伊勢原市の人気店が新たに3店舗同時オープン 林けんすけ氏が明かす、個人店の戦い方

2019年5月のGW明けに、林けんすけ氏は伊勢原市に新たに3店舗を同時オープンさせる。現在運営している「旬菜旬魚びび」が一か月先まで予約が埋まる超繁盛店とはいえ、チェーン店を展開する企業でもない一店舗のオーナーが、まったく業態の違う3店舗をしかも同時にオープンできるのはなぜか。これまでの居酒屋の常識を覆す「旬菜旬魚びび」の戦略をオーナーの林けんすけ氏に聞いた。

2年間のニート生活で戦略が決まった

予約しないと入れない、伊勢原市で超人気の居酒屋「旬菜旬魚びび」の人気の秘密とは?食材の鮮度にこだわった豪快な宴会料理にも関わらず客単価が4,000円というから、これは繁盛するだろうとオーナーの林けんすけ氏に聞くと意外な答えが返ってきた。「いえ、うちの売りはスタッフ、接客ですよ。ウチのスタッフの元気の良さはハンパないですから。」

実は、けんすけ氏は「旬菜旬魚びび」を開業する前に、伊勢原駅南口で居酒屋を弟と2人で3年間やっていた。「それなりに繁盛していたのですが、25人のハコに限界を感じて、店は弟にまかせて自分は仕事もせずに2年間毎日のように飲み歩きのニート生活を送っていたんです。毎日飲み歩いていると、居酒屋にも、サービスの良い店、悪い店が存在するのがわかりました。なるほど店が繁盛するには必ず理由があるんだなって。」そこでけんすけ氏は寿司屋、高級レストラン、庶民的なイタリアン、全国とにかくいろんな土地で飲み歩いた。すると土地によって繁盛する業態が違うこともわかった。伊勢原は個人店の多い街、しかもお客さんは常連ばかり。だったら常連以外の新規の客を獲得すれば強い店が作れる。「自分がやりたいのはB級グルメで庶民的だけれど上を目指す居酒屋なんです。そんな店で大切なのは料理、接客、空間のバランスだと思いました。料理が美味しいだけではダメ、接客態度と空間がマッチしてなければ中途半端。この3つをうまくバランスを取るのが大事で、自分がなんでもやるのではなく、それぞれに専門を置いて自分は裏方に回ろうと考えました。」

壁が最高のサービスを提供する

お店を繁盛させるには、人でお客を引き寄せるか、お店の評判で人が集まるかのどちらかだ。しかし、伊勢原ではまず人に客が付かなければ店も評価されないだろうと、けんすけ氏はお店の顔になる人を探し始めた。「敢えて伊勢原以外の人、この街で誰も知らない人を看板にしようと思いました。そうしないと常連ばっかりになって結局新規のお客が取れないんですよ。結局、看板息子を探すのに一年かかりましたけど。」

その看板息子はとにかくお客の心をつかむのに長けていてしかもイケメン。そしてけんすけ氏とのフィーリングも合っていた。なんとか物件も決まり、とびきり美味しい料理を作る料理人はすでにいたので、いよいよ「旬菜旬魚びび」のオープンに向けた空間づくりに取り掛かった。実は、けんすけ氏はニート時代にチェーン店も徹底的に研究していた。「人がチェーン店に行くのはなぜだと思います?ボクは安心感だと思うんです。店員に干渉されないから安心して入れるんだと思うんです。逆にカウンターからおやじが店全体を見ているような店って入りづらいじゃないですか。入った途端に一斉にこっちを見るあの常連さんの視線がボクは気になっていたんです。」だからけんすけ氏はワンフロアのカフェだった広い空間をカウンターと個室、そして宴会用の座敷の3つに分けるために敢えて壁を作った。「飲食店の中でも特に居酒屋は空間を売る商売ですよ。非日常的な空間でいかに楽しんでもらえるかにかかっているんです。」では壁で仕切ってもサービスレベルを落とさない接客をけんすけ氏はどうやって実現したのか。

理想は学校の部活動

今、飲食業の人手不足は深刻で特にチェーン店には人がいない。干渉されない反面、オーダーしてもなかなかドリンクが出てこない。そこでけんすけ氏は、他店より圧倒的に人件費をかけることにした。時給を上げるのではなく人を増やすのだ。「うちは85席に対して学生アルバイトが平日でも15〜20人、金、土、祝日(日曜日は休み)は多い時で25人のシフトを組んでいます。とにかくスピード重視です。多い時で1日3回転しますので、ドリンクを1秒でも早く出すことと、お出迎えとお見送りを徹底するために常に入り口を誰かがチェックしています。そのためにフリーのスタッフを必ず2人入れるようにしました。電話対応だけでなく、アルバイトのフォローなどが主な仕事です。すると手が空いた人も必ずフォローに回るようになり、みんなで助け合って盛り上げていく、そんな職場になりました。」けんすけ氏は学校の部活動のようにやりたいと言う。だからバイトがバイトに仕事を教えるのが当たりまえ、ホール責任者はコーチというより現場監督。みんなで助け合いながら働くアルバイトの姿を見たお客さんからウチの娘を働かせてほしい、とお願いされることもしばしば。ここ2年ほどは募集広告を出すことはなく、すべて口コミだけでアルバイトが集まるという。

3店舗を同時オープンする理由

5月のGWを過ぎた頃、けんすけ氏は南口に居酒屋、鉄板焼、焼き鳥屋の3店舗を同時にオープンさせる。それには腕のいい2人の料理長がいたことと、勝負をかけたいと思わせる人物との出会いがきっかけだった。「とにかく数字に強いんです。焼き鳥は焼けなくてもズバ抜けて経営能力に優れた彼に店を任せるとどんな焼き鳥屋になるのか、彼の可能性に賭けたいと思ったんです。別に失敗しても構わない。全ては勉強の場だと考えていますから。それより伊勢原の北口に人が集まっているのを、3店舗同時オープンという話題を提供して南口に新たな人の流れを作りたいんです。」神奈川県に憧れて生まれ故郷の岐阜を飛び出したけんすけ氏は伊勢原の地で大きく成長しようとしている。

会社情報
旬菜旬魚びび
神奈川県伊勢原市伊勢原2-5-5
TEL:0463-79-8280

記者:スマイラー特派員
谷口光児(テンポス広報部)
smiler 47号