に美味しいラーメンを出すことだけを考えていればよかったのですが、経営という仕事もやらなければいけません。

当時の店は本当に無茶苦茶でした。11時オープンなのに私の知らないところで平気で午後2時から営業する。スタッフが寝坊して仕込みが追いつかなくて店を開けられない。そんなことが日常茶飯時に起きていたのです。そしてチャーシューやメンマの仕込みは全て自分たちでやっていました。ですからお客様には目もくれず、ひたすらラーメンを作っている。ひたすら仕込みをやっている。スープが切れたら次のスープ、その次はチャーシュー。早くチャーシューを作れ!私は全くお客様のほうを向いていなかった。ことに気づきました。そこで私はふと、考えました。

おいしいって何だろう?

私はラーメンが大好きで、どちらかと言うと味一本で勝負だ!そういう考え方のお店ばかり回っていました。そういう店に憧れていたのです。しかし、よく考えてみるとお客様って何に対してうまいを感じるか?と言うと舌(味覚)だけじゃなくて、鼻(嗅覚)、耳、聞こえてくる(聴覚)。そして触れるとか暑いとか寒いとか(触覚)。この五感が満たされた時に、お客様はおいしいと感じるんじゃないかって。

考え方がスパーンと定まれば、次に誰に何を売るのかということを考えました。私の店はどちらかと言うと行列ができるラーメン屋、世の中のどこにもないようなラーメンを探し求めているようなひと達、そんな人がターゲットのお店でした。しかし、私が本当にやりたいお店は、誰もが安心して誰もが好き嫌いなく週に2回でも3回でも食べていただける、そんなお店でした。一人でも多くの人に利用してほしいというのが自分の夢のど真ん中にあったのです。

私は、商品づくりとかお店作りを一からやり直しました。どういう味付けで?ボリュームで?盛り付けは?メニュー構成は?接客は?その人たちが喜ぶサービスとは?どうすれば喜んでくれる?

すると、すべてが変わりました。まずは外観を入ってみたいと思えるようなインパクトのあるデザインに変えました。店内ももっと活気や賑わい感が出るように赤いのれんを吊るし、こういう想いで仕事をやってますとグループ理念を店内に貼ってみたりとかですね。あとは徹底的にスタッフの教育。マニュアルを作って徹底的に接客の研修をし、調理マニュアルも作って盛り付けの研修もやりました。

捨てるものもありました。今までは手作りにこだわっていたのですが、いろんな工場を回ってみてわかったのですが、手作りでやってくれる工場もあるんです。我々のレシピ通りに手作りでやってくれる工場を探し出すまでは結構大変でした。でも、今の工場と出会えたことは大きな前進でした。まず、スープの仕込みがなくなり、チャーシューも今では温めるだけです。レシピ通りにきちんと作ってくれる業者が我々の代わりに働いてくれています。その時間を我々は何に回したか?当然お客様へのサービスです。

そして私はフランチャイズ事業を始めました。これまでは直営4店舗でやってきましたが、フランチャイズ展開でこの2年半で14店舗増えました。

#太字

ありがとうの数を日本一集められるラーメンチェーン店になる

私にはビジョンがあります。「ありがとう数日本一」と言う夢を持っています。ありがとうの数を日本で一番集められるラーメンチェーンになろう。これが私のビジョンです。なぜ、このビジョンが生まれたかと言うと、最初のラーメンとの出会いの話に戻るんですけれども、心もお腹もわずか650円でこんなに満たしてくれたラーメンに対して僕は素直に「ありがとう!」って言ったんです。ありがとう!また来るぞ!って。だから僕が経営するお店に来るお客様にも、僕が体験したのと同じ思いをしていただき、そして帰っていただきたい。そういう思いから私は節骨麺たいぞうグループを日本一たくさんありがとうを集められるラーメングループにしたいと思ったのです。「ごちそうさん」、「美味しかったよ」、これも全部ありがとうです。無言でもいいんです、また来ていただいたらこれもありがとうをいただいたのと同じです。

しかし、会社が口にしたことは具体的な計画として、全てにおいて明確にしなければなりません。言葉ではありがとう数日本一だ!と言っても、では実際にどうなったらありがとう日本一で、どうやってありがとう日本一へと進めていくのか。私はこういった細かいことまで提示してあげなければならなかった。

社員の離職

会社というのは2歩進めば1歩下がって、3歩進んだらまた2歩下がっていく。直営店経営だけであれば、直営店のことだけ集中することができます。しかし、「ありがとう数日本一」を掲げた私は、その目標に向かって新たなことに取り組まなけらばならなかった。試行錯誤しながらの経営は、社員への細やかな気配りや心配りが疎かになっていたのかもしれません。

親は愛があるから子どもを叱れるし、愛があるからしっかり見てあげられる。だから私の最大のしくじりは社員に対する愛が不足していたことでした。社長から受けた愛で社員は動くのです。親からの愛に育まれた子どもは、親といっしょに良い家庭が築ける。私はビジョンに向かって邁進することが優先になり、自分が愛を与えてないことにすら気付かなかった。だから社員は辞めていったと思うのです。

そんな時に支えてくれたのは、自分を信じて残ってくれた社員と家族でした。私がやりたいこと、私の社員への想いや反省を全部知ってますので、いい会社を作ろう!みんなが本当に幸せになれる会社を作ろう、ということで共に頑張ってくれています。会社経営は30期が節目だと言われています。当社は今期16期目なんです。いわゆる折り返し地点。

今回、新しい社員も入ってきて、第二創業期が始まりました。曖昧なコミットメントにはあいまいな成果しか出ません。

ありがとうの数は客数でカウントします。我々は年間で6000万人のお客様にご利用いただくことを目標にしています。そのために今年一年何店舗出店して3年後にはどうなっているか。毎年経営戦略をキックオフ会議で発表しています。

また「ありがとう数日本一」を目指すには、まずは既存店の地域一番店を目指すこと。この各店舗ごとの集客目標を高くして、どれぐらいのありがとう数を集められるか。まずは店舗数よりも一店舗のありがとう数のをみんなで一所懸命上げていこうとしています。

新しい旅立ちにあたり、すべてを明確に約束していく。社員との約束、お客様との約束、加盟店様との約束。これらをすべて明確にしていきます。

これからも社員や加盟店様にラーメンという仕事の魅力を伝えていきながら、お客様に感動していただけるお店を創っていきます。

これで、わたしのしくじりの話を終わります。

ありがとうございました。

(編集部注)

しくじり先生として登場していただきましたが、節骨麺たいぞうの実績もご紹介します。

2016年、FC加盟店として、西日暮里店はラーメン店から業態変更しました。変更前は平均月商約220万円だったのが、オープン月はなんと月商643万円!約3倍の売上を上げました。そのほかにも多くの実績があります。

株式会社プロジェクト・ジャパン
Tel. 03-3980-6463
http://taizo-ramen.jp/